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カドミウムとその無機化合物に対する職業ばく露限界値意見募集
2020年10月27日更新
職業ばく露制限 ( Occupational Exposure Limits : 以降「OELs」) についてECHAはHP上で概略以下のように記載しています。
OELsは職場空間における化学物質の安全性 (健康ベース) を考慮に入れたばく露レベルを示す規制値である。 そのような制限値は特に発がん性、変異原性、生殖毒性および急性ばく露影響に関しEUおよび国家レベルにおいて規制当局により規制されている。1)
特定の化学物質ばく露に関する制限値設定は、作業場で化学物質を使用する場合に可能性のあるリスクからの作業者の健康保護や有害物質に対する作業者ばく露の制限のために雇用者 (事業者) を支援している。
特定の化学物質に関して行動を起こすことはEUにおける作業者保護の優先分野となっている。 EU委員会は発がん性および変異原性指令 2004/37/EC (以降「CMD」)、化学薬品 (chemical agent) 指令98/24/EC (以降「CAD」) およびその他の関連法令 (例えば、アスベスト指令2009/148/EC) において新たなOELsを採択するための提案活動を支援するために優先評価化学物質の評価について独立の科学委員会から助言を求めている。
ECHAおよびRACは2019年以降EU委員会の雇用のための理事会総局 (Directorate - General) および社会政策総局 (Social Affairs and Inclusion (DG EMPL) ) に対して科学的意見の提供支援を継続して行っている。2)
この作業は、以前はDG EMPLの職業ばく露限界 (SCOEL) に関するDG EMPLの科学委員会により行われていたものである。
OELsは主として蒸気、ミストまたはダストのような化学物質の吸入からの作業者保護が意図されている。 しかし、RACは同時に皮膚保護が必要な皮膚侵入に対しても勧告を行っている。その他に感作性やノイズに対する勧告もまた可能である。 更に、RACは殺生物性制限値 (BLVs : biomonitoring exposure levels )あるいは殺生物性ガイダンス値 (BGVs : biomonitoring background levels )を勧告することも可能 (may) である。
RACはCMD およびCAD のもとで作業場で見出される物質へのばく露からの作業者保護の職業ばく露制限に関する意見を提供している。
ECHAは以下の9物質について、ECHAにより職業ばく露制限に関し計画されている活動進捗状況 (進行中または完了等)の更新版を提出している。3)
更新状況は以下のとおりです。
1. コンサルテーション中 (1物質)
(1) カドミウムとその無機化合物
(最終更新日: 2020/9/14 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
2. 技術文書(ドシエ) 準備中 (1物質)
(2) アスベスト
(最終更新日: 2020/6/3 対象法令:アスベスト (指令2009/148/EC) )
3. 意見開発中 (2物質)
(3) ジイソシアネート
(最終更新日 : 2019/12/17 対象法令: CAD (指令98/24/EC) )
(4) 鉛とその化合物
(最終更新日: 2019/12/17 対象法令: CAD (指令98/24/EC) )
4. 意見採択済み (5物質)
(5) アクリロニトリル
(最終更新日: 2018/3/9 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
(6) ベンゼン
(最終更新日: 2018/3/9 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
(7) ニッケルおよびその化合物
(最終更新日: 2018/3/9 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
(8) 4,4’ – メチレン – ビス – [2 – クロロアニリン] MOCA
(最新更新日: 2017/5/29 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
(9) ヒ素およびその無機化合物
(最終更新日: 2017/5/29 対象法令: CMD (指令2004/37/EC) )
ECHAはOELs決定プロセスの一部としてRACによる検討のために科学報告書 (Scientific Report ) を準備する。4)
