当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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TSCA第6条とPBT物質の禁止規則

2021年03月13日更新

米国の化学物質規制の中心に位置づけられる有害物質規制法(TSCA)1)ですが、2016年の大改正によって、最も強化された事項として第6条に関する事項が挙げられます。 この第6条の改正内容に関連して2021年1月に難分解性、高蓄積性、毒性(PBT)を有する5物質に対する規則が官報公示されました。


今回は5種のPBT物質に対する規則の概要と、今後の規則化に向けたリスク評価等の取組状況についてご紹介します。


1.TSCA第6条(h)に基づく5種のPBT物質に関する規則

官報公示された5種のPBT物質に関する規則は、2016年改正によって新たに設けられたTSCA第6条(h)に基づくものです。 第6条(h)はPBT物質について迅速に規制化を図ることを定めており、2016年6月から3年以内に第6条(a)に基づく規則を提案し、提案から18カ月以内に最終規則を官報公示するよう米国環境保護庁(EPA)に求めていました。


これを受けてEPAは2016年に対象とする5物質を特定し、2019年7月に規則案を公表し、2021年1月に最終化されました。 これらの規則によって、物質およびそれらの物質を含有する混合物や成形品が禁止されることになりました。

対象物質および物質ごとの主な禁止対象は次の通りです。


【デカブロモジフェニルエーテル:DecaBDE(CAS番号1163-19-5)】2)

DecaBDEは臭素系難燃剤の1種であり、電気製品や繊維製品、その他プラスチック製筐体等の難燃剤として使用されています。 しかしながら、EU RoHS指令やストックホルム条約附属書A(廃絶対象物質)の対象であることから、すでに世界的に禁止されている物質です。


今回の規則によって、DecaBDEおよび同物質を含有する混合物や成形品について、2021年3月8日以降は製造・輸入や加工が禁止され、2022年1月6日以降は流通も禁止されます。 ただし、接客業で使用されるカーテンや、原子力発電所施設の電線・ケーブル、航空宇宙用機器の部品、自動車交換部品などについては、適用時期に猶予期間が設けられ、また、DecaBDEを含有するプラスチックのリサイクルのための加工や流通は除外されています。


【リン酸トリアリールイソプロピル化物:PIP (3:1)(CAS番号68937-41-7)】3)

PIP (3:1)は潤滑材やグリース、工業用コーティング剤、接着剤、プラスチック 製品の可塑剤や難燃剤などとして使用されています。

今回の規則によって、PIP (3:1)および同物質を含有する混合物や成形品について、2021年3月8日以降は加工や流通が禁止されます。 ただし、接着剤やシーラント、写真印刷用品については適用時期に猶予期間が設けられ、また、PIP (3:1)を含有する潤滑油やグリース、自動車や航空宇宙用機器の部品等の加工や流通は除外されています。


【2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール:2,4,6-TTBP(CAS番号732-26-3)】4)

2,4,6-TTBPは燃料等の添加剤や、自動車や機械のメンテナンス用オイルや潤滑剤に使用されています。 同物質については、化審法の第1種特定化学物質に指定されているため、日本国内では従来から禁止されている物質です。

今回の規則によって、35ガロン未満の容器で、2,4,6-TTBPを0.3wt%超含有する同物質および混合物の流通が、同物質を0.3wt%超含有する燃料添加剤および潤滑剤添加剤としての使用を目的とした加工および流通が2026年1月6日以降禁止されます。


【ペルクロロブタ-1,3-ジエン:HCBD(CAS番号87-68-3)】5)

HCBDはトリクロロエチレンや四塩化炭素の製造副産物として生成され、廃燃料の燃焼時に用いられるハロゲン化脂肪族炭化水素として使用されています。 しかしながら、同物質についてはストックホルム条約附属書A(廃絶対象物質)の対象であることから、すでに世界的に禁止されている物質です。

今回の規則によって、HCBDおよびHCBDを含有する混合物や成形品の製造・輸入、加工、流通が2021年3月8日以降禁止されます。 ただし、塩素系溶剤の製造時における非意図的な生成や廃燃料として燃焼させるための加工や流通は除外されています。


【ペンタクロロベンゼンチオール:PCTP(CAS番号133-49-3)】6)

PCTPはゴムの加工助剤(しゃく解剤)として使用されています。

今回の規則によって、PCTPおよびPCTPを1wt%超含有する混合物や成形品について、2021年3月8日以降は製造・輸入や加工が禁止され、2022年1月6日以降は流通も禁止されます。


このように今回の5種のPBT物質に対する規則では、2,4,6-TTBPを除き、成形品も対象となっており、また、PIP (3:1)やPCTPのようにEU REACH規則の認可や制限といった規制の対象外の物質も含まれています。

