当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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2021年1月から義務化される SCIP データベースの登録について

1.登録要求

2021年1月5日からEU市場で0.1重量(wt)%を超える濃度で候補リストに非常に高い懸念のある物質(SVHC)を含有する成形品を上市する企業は、これらの成形品に関する情報をECHAが管理するSCIPデータベースに登録しなければなりません。

SCIP(Substances of Concern In articles as such or in complex objects (Products))は、廃棄物フレームワーク指令(WFD)に基づいて確立された成形品自体または複雑なオブジェクト(製品)に含まれる懸念物質(SVHC)に関する情報のデータベースです。

SCIPデータベースは、REACH規則のCLS(substances of very high concern (SVHCs) on the Candidate List.)を含む成形品に関する情報が、廃棄物段階を含む製品および材料のライフサイクル全体を通して利用可能であることを保証することが目的で、データベース内の情報は、廃棄物事業者や消費者に提供されます。


SCIP データベースの登録義務は、REACH規則とWFDの統合された規制です。REACH規則は第33条により、成形品中にCLSを0.1wt%以上含有していれば、「物質名と安全取扱情報」を提供しなくてはなりません。


WFDはその目的を第4条(廃棄物ヒエラルキー)で廃棄物処理の優先順序を明確にしています。

(a)発生抑制

(b)再使用のための準備

(c)再生使用

(d)その他の再生(例:エネルギー回収)

(e)廃棄


このために、第10条(再生)で、「再生を容易にするために分別回収する」としています。分別回収では、有害物質の混入を避けるために第9条(廃棄物の発生抑制)で、「REACH規則第33条の情報提供を保証する」としています。

この情報提供の狙いは「成形品自体または複雑なオブジェクト(製品)に含まれるCLSの削減を促進する」ことしていますので、留意する必要があります。


REACH規則第33条の情報提供は供給時点で、WFDは廃棄時点で情報が必要となります。この間は年数が経っている場合が多く、この情報をつなげるのがSCIPです。


WFDを改正しREACH規則との調和を図ったのが、「EU循環経済行動計画」です。 (注1)

「EU循環経済行動計画」は、製品のライフサイクル全体に沿った取り組みを発表し、製品の設計、循環型経済プロセスの推進、持続可能な消費の促進、使用される資源のEU経済内での長期保存を目指すことなどを掲げています。

 

2.SCIPの運用

SCIPデータベースの目的は、前記のようにREACH規則の下で成形品中のCLSの既存の通知義務とその義務を補完することで、ポイントは以下になります。


(i)EU市場に投入される成形品中の環境負荷物質の代替を支援することにより、有害物質を含む廃棄物の発生を減少させる。

(ii)廃棄物処理作業をさらに改善するための情報を利用可能にする。

(iii)所管官庁が成形品に含まれるCLSの使用を監視し、廃棄物段階を含む成形品の全ライフサイクルにわたって適切な措置を開始できるようにする。


2.1 義務者

SCIPデータベースの登録義務は、第33条の義務者の2021年1月5日以降にCLSを0.1%以上含有する成形品の最初の供給者(製造者、輸入者や流通業者等)になります。


日本企業の場合は、輸入者にその義務が課せられますので、輸入者にCLS含有に関する登録に必要な情報を提供することになります。


EU域外の日本企業はSCIPデータベースに直接登録することはできませんが、EUの輸入者と契約することで、日本の企業も登録できます。しかし、SCIPデータベースに登録する義務は、輸入者に残ります。


また、この契約ができるのはEU域外の輸出者とEUの輸入者との間で、輸出していないEU 域外企業(間接輸出者)は契約できません。


2.2 登録情報

SCIPデータベースに必要な情報は、REACH第33条(1)の下でサプライチェーン全体にわたって伝達しなければなりませんので、成形品の供給者は、行政上の連絡先の詳細に加えて、以下の情報をECHAに提出する必要があります。

-製品の識別を可能にする情報; 

-成形品中に存在する候補物質の名称、濃度範囲及び場所

-成形品の安全な使用を可能にするための他の情報、特に、廃棄物になった成形品の適切な管理を確実にするための情報

-その他、自発的に更なる情報を提供することができる。

情報要件の詳細なリストは、「詳細な情報要件」文書に示されています。(注2)

環境省から仮訳が発行されました。(注3)


日本企業は、登録のための情報をサプライヤーから入手しなくてはなりません。ケムシェルパ(chemSHERPA)でこのツールが用意されます。 (注4)


2.3 重複情報

ECHAは、上流供給者によって既に提出された情報を使用して、同じ成形品に関係する場合に、義務者が相互の通知を参照できるようにする可能性を探求しており、それによって、行政上の負担を軽減し、重複を回避する取り組みをしています。


登録はIUCLIDを利用しますが、登録情報が多い場合に、サプライチェーン・トラッキング・ツールをECHAのデータベースに接続して、自動化された申請手続きを設定し、登録作業を自動化するソリューションを提供する計画を持っています。


ただ、現時点では完成していません。


2.4 レガシー製品(legacy products)

古い成形品に関するFAQのNo15にあります。(注5)

Q:20年前に製造されたロングライフマテリアルもリサイクルする必要があります。この種の材料については、レガシーケミカルに関する情報はありません。古い材料情報も入手する予定はありますか?

