当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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ロッテルダム条約とEUおよび日本における法規制について

2020年11月16日更新

はじめに

危険有害性を有する化学物質による人の健康や環境への悪影響を防止するための政策には、REACH規則やRoHS指令をはじめとする国内あるいは域内での管理を目指すものの他に、これらの国際貿易による影響拡大の抑止を目的とするものがあります。

ロッテルダム条約はそれを目的として締結された多国間条約であり、各締約国はその義務履行を担保するために各々の国内法による規制等に取り組んでいます。

今回はロッテルダム条約の概要と共にEUおよび日本の取組みについてご紹介します。


1.PICとロッテルダム条約

ロッテルダム条約は、正式には「国際貿易の対象となる特定有害化学物質および駆除剤についての事前情報同意の手続きに関するロッテルダム条約」と称し、その基本となっているのは事前情報同意(Prior Informed Consent, 以下PIC)という考え方です。 これは有害な化学物質等の国際取引に際しては、事前に各国の意思を確認し、関連情報を各国間で共有した上で、これらの輸出については輸入国側の意思を尊重して対応するというものです。


この考え方に基づく動きは、1980年代よりありましたが、拘束力に弱いものでした。


しかし1992年6月にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された地球サミットにおいて採択されたAgenda21においてこの考え方が導入され、国際条約としての枠組みとして取り組んで実現していくべくPIC手続きを具体的に規定し、1998年9月に採択されたのがロッテルダム条約です。2004年2月に発効し、2020年10月現在締約国は164ヵ国(EUは個別の加盟国の他、EUとしても締約)で、日本は1999年8月に署名、2004年6月に批准、同年6月に発効しています。1)


本条約は全30条および7附属書より成り、採択以来何回かの改定を経てきています。 2)本条約の対象となるPICの手続きに従うべき化学物質は、① 禁止或いは厳しく制限された化学物質、及び② 重度な危険性を有する殺虫性製剤とされ、具体的には附属書Ⅲに収載された物質または物質群です。


PIC手続きの主な内容は以下の様です:

(1) 附属書Ⅲ収載の化学物質を輸入する場合、輸入国はそれらの輸入に関する意思をロッテルダム条約事務局(以下事務局)へ回答し、事務局はこの回答を全締約国に連絡します。

(2) 輸出国は輸入国が回答した意思に従った取引をせねばならず、自国の輸出業者に順守させるための法的あるいは行政的措置を講ずることが求められます。

(3) 附属書Ⅲ収載以外の自国において禁止あるいは厳しく規制された化学物質を輸出する際には、輸出国は輸入国に対し事前に通告せねばなりません。

(4) (1), (3)いずれの化学物質の場合でも、輸出者はラベルにより輸出品に危険性を表示し、輸入者へ安全に関する情報を提供せねばなりません。


こうしたPIC手続きは、特に化学物質の有害性に関する情報を入手し難い開発途上国に対する輸出によってこうした国々への健康被害や環境汚染が拡大することを防止することが念頭に置かれています。


そして本条約の目的の達成のためには先進的技術を保有する締約国に対し、開発途上国等への必要な技術の提供を行うべきであるとしています。


また本条約の運営のため締約国会議(the Conference of the Parties、以下COP)が設けられ、条約の実施状況とその評価、規制対象物質の追加等を含む諸課題を討議、決定しています。 通常2年毎で、前回のCOP9は2019年5月に開催され、次回のCOP10は2021年7月に予定されています。


2.EUのPIC規則

2.1 PIC規則の概要

前節ロッテルダム条約の締約国としての義務履行を担保するためにEUではPIC規則((EU) 649/2012)3) を2012年6月に制定し、2014年3月に施行しました。


これは全31条7附属書より構成され、PIC条約に沿って、その内容をEU加盟国と非EU加盟国間の特定化学物質の輸出入に反映した規則であり、主に非EU加盟国へ有害物質を輸出する企業の義務を規定しています。

また本規則で扱う化学物質に関する定義や各種規定は、REACH 規則((EC) 1907/

/2012)やCLP 規則((EC) 1272/2008)といった関連するEUの法令や化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)等との調和が図られています。

本規則ではロッテルダム条約で要求されているPIC手続きをEU域内で運用するための規程が主内容ですが、取扱う化学物質については以下の様に複数の附属書に収載されていることが特徴です。


(1) 附属書Ⅰ

附属書Ⅰは本規則で対象とする物質で、これらを農薬(重度な危険性を有する殺虫性製剤を含む)および工業用化学物質の2つのカテゴリーに分類して掲載しています。

附属書Ⅰは3つのPartに分かれていますが、このうちのPart3およびロッテルダム条約の附属書Ⅲに収載されている物質がPIC手続きの対象となります。


一方、Part1は輸出通知手続きの対象となる物質のリストで、輸出者が本規則の施行後初めてこれらの物質をEUから条約締約国あるいはその他の国に輸出する際には、予め相手国へ通知する等の義務があります。


またPart2はPIC通知の対象となる物質のリストで、ここに物質が追加される毎に欧州委員会は、関連情報と共に事務局に通知します。

附属書Ⅰは少なくも年1回欧州委員会により審査され、化学物質の追加等が行われています。


(2) 附属書Ⅴ

附属書Ⅴは輸出禁止の化学物質および成形品のリストで、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)の附属書AおよびBに収載されているもの(Part1)とそうでないもの(Part2)とに分類されています。


その他の附属書

附属書Ⅱは輸出通知手続きにおいて提出の必要な情報のリスト、附属書Ⅲはロッテルダム条約の各締約国が毎年欧州委員会へ報告せねばならない情報のリストです。


また附属書Ⅳは欧州委員会が事務局にPIC通知する際に提出する関連情報のリストです。

その他、ECHAではPIC規則の履行や関係者間の情報交換をより円滑化、確実なものにするためにITシステム(ePIC)を構築し、運営しています。


またEU加盟国とECHAは必要に応じて本規則で規定されている諸手続きの運営に関する情報を3年毎に欧州委員会に提供し、欧州委員会はそれらに基づいた報告書を作成しています。


