当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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「ナノマテリアルおよびその安全性に関する市民の認識」について

2020年12月25日更新

ECHAはEUナノマテリアル展望台 (EUON) ページにオーストリア、ブルガリア、フィンランド、フランスおよびポーランド5ケ国市民のナノマテリアルおよび健康と環境に対するリスク認識の調査、分析結果を掲載しています。 (1)


本調査報告書は2020年2月3日~2月17日にアンケート回答者から得られた結果に基づき2020年11月に最終版が発行されています。(2)


本コラムでは、報告書の要約 (Summary) (p120~p124)と勧告 (Recommendation) (p125~p127) の内容についてご紹介します。 


Ⅰ報告書要約 (Summary) から


1.ナノマテリアル / ナノテクノロジーに対する認識

上記のEU加盟5ケ国5000人の回答者の代表的な回答サンプルからナノマテリアル/ナノテクノロジーについて「幾分か聞いた」および「十分に聞いた」と回答した比率の合計は、2005年43%、2010年47%、2020年65%と上昇傾向にある。


2.ナノマテリアル含有製品に対する購買慣習および態度

人の健康がライフスタイルの選択や環境問題に関心が高まるにつれて、消費者は製品購入時に注意深くなり、購入製品の原料や含有物に高い関心を示している。

安全が保証される製品には1~20%余分に金額を支払ってもよいと回答している。

購買への関心度合いは、知識レベルが低いほどナノマテリアル製品やナノマテリアル処理製品購入が少なくなっている。 食品や化粧品のように直接ばく露または直接ばく露が回避できない場合にはそれら製品の購入に最も注意深くなる。


3.市民のリスク認識

回答者の3分の2は、潜在的な懸念分野の例として、アスベストの使用、廃プラスチックの蓄積、地球温暖化、農薬と遺伝子組換え生物等の使用の影響を懸念している。 また、コンピュータ、携帯電話、エレクトロニクスまたはソーシャルネットワークのような現代テクノロジーの影響を懸念している回答者は4分の1以下であった。


4.ナノマテリアルに関連したリスク認識

消費者は食品接触材、日焼止化粧品等の製品グループにはコンピュータのようなナノマテリアルに直接ばく露が低い / ない製品よりも高い懸念を持っている。

回答者の3分の2はナノマテリアルへの直接接触を懸念しており、経皮ばく露がもっとも起りうる可能性が高いと認識している。 ナノマテリアルの影響に否定的な回答者は適切な使用および取扱いにより当該影響の回避または予防が可能であると考えている。


今回の調査では市民のリスクと便益の認識は他の要因よりむしろ心理社会的または社会人口統計的な要因により動かされることがと結論付けてられている。 言い換えれば、新テクノロジーの採用に注意深く、潜在的リスクについて懸念している人たちは製品へのナノマテリアルの存在を懸念する度合いが強い。


アンケート回答内容の調査結果を踏まえ、本調査では、以下の4つの仮説と検証を行っています。


仮説1 : ジェンダーはナノマテリアルのリスクと便益の認識に影響するかもしれない。


Bainbridge (Bainbridge 2002)、Smith et al. (Smith Hosgood et al. 2008) およびBottini et al. (Bottini , Rosato et al. 2011) は、女性は男性よりナノマテリアルに無関心であると結論している。


この仮説は、今回の調査により確認された。― ナノテクノロジーのリスクと便益についてジエンダー間に差異がある。 

一般的に女性はナノテクノロジーについて自らの生活に負の影響を持つかも知れないと男性よりも懸念の度合いが高い。


仮説2 : 強い信仰心はナノテクノロジーのリスクと便益に影響するかもしれない。


Ho et al. (Ho , Scheufele et al. 2010) は信仰心の高い人たちは低い人たちよりもナノテクノロジーへの資金提供 (funding) への支持が低い。 ところが科学的権威に対して高い敬意を持つ人たちはそれが低い人たちよりも新テクノロジーへの資金提供への支持が高い。


他の研究によれば、信仰心の高い人たちは低い人たちより著しくリスク認識が高い。(Conti, Satterfield et al.2011)

しかし、Bottni et al. (Bottini Rosato et al. 2011) の研究は信仰心はナノテクノロジーのリスクと便益の認識に影響しないと結論している。


本仮説は今回の調査で支持された。― 信仰心の重要性とナノテクノロジーのリスクと便益の認識には相関関係がある。 自らにとって宗教が重要だと主張する回答者は自らの生活に負の影響を持つナノテクノロジーについて懸念が大きい。


仮説3 : 教育レベルはナノテクノロジーの認識に影響するかもしれない。

Bottini et al. (Bottini, Rosato et ai. 2011) によれば、教育レベルはナノテクノロジーのリスクおよび便益の認識に影響を与えるかもしれない。


この仮説は今回の調査で確認された。― 教育レベルはナノテクノロジーのリスクおよび便益の認識に影響する。

教育レベルの低い回答者は自らの生活に負の影響を与えるナノテクノロジーについてより高い懸念を持ちがちである。


仮説4 : 年齢はナノテクノロジーのリスクと便益の認識に影響しないか?


