当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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REACH規則 鉛の使用における制限条件見直しに関する調査報告

2020年10月02日更新

鉛は古来より使用されている金属であり、優れた加工性、腐食特性により幅広い用途で使用されてきました。 いっぽうでその有害性においても、古くから指摘されており、現在では多くの法規制により使用を限定されています。 そのため、成形品の生産者、輸入者は自社製品に対する鉛含有の有無について慎重に対応していると思われます。


REACH規則においても例外ではなく、物質の使用制限リスト(附属書XVII)におけるエントリ63として、鉛の使用を制限しています。 このエントリ63については、計10項目の制限条件より構成されており、本年7月に条件の見直しに関する報告書1)がECHAにより公開されました。 報告書では、特定の使用用途ごとの代替可能性や今後の市場への影響等が示されています。 今回のコラムでは本調査の概要について説明します。


(1)調査の前提

REACH規則 附属書XVIIにおけるエントリ63では、2016年6月1日以降、0.05wt%を超える鉛を含有し、幼児が口に含む可能性がある(1辺が5cm未満)消費者向け製品または、その部品の上市や使用について制限しています。


ただし、鉛の放出速度が0.05µg/ 平方センチメートル/時間以下の成形品や8項に記載されている特定用途の成形品などは除外されています。 この除外については、9項において、代替品の入手可能性や鉛の移行などの新しい科学情報を参照したうえで、8項の(e)、(f)、(i)および(j)を欧州委員会が再評価することを求めています。 さらに必要に応じて、このエントリを適宜変更すると規定しています。


上記で特定されている使用用途は以下の通りです。

(e)南京錠を含む鍵と錠

(f)楽器

(i)宗教的な成形品

(j)ポータブル亜鉛炭素電池およびボタン電池


この変更規定に伴い、2019年7月10日から2019年9月26日まで、ECHAによる意見募集2)が行われました。 この意見募集は、企業(製造業者、供給業者、販売業者、輸入業者など)、業界団体、科学機関、および関連情報を保持するその他の関係者などを対象として、(e)(f)(i)(j)に対して鉛がもたらす技術的機能、代替物質や代替技術、制限による潜在的社会的影響といった情報の収集を目的としています。3)


さらに、コーティングの有無に関わらず、鉛の放出速度が0.05µg /平方センチメートル/時間以下を確認する分析方法の実績に加えて、その可能性や適合性といった分析面の情報も募集されています。


本調査報告書は、このときの意見募集によって収集された情報をとりまとめたものです。


(2)使用用途別の報告内容

それぞれの報告内容の概要は以下の通りです。


(e)南京錠を含む鍵と錠

自動車用途および高セキュリティ用途、いわゆるハイエンド向けのシリンダー錠の鍵は、鉛を含む洋白(銅と亜鉛とニッケルの合金)を使用して製造されています。 快削洋白(C7941)では鉛が0.8~1.8%添加されています。 一方、装飾目的や家具によく使用されるようなローエンドの鍵や南京錠の本体は、多くの場合、鉛を含む真鍮(銅と亜鉛の合金)で製造されています。


鉛の主な技術的機能は、優れた機械加工性を有することであり、特定の機能を備えた鍵のような高精度の形状を有する製品の製造を可能にします。 機械加工性に加えて、鉛は素材にスライド、滑動特性を提供し、鍵を挿入してロックシリンダーを操作するときの摩耗やその他の潜在的な損傷を防ぎます。


一般的な鍵や南京錠に用いられる真鍮に含まれる鉛を代替する選択肢は、シリコン(Si)、ビスマス(Bi)、および硫黄(S)です。シリコンは、鉛フリー合金において最大のシェアをもちますが、この用途においてはスライド動作や表面品質が低下することにより技術的な要件を満たしていません。 一方、ビスマスは、一部で有毒性が指摘されており、さらに高温での使用中に合金が割れるため、銅のリサイクルに適さず、業界では実行可能な代替案とは見なされていません。 さらに硫黄は、飲用水に関連する用途で実績がありますが、それ以外の用途ではまだ検討がされていません。 また、これらの代替品を採用した場合、材料変更や装置やツールといった加工プロセスの改善等のコスト上昇が見込まれます。 一方、鉛含有の洋白における代替品は発見されていません。