A:残念ながら、「レガシー製品」を取り扱うための簡単な方法はありませんが、将来の製品中の有害物質のより良い追跡を今から始めるべきです。


SCIPデータベースは、2021年1月5日から上市される成形品(それ自体または複雑な対象物)のみを対象としています。

ECHAは、成形品の供給者が、2021年1月5日以降に成形品を供給しなくなった場合には、自主的にその登録を更新する(又は新しいものを提出する)ことを許可し、推奨します。

特に成形品がまだ使用されている可能性が高いと予想される場合 (使用寿命の推定時間に基づいて)で、2021年1月5日以降のCLSが、以前に供給された成形品中に存在することを認識している場合は更新を推奨しています。


なお、SCIPデータベースに登録しても、REACH規則第33条の義務は残ります。

 

3. WFDの改正

何処の国の廃棄物関連法も難解です。WFDも様々な理念が詰め込まれており、企業としての対応に戸惑う部分が多々あります。


WFDの改正のなかで、SCIP関連以外で大きな変更点が「拡大生産者責任」です。

修正法の前文第21文節で以下を説明しています。


拡大生産者責任スキームは、効率的な廃棄物管理の不可欠な部分を形成する。

しかし、それらの有効性と性能は加盟国間で著しく異なる。

従って、このような拡大生産者責任スキームのための最低限の運用要件を設定し、これらの要件は、明示的に別段の規定がない限り、既に規定されている要件に加えて、他のEU法令、特に指令2000/53/EC(ELV指令)、2006/66/EC(廃電池指令)及び2012/19/EU(WEEE指令)に従って制定された拡大生産者責任スキームにも適用されることを明確にする必要がある。

すべての制度に適用される一般的な最低要件と、製品の生産者のために拡大生産者責任を実施する組織にのみ適用される一般的な最低要件とを区別することが必要である。


第3条(定義)では、「拡大生産者責任」を「製品の生産者が製品のライフサイクルの廃棄段階の管理について財政的責任または財政的および組織的責任を負うことを保証するために加盟国が講じる一連の措置を意味する。」としています。


WFDは機能運営条約(TFEU)第191条の目的を達成するために、TFEU第192条(1)で立法されています。(注6)


TFEU第191条の目的は次です。

・環境の質の維持、保護、改善

・人間の健康を保護、

・天然資源の慎重かつ合理的な利用、

・地域的または世界的な環境問題に対処するための国際レベルでの対策を促進し、特に気候変動と戦う


2項で以下の理念が示されています。

環境に関する連合の政策は、連合のさまざまな地域の状況の多様性を考慮に入れて、高レベルの保護を目指すものとする。 それは、予防原則と予防措置を講じるべきであり、環境被害を優先的に発生源で是正し、汚染者負担原則に基づくものとする。


加盟国毎に規制が異なることになります。「拡大生産者責任」「予防原則」「汚染者負担の原則」が並んでおり、厳しい感じがします。


ただ、3項で、環境に関する方針を作成する際に以下を考慮します。

・利用可能な科学的および技術的データ

・EUのさまざまな地域の環境条件

・行動または行動の欠如の潜在的な利益とコスト

・EU全体の経済的および社会的発展とその地域のバランスの取れた発展


この条項で、理念と現実のギャップを埋めることができます。BAT(Best Available Technology/ Techniques)での対応が認められると解釈できます。


4.適用地域

SCIPデータベース登録は、EU加盟国の義務です。BrexitやEEA加盟国の適用など、日本企業にとって気になるところです。

WFDは加盟国が国内法で運用しますので、UKもWFDによる国内法で廃棄物を管理しています。ただ、ECHAのSCIPデータベースを使えるかどうかは確認できていません。

WFDは法令名に“Text with EEA relevance”が入っていますので、EEA(ノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)も対象となります。

EU加盟準備国のアイスランド(重複)、セルビア、トルコ、マケドニア(旧ユーゴスラビア)、モンテネグロも対象となります。

ただ、いずれも明確になっていません。

 

消費者の知る権利のために、REACH規則の第33条2項の消費者がCLSの含有情報を入手できる仕組みにAskREACHプロジェクトがあります。

https://www.askreach.eu/


消費者がスマホアプリでも情報を入手できる仕組みで、地域的には全ヨーロッパが対象です。

SCIPデータベース登録対象は、第33条1項のB to Bですが、AskREACHデータベースとSCIPデータベースの調和が検討されています。(注7)


SCIPデータベース登録は、2021年1月5日の運用開始を目指して10月から最終運用のテストが開始されます。

2020年12月末までにいろいろな条件や要件が決まってくると思います。当分は新たな情報入手が不可欠と思います。


(松浦 徹也)


引用

注1:

https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/index_en.htm

注2:

https://echa.europa.eu/documents/10162/28213971/scip_information_requirements_en.pdf/9715c4b1-d5fb-b2de-bfb0-c216ee6a785d

注3:

http://chemical-net.env.go.jp/pdf/scip_information_requirements_jpn.pdf

注4:

https://chemsherpa.net/news/chemsherpa/?p=2151

注5:

https://echa.europa.eu/documents/10162/29143218/210420_scip_webinar_qa_en.pdf/1e8f62de-2c65-e0d3-e859-2ea41e685cea

注6:

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:12012E/TXT

注7:

https://www.askreach.eu/wp-content/uploads/2020/05/ECHA-SCIP-AskREACH-databases_Separate-ways-similar-goals.pdf

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