Bottini (Bottini , Rosato et al . 2011) の研究において年齢はナノテクノロジーのリスクと便益の認識に関し影響を及ぼさないことを示唆している。


本仮説は今回の調査により反駁された。― 年齢はナノテクノロジーのリスクと便益の認識に影響を与える。30才以下の大部分の回答者は熱狂的である。 一方、50歳以上の回答者はそれを恐れている。年齢30才~49才の回答者のほとんどは意見を持っていないか無関心である。


5.ナノマテリアルに関連する関心の度合い

回答者のナノマテリアに対する関心の度合いは、以下の4グループに区別される。


(1) ナノマテリアルに対し、積極的なグループ (本レポートでは「熱心な人」と呼ばれる。)

回答者の19%を占め、年齢40~49才で、高学歴 (大卒レベル) で大都市居住者のグループ。

(2) ナノマテリアルに対し、寛容なグループ

回答者の46%を占める最大グループでナノマテリアルに対して開放的で寛容なことが特徴。29才以下の学生または大卒レベルの人たち。

(3) ナノマテリアルに否定的なグループ (「恐怖」グループ) 

50歳以上の大卒でない学歴の女性で、人口の23%を構成する男性より多い。

(4) ナノマテリアルの用途、特徴および影響について明確な態度を持っていないグループ。(「意見なし」グループ)

年齢構成が30~39歳であるだけの違いで「恐怖グループ」と類似。


6.情報源

回答者の大半はナノマテリアルについても他のテクノロジーと同様に知らされることを要求している。

回答者がナノマテリアル情報に接する主な情報源はTVおよびインターネットである。ほぼ回答者の半数が積極的に情報を探す場合の情報源はインターネットである。

5分の1の回答者はナノマテリアルとその含有製品の情報が掲載されているウェブサイトまたはデータベースを知っていることに言及している。


7.当局に対する信頼

ナノマテリアル関連情報について最も信頼できる機関 / 人は、科学者、研究者

(大学、研究機関等)、国家健康および職業健康安全当局である。

EU当局 (EU委員会、ECHA) は、回答者からナノマテリアルの安全性について「上位から3番目の情報源」に選ばれている。


8.ナノマテリアル含有製品の表示

回答者の87%は、ナノマテリアル含有製品の購入に際し、ラベルまたは包装においてナノマテリアルの負の影響とリスクまたは一般的情報に対する警告を知らされるべきあると考えている。

ナノマテリアル含有製品の表示要求が重要とされているのは、食品、薬品、化粧品。衣料 / 繊維、玩具および洗剤または家庭用品である。


9.欧州とその他の国との比較

EU内外のナノマテリアルとナノテクノロジーの認識はアジアを例外 (シンガポールと中国の認識と知識は他より高い。) として、類似しており一般的に低い。

EU以外のナノマテリアル含有製品に対する購買動向のリサーチはオーストラリアとニュージーランドで実施されている。 その結果は、本研究の結果と符合している。

米国人は、武器競争、エポニズム (weaponism) を主導するナノテクノロジー、テロリストにより使用されるテクノロジーおよび経済混乱を主導するテクノロジーを他国民よりも懸念している。

中国人は、ナノマテリアル使用の潜在的リスクに関して、プライバシー侵害、国家および個人セキュリティに対するナノエポン (nano weapon) の脅威を述べている。


Ⅱ 勧告 (Recommendation) から

市民のナノマテリアル認識は、最近50年間に徐々に上昇しているもののナノマテリアル含有製品使用やアプリケーション数の増加や変更には結びついていない。

つまり、認識/知識の欠如は懸念や情緒的反応に結びついているので、ナノマテリアルの存在、特質、用途および予測できる影響について市民の認識を高めるよう告知していくことが必要と思われる。


コミュニケーション戦略はナノマテリアル使用のリスクと便益を市民に認識させるために重要な役割を果たす。


コミュニケーション戦略は以下のフレーズをその順番で含んでいなければならない。


1.認識の向上

2.便益の伝達

3.安全レベル情報

 

フェーズ1 : 認識の向上

― ナノマテリアルとは何かの説明

― ナノマテリアルの用途

― ナノテクノロジーの歴史 (発見と進歩、普及しているテキストフォーム)


本フェーズは市民に対して日常生活のコミュニケーションチャネル経由で提供されねばならない。以下がその例である。


― インターネット ― 最も訪問数の多いポータル、最新のポータル

― TV

― 新聞、雑誌

― 学校 (小学校から大学まで)