鍵を用いないデジタルロックやスマートロックといった新技術も登場していますが、まだ代替技術としては確立されていません。 現状では、南京錠を含む鍵と錠に使用される真鍮と洋白に含まれる鉛について、技術的および経済的に実現可能な代替手段がないことは明らかであるとされています。 しかし、鉛の放出の要件に伴う鉛の移行に関する情報は得られなかったため、除外が取り消される場合に備えて、鉛の移行に関するデータを収集することを推奨しています。


(f)楽器

木管楽器や金管楽器では、金管楽器の本体の曲げ部品、マウスピース、はんだに鉛が使用されています。金管楽器の曲げ部品や本体、マウスピースの主な代替品は、上記(e)と同様にシリコン、ビスマス、および硫黄であり、これらの代替材料は、堅さ、加工性、接触性、スライド、滑動特性、機械的特性、および耐食性という同じ問題に直面しています。


金管楽器の曲げ部品や本体に関しては、現在のところ適切な代替案や鉛の移行が制限内である明確な根拠がないため、除外を継続することが推奨されます。


マウスピースはコーティングの有無にかかわらず、真鍮の鉛の移行が制限範囲内である情報が得られたものの、限定された条件であり、洋白に関しては同様の確証は得られませんでした。 したがって、マウスピースの除外を再検討する前に、コーティングされた真鍮と洋白のマウスピースにおける鉛の移行に関して、さらに調査を行うことが推奨されます。


はんだについては、楽器の内部で使用され、使用中に口に入ることがないため、制限の範囲外になります。


(i)宗教的な成形品

市場や詳細については不明ですが、附属書XVIIのエントリ63(第7項から第10項)の適用範囲に関するガイドライン4)では、成形品の種類として聖像、十字架、数珠等が明記されています。また、視覚的特性を得るために、クリスタルガラス、エナメル、半貴石などは宗教的な成形品に含まれていると想定されています。


今回の調査では関連する利害関係者から鉛における代替材料の可能性や鉛の使用を制限されることによる市場への影響等の新たな情報が得られなかったため、ECHAは除外の継続について提言できる立場ではないと説明しています。


(j)ポータブル亜鉛炭素電池およびボタン電池

円筒状や角形の亜鉛炭素電池は、市場の10%を占めると推定されており、鉛含有0.05wt%の制限を超過しています。 ただし、これらの使用用途は技術要件の低い古い機器であり、市場の需要がより高いバッテリー容量と高いピーク電流の両方を必要とする最新機器へ移行するにつれて、シェアが自然に減少しています。


市場ですでに入手可能な技術的および経済的に実現可能な代替品は、アルカリ・マンガン電池およびニッケル水素電池またはリチウムイオン電池などです。 アルカリ電池の価格は亜鉛炭素電池の価格の2倍ですが、消費者にとっての絶対的な価格差は低く、電池1個あたり0.5〜1.0ユーロの範囲です。


このような代替品の存在ならびに市場の影響を考慮すると、ポータブル亜鉛炭素電池の除外を削除することが推奨されます。 また、ボタン電池においても鉛含有0.05wt%の制限内にあることが確認されているため、除外の削除を提言しています。


(3)おわりにあたり

今回の調査報告は欧州委員会が再評価を行うための情報提供であり、提言通りの改訂が行われるとは限りませんが、今回、除外の継続が推奨された(e)南京錠を含む鍵と錠と(f)楽器は鉛含有の真鍮や洋白を材料とする用途であり、これらの実用的な代替品はまだまだ情報が十分ではなく、データを蓄積している段階だといえます。


鉛含有の真鍮や洋白等の銅合金については、RoHS指令の附属書Ⅲ6(c)「最大4wt%の鉛を含む銅合金」更新申請の評価プロジェクト5)も予定されており、その動向にも注目が向けられています。


(柳田 覚)


引用

1)

https://echa.europa.eu/documents/10162/0/rest_lead_articles_review_public_en.pdf/8e75d28e-04f1-bf3c-b8a0-a2d079fe3987

2)

https://echa.europa.eu/previous-calls-for-comments-and-evidence/-/substance-rev/23601/term

3)

https://echa.europa.eu/documents/10162/91dc1194-871c-d156-761d-00ce2891344e

4)

https://echa.europa.eu/documents/10162/13563/lead_guideline_information_en.pdf

5)

https://echa.europa.eu/documents/10162/13563/lead_guideline_information_en.pdfhttps://echa.europa.eu/documents/10162/13563/lead_guideline_information_en.pdf


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