この科学報告書は、RAC意見書の附属書となり、コンサルテーション中に関係者から提供される情報と併せてRACは会議における検討の根拠としている。
コンサルテーションにおいては、関連する利害関係者に対し科学報告書に対するコメントの提出を求め、RACがOELsに関する意見採択を支援するために開催される。
関係する利害関係者はECHAがまとめている科学報告書 (「カドミウムおよびその無機化合物」) のOELs要求に対し、2020年11月12日を提出期限として意見提出を行うよう要請されている。
意見提出における企業機密情報の扱いについては、利害関係者が情報を機密としたいならばその理由 (証拠) を提出する必要がある。 すべての機密要求情報は、ECHA、その委員会、加盟国権限当局、およびEU委員会のみが適切な場合利用可能である。
利害関係者が機密情報を提出する場合、当該情報の非機密バージョンについても提出することが要求されている。 非機密コメントおよび付属物 (アッタチメント) は、コンサルテーション終了後にECHAのHPで閲覧できる。
上述のECHAが準備している「職場のカドミウムとその無機化合物の制限評価のECHA科学報告書 (2020年9月14日)」は全78ページの構成となっています。
その前文には以下のように記述されています。
業務上での発がん性物質および突然変異原性物質へのばく露に関するリスクからの作業者保護指令2004/37/EC (CMD) の修正のための第5次要求の準備を考慮し、また2017年の委員会コミュニケーション「’すべてについて安全で健康’ ― EU職業安全、健康規制と政策 (‘ Safer and Healthier Work for All ‘ - Modernisatio of the EU Occupational Safety and Health Legislation and Policy )」に従い、EU委員会は幾つかの発がん性化学物質の職業ばく露制限の科学的妥当性の評価について、RACに助言を要求した。
そのため、EU委員会は2020年1月8日にECHAに対して、サービスレベルアグリーメント (SLA : Ares (2019) 18725) に従い、指令2004/37/ECについて、カドミウムとその無機化合物を評価することを要求した。 ECHAはEU委員会の要求に賛同して職場におけるカドミウムとその無機化合物の職場制限値に関する科学報告書を準備した。本報告書作成準備中、利害関係者からの当該主題に対するコメントおよびエビデンスの提出を求め、2020年3月2日から2020年6月2日までの3ケ月間意見募集を行った。
ECHAは準備した「科学報告書」を2020年9月14日に公開し、利害関係者に対してに、2020年11月12日までコメント提出を要請している。5)
RACは、ECHAにより提出された科学報告書に基づいて自らの意見を公開する。 カドミウムとその無機化合物に対する職業制限値に関する意見の準備期間中に科学報告書はRAC意見の附属書として更に開発されてゆく。
(瀧山 森雄)
参考情報
カドミウムとその化合物については、EU RoHS指令附属書Ⅱの有害制限物質に指定されており、最大許容濃度は均一物質あたり、100ppmと鉛、水銀および六価クロムが1,000ppmであるのに対し、1桁厳しく規定されています。 また、REACH規則附属書ⅩⅣ (認可) 、附属書ⅩⅦ (制限) 物質にも指定されています。
我国労働安全衛生法において、名称等を表示 (ラベル表示) すべき危険有害物、名称を通知 (SDS交付) すべき危険有害物、特定化学物質 (特化則) 第2類物質、管理第2類物質、化学物質排出把握管理促進法において、特定第1種指定化学物質となっています。
厚生労働省の職場の安全サイトで紹介されているSDSの8項「ばく露防止及び保護措置」において、管理濃度0.05mg / m3 (カドミウムとして)、許容濃度 (ばく露限界値、生物学的ばく露指標) 日本産業衛生学会 0.05mg / m3 (カドミウムとして) 発がん分類1、ACGIH (2005年版) TLV – TWA 0.01mg/m3 (Cdとして) となっています。
引用
3) https://echa.europa.eu/oels-activity-list
4) https://echa.europa.eu/oels-pc-on-oel-recommendation
https://echa.europa.eu/oels-activity-list/-/substance-rev/25139/term
5) https://echa.europa.eu/documents/10162/2c23f940-fff8-59ab-43b1-05aadb30042e