2024年11月29日更新
ECHAの統合規制戦略はデータ生成、懸念物質グループの特定、および規制措置の迅速化を目的として、2015年に開始されました。この戦略の目標は、規制リスク管理やデータ生成の優先度が高い登録物質と、規制措置を追加する優先度が低い登録物質を明確にすることにあります。近年は「統合規制戦略 2019-2023」のもとで活動が行われており、各年において年次報告書が公表されています。「統合規制戦略 2019-2023」の名称で分かる通り、統合規制戦略は2023年が一つの節目であり、2023年の活動を受けて公表された「統合規制戦略の報告書(2024年版)」は過去5年間の成果と今後に向けた内容となっています。本コラムでは2回に分けて「統合規制戦略の報告書(2024年版)」(*1)についてご紹介いたします。
◆統合規制戦略の策定背景
統合規制戦略が策定された背景は、100トン以上の高生産量物質の登録期限が終了した際に直面した2つ課題を発端としています。この2つの課題は、「登録書類の情報要件の遵守レベルが低い」および「規制リスク管理の必要性を評価するための情報が不十分で、規制リスク管理の候補物質を特定することが困難」という内容であり、統合規制戦略は特に社会的にも影響が大きい高生産量物質を中心とした知見を増やすことでこの2つの課題に対処するというところを目指して策定されました。
また、策定するにあたり対象となる物質が広範囲にわたることを踏まえ、戦略を効率的に進めるためにREACH規則およびCLP規則などに基づく複数の規制プロセスを統合することがポイントになると位置づけています。
「統合規制戦略2019-2023年」の期間内で行われた特徴的な取り組みとしては、個々の物質からグループでの作業に重点を移したことがあげられます。このグループ化作業は、関連物質の特定、優先順位付け、リスク管理措置の迅速化を目指したもので、当コラムでも過去にその方法と効果について取り上げています(*2)。
◆「統合規制戦略2019-2023年」の活動と成果
「統合規制戦略の報告書(2024年版)」では「統合規制戦略2019-2023年」の実績として、高生産量物質のほとんどがスクリーニングされ、以下の3つに分類できたことをあげています。
(1) (潜在的に) 規制リスク管理措置が必要
(2) データ生成が必要
(3) 現在それ以上の規制措置の必要なし
また、項目別に以下の4つを成果としてあげています。
(i)REACH規則に登録されている物質に関する知見の向上
2023年12月時点で2018年12月に4,100 種類以上あった年間100トン以上で登録された物質の90%以上が評価済みとなり、残りの約400物質についても、 2024年末までにこれらの物質をスクリーニングする見込みとしています。多くの物質を評価済みとできたのはグループ評価による成果であり、グループ評価は、年間100トン以上の物質だけでなく、グループ内の年間100トン未満で登録されている物質の理解を深めることにも貢献しています。
(ii)物質群の規制ニーズの評価を通じて6,000以上の物質のスクリーニングが終了
成果の2つ目としては、規制上のリスク管理措置が必要となる可能性のある物質のスクリーニングが大幅に加速されたことをあげています。2023年末までに、240の物質グループを評価し、合計で約6,300の物質をカバーし、当初「未割り当て」プールにマッピングされていた年間100トン以上の物質(約1,900物質)のほぼすべてがスクリーニングされていることになります。その内訳は評価した240のグループのうちグループ内の少なくとも1つの物質について規制リスク管理の潜在的な必要性が特定されたのが147グループです。また、EUレベルでさらなる規制リスク管理の必要性は予想されないとしたのが80グループあり、残りの13グループはデータ不足などで未判断の状況となっています。
個別の物質で見た場合、スクリーニングされたすべての物質(約1,900物質)の約30%が、 主に調和のとれた分類と表示および/または制限を含む規制リスク管理を必要とする可能性があるに分類されました。これらのうち65%は関連するデータを生成により規制上のリスク管理措置の必要性の確認が必要であり、残りの35%(約700物質) については、規制上のリスク管理に進むのに十分なデータがすでにあるという位置づけとなっています。
(iii)規制リスク管理を可能にするためのデータニーズの特定とデータ生成の強化
統合規制戦略による活動により、物質グループのスクリーニングを進めたことで、規制リスク管理が必要となる可能性のある多くの物質について、既にあるデータと判断に必要なデータとの間にあるギャップの特定が進んでいます。このデータのギャップを埋めるためのデータ生成は、共同評価行動計画 (JEAP)と連携して行われ、統合規制戦略の活動から得られた優先順位付けのもと、年間300件実施されています。JEAPとの連携によりこれまでの期間に約1,200の物質についてコンプライアンスチェックの決定案を送付するという成果が得られています。
(iv)協力と透明性の向上
ECHA、加盟国、欧州委員会間の良好な連携は、統合規制戦略の実行に不可欠な要素となります。これらの組織の連携を強化し促進するために、ECHA はリスク管理および評価プラットフォーム22 (RIME+) を設立し、当局間が意見を交換し、リスク管理のアプローチに関する共通理解を深めることに貢献しています。その他にEUの規制リスク管理のための物質(グループ)に関する調整と連携を促進し、透明性を⾼める効果的な支援ITシステム(公共活動調整ツール(PACT)を含む)を開発•強化したことも成果としてあげています。
◆最後に
「統合規制戦略 2019-2023」において、高生産量物質に関する規制ニーズ評価は大きく進展しました。特にグループ評価は、物質のスクリーニングが大幅に加速させ、その考え方は「PFAS類の制限提案」や「ビスフェノール類の制限提案」などの規制措置にもつながっています。「統合規制戦略 2019-2023」には過去5年間の成果とともに、現状の課題および今後の展望も記載されています。次回はこの現状の課題および今後の展望について取り上げてみます。
(*1) 統合規制戦略の報告書(2024年版)
(*2) EU ECHA統合規制戦略年次報告書2021年版について
(長野 知広)
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