2.2 PIC規則に関する最近の動き

2.2.1 制対象物質の追加

 PIC規則の対象物質の最近の追加の動きとして、欧州委員会は本年7月21日の官報で附属書Ⅰ及びⅤの各リストに新たなエントリーを追加しました。4) 各々は以下の様です。 


(1) 附属書Ⅰ

 Part1に19物質、Part2に16物質が追加となりましたが、これはクロロトロロニル(CAS No.1897-45-6)等の活性物質で、植物保護製品規則((EC) 1107/2009)や殺生物性製品規則((EU) 528/2012)によって非承認となったことを反映したものです。

またPart3にはCOP9でロッテルダム条約附属書Ⅲに追加されたことを背景に、ヘキサブロムシクロドデカン(CAS No.25637-99-4他)およびジチオりん酸O,O-ジエチル-S-エチルチオメチル(別名:ホレート、CAS No.298-02-2)の2物質が追加となりました。


(2) 附属書Ⅴ

 2017年5月に官報公示された水銀規則((EU) 2017/852)との整合を図るべく、エントリー3に水銀(Ⅱ)硫酸塩及び水銀硝酸塩の2物質を追加、またエントリー5~8として一般照明用小型蛍光灯等、4件の水銀を含む成形品が追加されました。


2.2.2 運用報告書

ECHAは本年8月に2017~2019の3年間にわたるPIC規則の運用報告書を公表しました。これはPIC規則施行以来、2回目の運用報告書となります。5)


これは計13のテーマについて質問形式で具体的な状況や問題点について取り纏めていますが、以下の様な状況が報告されています:


(1) PIC関連活動は以下の様に年々活発化しています。

・年間輸出通知件数は2017年の9,251件から2019年の10,703件に毎年10%程度の増加。

・技術的支援要請は2017年の2,080件より2019年は3,100件で、年20%の割合で急増。対2016年でEUおよび非EUの担当国内当局への支援要請は72%、輸出入国からのヘルプデスクの問い合わせは25%の増加。


(2) ECHAとしてはPIC規則やePIC関係ウエブサイトの運営、個別企業支援、ワークショップ、オンラインセミナー、教育訓練イベント、意識高揚のためのキャンペーン活動等の取組みにより輸出入業者への支援活動を行ってきましたが、これらにより彼らのPIC規則に対するコンプライアンスは改善されたと考えています。


(3) 輸出入業者からの最も多い要求はPIC規則規制対象となっている化学物質やその関連事項、輸出通知や関連手続きに関する事項等です。


(4) ePICは産業界2,398、EU加盟国の担当国内当局137、欧州委員会、その他計3,000近くのユーザーを得ていますが、そのユーザーからの評判は概して良好です。

この様な状況下で、必要業務量が増大していく中で、今後予算やマンパワーといった限られた資源をいかに効率的に配分して効果を高めていくかがますます重要になると述べています。


3.日本の法規制 6)

日本ではロッテルダム条約の義務履行を担保するために、輸出貿易管理令の第2条においてロッテルダム条約附属書Ⅲに収載されている化学物質を輸出する場合には、事前に経産大臣の承認を必要としています。  これは以下の日本として独自に禁止、あるいは厳しく制限している物質に対しても要求されています。

・化学物質審査規制法におけるポリ塩化ビフェニル等33物質(第1種特定化学物質)

・労働安全衛生法におけるベンジジン及びその塩等7物質(禁止物質)

・毒物及び劇物取締法によるオクタメチルピロホスホルアミド等10物質(特定毒物、物質数としては原体の数でこの他に各々の製剤も対象)

・農薬取締法によるテトラエチルピロホスフェート等6物質(販売禁止農薬)

 輸出承認の条件として、以下が要求されています:


(1) 仕向地がロッテルダム条約締約国であり、我が国が先方の国内当局に対してこれら化学物質の輸出に係る通報を行っている。

(2) これらの輸出にはGHSを参考にした輸出貨物の容器、包装等に添付すべき表示を貨物に添付する。

(3) SDSを交付する。

(4) 先方が課する要件の適用を妨げることなく、関連する国際的な基準を考慮しつつ、人の健康及び環境に対する危険性又は有害性に関する情報を十分に提供するようなラベル等による表示を行う


おわりに

以上ロッテルダム条約およびその条約義務履行のためのEUおよび日本における法規制についてご紹介しました。

ロッテルダム条約は、有害物質を国外へ輸出する場合には、必ず留意せねばならない重要な国際条約です。その内容は、規制対象物質の追加等、継続的に見直されてきており、それらはEUや日本における国内法規制に反映されていきますので今後共これらの動向には注意が必要です。


(福井 徹)


1) ロッテルダム条約事務局 

http://www.pic.int/


2) ロッテルダム条約テキスト2019年改定版 http://www.pic.int/TheConvention/Overview/TextoftheConvention/tabid/1048/language/en-US/Default.aspx


3) PIC規則 2020年9月1日時点のconsolidated version

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02012R0649-20200901&qid=1603708739023


4) 2020年7月21日EU官報

https://eurlex.europa.eu/search.html?scope=EURLEX&text=2020%2F1068&lang=en&type=quick&qid=1603800981228


5) Report on the operation of the Prior Informed Consent (PIC) Regulation 2020

https://echa.europa.eu/-/sharing-of-information-on-exports-of-harmful-chemicals-continues-to-grow


6) 経済産業省HP

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/02_export/08_chemical/index.html

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