ただし、これら規則の段階的な施行が開始された3月8日にEPAはこれら規則の見直しを行うため、次の点についての意見募集を行うことを発表7)しました。

・これら規則によって健康や環境への影響を十分に減らすことができるか

・これらの規則に対して追加的な施策や代替施策を検討する必要があるか

・電気電子製品等の多くの成形品にPIP (3:1)が含有しており、サプライチェーンの混乱を招くとするPIP (3:1)の規則公表後に寄せられた意見について


特にPIP (3:1)を含有する成形品については、対象範囲の見直しや適用時期の延長が改めて検討されることになり、新たに適用時期が決定されるまでは、PIP (3:1)を含有する成形品に関する義務を一時的に免除する「No Action Assurance」が公表されました。


2. TSCA第6条(a)および(c)に基づく規制化の動き

今回公表された5種のPBT物質は、PBT物質を迅速に規制するために改正TSCAで新たに設けられたTSCA第6条(h)に基づき制定されました。

一方、改正TSCAでは既存化学物質の優先順位付けやリスク評価に関するTSCA第6条(b)も強化されました。これらリスク評価の対象物質や現在の進捗状況等はEPAのサイト8)で確認することができます。

初期リスク評価対象として2016年11月に公表された次の10物質についての最終リスク評価結果が2020年6月~2021年1月にかけて順次公表され、いずれも何らかの用途において「不当なリスク」が存在すると結論付けられました。

・アスベスト(CAS番号1332-21-4)

・1-ブロモプロパン(CAS番号106-94-5)

・テトラクロロメタン(CAS番号56-23-5)

・ピグメントバイオレット29(CAS番号81-33-4)

・脂肪族臭化物類(HBCD類)(CAS番号25637-99-4、3194-55-6、3194-57-8)

・1,4-ジオキサン(CAS番号123-91-1)

・ジクロロメタン(CAS番号75-09-2)

・N-メチルピロリドン(NMP)(CAS番号872-50-4)

・ペルクロロエテン(CAS番号127-18-4)

・1,1,2-トリクロロエテン(TCE)(CAS番号79-01-6)

TSCA第6条(c)では、最終リスク評価結果の公表から1年以内にTSCA第6条(a)に基づく規則案を公表し、2年以内に最終規則を官報公示することをEPAに求めています。 そのため、最終リスク評価の結果を受けて、EPAは新たな規則の検討を開始しており、今年中にこれら10物質の規則案が順次公表されることになります。

また、2019年12月に指定された20種の高優先物質や産業界からリスク評価の要請があった物質についてのリスク評価も進められており、このリスク評価の結果「不当なリスク」が存在すると結論づけられれば、上記10物質に続いて、TSCA第6条(a)および(c)に基づく規制化が進められることになります。


3. 最後に

TSCA第6条に基づく規則化は、以前は中々実現してきませんでしたが、改正TSCAによって強化され、今回の5種のPBT物質を皮切りに、順次規則の制定が進められることになります。 第6条の規則では物質や混合物だけなく、必要な場合には成形品も対象となるため、化学品を取り扱う企業のみならず、成形品を取り扱う企業においても動向を注視する必要があるものと考えます。


(井上 晋一)


1)TSCA条文(本文中の「第6条」は「セクション2605」に該当します)

https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title15/chapter53&edition=prelim


2)デカブロモジフェニルエーテルの規則

https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/06/2020-28686/decabromodiphenyl-ether-decabde-regulation-of-persistent-bioaccumulative-and-toxic-chemicals-under


3)リン酸トリアリールイソプロピル化物の規則

https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/06/2020-28692/phenol-isopropylated-phosphate-31-pip-31-regulation-of-persistent-bioaccumulative-and-toxic


4)2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールの規則

https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/06/2020-28690/246-tristert-butylphenol-246-ttbp-regulation-of-persistent-bioaccumulative-and-toxic-chemicals-under


5)ペルクロロブタ-1,3-ジエンの規則

https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/06/2020-28693/hexachlorobutadiene-hcbd-regulation-of-persistent-bioaccumulative-and-toxic-chemicals-under-tsca


6)ペンタクロロベンゼンチオールの規則

https://www.federalregister.gov/documents/2021/01/06/2020-28689/pentachlorothiophenol-pctp-regulation-of-persistent-bioaccumulative-and-toxic-chemicals-under-tsca


7)PBT物質に関する規則に対する意見募集

https://www.epa.gov/newsreleases/epa-seeks-public-comment-protecting-human-health-and-environment-pbt-chemicals


8)TSCAに基づくリスク評価対象の化学物質

https://www.epa.gov/assessing-and-managing-chemicals-under-tsca/chemicals-undergoing-risk-evaluation-under-tsca

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