top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

豪州の工業化学品法―その2・工業化学品の導入の分類および評価

執筆者の写真: tkk-labtkk-lab

2024年12月11日更新

前回(その1)では豪州の工業化学品法(Industrial Chemicals Act 2019、以下法)1) の全体概要、インベントリーおよび登録について述べましたが、今回は工業化学品の導入の分類および評価について解説します。


4. 工業化学品の導入の分類

豪州では工業化学品の導入(輸入または製造)は、法第3部第24~30条の規定により以下の6つのカテゴリーに分類されており、各々に必要な手続き等が異なります。

したがって導入者が前回で説明した登録を行う際には、自身の行おうとする導入がどのカテゴリーに属するかを確認することが重要ですが、それを判断するためのガイドラインがあります。2)

なお(1)および(2)は、導入に際して事前申請等は不要です:


(1)収載物質導入(listed intriduction)

導入しようとする工業化学品が豪州工業化学品インベントリー(Australian Inventory of Industrial Chemicals:AIIC)3) に収載され、かつ同リストの各工業化学品に対し規定された許容量、場所等の導入に伴う要件を満たしている場合。


(2)免除導入(exempted intriduction)

工業化学品の人の健康や環境に対するリスクが非常に低い場合に適用可能な導入で、具体的な要件は報告導入と共に同法の下位法令である工業化学品(一般)規則(Industrial Chemicals (General) Rules 2019、以下規則)4) の規定によります。

例えば、豪州の港や空港に入荷したがその全量が国外へ輸出されるもの、研究開発用途のみに使用されるもの、AIICに収載済みポリマーとの同等品等があります。


(3)報告導入(reported intriduction)

工業化学品の人の健康や環境に対するリスクが低い場合に適用可能な導入で、具体的には規則中に規定されていますが、例えば人の健康および環境に対するリスク評価が国際的になされたもの、それらの一方が国際的になされているが、他方はなされていないもの等があります。

報告導入前には事前報告書の提出が必要とされますが、それに含まれるべき情報等の要件は法第97条の規定によります。


(4)評価導入(assessed intriduction)

AIICに収載されておらず、人の健康や環境に対するリスクが中程度から高い場合に適用可能な導入で、適用を受けるためには申請書提出の上、AISIS事務局長(Australian Industrial Chemicals Introduction Scheme(豪州化学品導入機構) 以下事務局長)より交付される評価証明書を取得しなければなりません。


(5)商業的評価導入(commercial evaluation intriduction)

工業化学品の商業的利用の可能性の確認を目的とする場合に適用可能な導入で、適用を受けるためには申請書提出の上、事務局長より認可を取得しなければなりません。認可期間は最長4年間です。


(6)例外的状況導入(exceptional circumstances intriduction)

工業化学品の導入が人の健康や環境に対するリスクが重大、あるいは国家非常事態宣言に関連する場合に、保健省大臣による事務局長との協議を踏まえた認可による導入で、その関連情報はAISISのウエッブサイトに掲載されます。

なおいずれのカテゴリーでも導入を実施した登録者は、各登録年度中に導入した工業化学品、その導入カテゴリー、そのカテゴリーを決定した根拠、支払登録料金額等の記録を登録年度終了から5年間保持することが求められています。(法第104条)


5. 工業化学品の評価

法第4部第68~78条では事務局長による工業化学品の評価について定めています。

工業化学品の評価プロセスには、以下の2通りがあります:


5.1 評価証明書に従うもの

前節で述べた評価導入の実施に伴い必要となるもので、法第69~73条に具体的に規定されており、申請に基づく評価証明書交付後、その導入に対する人の健康や環境に対するリスク評価を実施、評価書を作成し、それを評価証明書保有者に交付すると共に、AICISのウエッブサイトに掲載します。

なお評価証明書の発行された工業化学品は発行5年経過後にAIICに収載されます。


5.2 評価証明書以外の理由に基づき行うもの

法第74~78条の規定によるもので、工業化学品あるいは化学品群について、それらの人の健康や環境に対するリスク、ばく露状況、使用等に関して評価するものです。

その過程で事務局長は、関連機関や個人に対し必要な情報提供を求めたりパブリックコンサルテーションを実施することができます。

そして評価結果に基づき評価書が作成され、AICISのウエッブサイトに掲載されます。

こうした規定に基づき、化学物質評価のローリングアクションプランが進められています。これは化学物質評価の戦略的アプローチとしての作業計画で、評価対象物質候補に対し、その危険有害性およびばく露に関する情報を基にこれらの評価の優先順位付けを行うものです。

ここで評価を行う対象には、AIIC収載物質、免除・報告・評価・商業的評価の各カテゴリー物質の他、これらカテゴリーの要件のいずれにも該当しないものを導入する場合が含まれるとしています。

そしてその具体的な内容は評価ロードマップ(Evaluations Roadmap)としてまとめられ、公表されています。5)

これは2021年9月に公表され、目標として2024年6月末までにAIIC収載物質のうちその時点で利用可能なリスク評価がなされていないものの少なくも20%、2030年末までには残された高懸念物質を評価するとしています。

評価対象物質は定期的に見直され、コンプライアンス関係情報や新たな利用可能な情報等を織り込んで、効率的かつ一貫性のある進め方をしていくとしています。

それらの評価のポイント(人の健康への有害性、環境への有害性、または双方)や進捗状況(評価中、パブリックコンサルテーション中、または、評価完了)は適宜公表されており、本年10月には計337物質についての最近の状況が示されています。6)


おわりに

以上、2回にわたり豪州の工業化学品法について、その基本的な規定内容を解説しました。

日本企業の場合、主に化学品の輸出者として、導入のための手続きは直接行わないケースが多いと考えられます。しかし収載物質導入や免除導入以外では輸入者側で所定の事前手続きが必要なため、それに必要な情報提供を求められる可能性があります。必要な情報は導入のカテゴリーにより異なるので、こうした場合には具体的に必要な情報を十分確認して対応することが必要です。


参考URL






閲覧数:391回

最新記事

すべて表示

POPs条約の化審法への反映とその最近の動向

2025年01月17日更新 はじめに ダイオキシン類、PCB(ポリ塩化ビフェニル)、DDT等の有機物質は、難分解性、生物蓄積性、毒性、長距離移動性といった性質を有し、残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants:POPs)と呼ばれています。...

ECHA執行情報交換フォーラムの2024年の執行調査状況

2025年01月10日更新 欧州化学品庁(ECHA)の「執行情報交換フォーラム(フォーラム)」では、各加盟国における執行の調和を図り、産業界における特定の義務に関するコンプライアンスレベルを確認することを目的に、「REACH規則執行プロジェクト(REACH-EN-FORCE...

統合規制戦略の報告書(2024年版)について(その2)

2024年12月25日更新 前回のコラムでは「統合規制戦略 2019-2023」の総括として主な成果について紹介しました。今回はこれまでの活動を通じてみえてきた統合規制戦略の課題と今後の展望についてみていきたいと思います。 ◆統合規制戦略の課題...

Comments


bottom of page