― ナノマテリアルの特質、用途、歴史、便益とリスクについての主要な情報源である専用の適切で理解されやすく構築されたウェブサイト、容易に見つけられ覚えられるドメイン


例えば、www.nanomaterials.com


フェーズ2 : 便益の伝達

ナノマテリアルおよびナノテクノロジーについて市民の認識向上を目指す第2フェーズはナノテクノロジー適用の理由とそれらの使用の便益を提供することに集約される。

素人にとって利用可能で容易に理解できるものでなければならない。

その一つの例はナノマテリアル含有のマウスピースの製造である。それはコロナウイルス (COVID 19) の伝播 (transmission) に対する有望な個人保護効果を示している。(チェコ共和国のCOVID19パンデミック期間中に個人保護装置発展のケース) 

その他の事例は例えば、ナノマテリアル車輌洗浄機、耐久性のある衣類、食品中の減塩等である。

ナノマテリアル含有またはナノテクノロジー処理製品の製造者にとって製品中のナノマテリアルがもたらす便益をラベル上で明確に述べることがマーケティングにおいて重要となる。


フェーズ3 : 安全レベル情報

安全レベル情報に関しては以下の3つの主要な製品およびアプリケーション領域が特定されている。

1.市民に直接ばく露されない製品コンポネント中のナノマテリアル分野

――― コンピュータ、車両、宇宙船その他産業用アプリの製造

2.衣類 / アパレル、アクセサリー、家庭用品、洗剤、食品包装、玩具等

――― 市民生活のごく一部であり皮膚に直接接触する領域製品分野

3.食品、食品材料、化粧品、薬品 

――― 直接接触または吸入によりばく露が生ずる可能性のある製品


消費者に対しラベル、リーフレット、当局によってリスクと便益が明確にリストされている包装により情報提供されてもよい。


まとめ

上記の調査報告書からは、EU市民のナノマテリアル / ナノテクノロジーに対するリスクと便益の回答者の認識は2020年に65%と上昇しているものの未だ低い状況にあります。


判明したことは、ジェンダー間の差異、ナノマテリアル含有製品へのばく露による差異等が調査結果から明らかになっています。 市民が高懸念を表明しているのは食品、化粧品等直接ばく露が認識される製品群であり、コンピュータ、エレクトロニクス等に対する認識とは差異が大きい回答内容となっています。


また、年齢、学歴、居住区域等によりナノマテリアルに対するリスク / 便益の認識が4グループに分かれていることが判明していることから、ナノマテリアル含有製品メーカーとしてはそれぞれの消費者グループに対し、マスコミ媒体を通じたナノマテリアルの便益情報伝達、含有製品の特性に基づいた安全情報通達等のコミュニケーション活動を積極的に行うことが望まれます。


ナノマテリアルに関連した2つのREACH規則の附属書改正規則が官報公示され、施行および施行予定となっています。


1.物質のナノフォームを取扱うために附属書Ⅰ、Ⅲ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ及びⅫに関しREACH規則を修正する2018年12月3日の委員会規則 (EU) 2018/1883 (3)


本委員会規則は、2018年12月4日に官報公示され、2020年1月1日から施行されています。 委員会規則 (EU) 2018/1883 前文(3) において、「ナノマテリアルの定義に関する2011年10月18日の委員会勧告に基づいてREACH規則の目的として用語ナノフォームが定義されるべきである。」と記載しています。


REACH規則の附属書Ⅰ、Ⅲ、Ⅵ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅸ、Ⅹ、Ⅺ及びⅫは本規則の附属書に従って修正されます。


2.REACH規則の附属書Ⅱを修正する2020年6月18日の委員会規則 (EU) 2020/878 (4)


本規則は、2020年6月26日に公布され、安全データシート (SDS) の書式を規定する委員会改正規則です。


前文 (2) において2020年1月1日時点で、REACH規則の附属書Ⅰ、ⅢおよびⅥからⅫまでを修正する委員会規則2018/1881が施行され、当該規則は物質のナノフォームに対する特定要求が導入されています。 それらの要求に関連する情報は安全データシートに含まれますので、REACH規則附属書Ⅱも適宜変更する必要がある旨が記載されています。


REACH規則附属書Ⅱは本規則(EU) 2020/878の文言により置換えられ、施行は2021年1月1日からとなっています。移行措置として2022年12月31日までは現行のSDSの併用も認められています。


ただ、新規の化学物質、混合物をEUに輸出する事業者は本規則によるSDSの作成と交付が求められます。


(瀧山 森雄)



(1)

View article - European Observatory for Nanomaterials (europa.eu)


(2)

Understanding public perception of nanomaterials and their safety in the EU (europa.eu)


(3)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32018R1881


(4)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32020R0878&from=EN

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