当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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GHS第7版への対応状況

2021年01月22日更新

昨年の世界各国における化学物質管理関係の発表を俯瞰してみますと、GHS第7版への移行に係る発表が目立っています。


例えば、ニュージーランド環境保護庁(EPA)は2020年6月8日に「危険物質および新生物法(HSNO法)」への国連GHS第7版採用に向けた意見募集文書を公表し*1)、8月4日まで2回目となる意見募集を行い、11月5日正式に2021年4月30日からの施行を発表しました*2)。


オーストラリアでも労働安全局(SWA)が8月31日、2021年1月1日から適用開始の有害化学物質に関連するモデル労働安全衛生法および同規則による職場における化学物質の分類やラベル、SDSに国連GHS第7版への移行に向けた詳細なガイダンス4件*3)とモデル実践規範(Model Code of Practice:Model COP)のうち関連する以下の3件*4)を公表しました。


<ガイダンス>

・オーストラリアの職場の化学規制の変更-GHS7への移行

・職場の有害化学物質の供給者と使用者-GHS7への移行

・職場の有害化学物質の製造者および輸入者-GHS7への移行

・GHS7に基づく化学物質の分類と表示の変更


<モデル実践規範>

・モデル実施基準:有害化学物質の安全データシートの作成

・モデル実施基準:職場の有害化学物質の表示

・モデル実践規範:職場における有害化学物質のリスクの管理


カナダ保険省は2020年12月19日に国連GHS第7版に対応する有害製品法(HPA)および有害製品規則(HPR)の改定案を公表*5) *6)し、70日間の意見募集を開始しました。 公表資料*6)によれば、今回のGHS第7版への対応は米国との規制協力評議会の共同前進計画の下で検討が行われたもので、米国におけるGHS第7版への移行と施行時期を合わせることにより最大の効果が得られると説明しています。 残念ながら米国労働安全衛生局(OSHA)からのGHS第7版移行への正式情報は発表されていませんが、カナダ保健省によると米国でもGHS第7版移行のためにハザードコミュニケーション基準(Hazard Communication Standard)改定に向けた検討が進んでいるようです。 カナダのGHS第7版への移行は2021年初めを想定していますが、2年間の移行期間を設定する予定です。


既にGHS第7版移行を行っているその他の国としては、

ブラジル:2019年6月13日に関連規格NBR14725-2:2019として改定移行*7)

EU:2019年3月27日公告CLP規則修正第12版(2020年10月17日発効)で移行*8)

が挙げられます。


ちなみに日本はJIS Z 7252:2019(分類)およびJIS Z 7253:2019(情報伝達)でGHS第6版準拠となっています。


以下でこのようにこの1年でGHS第7版への移行が立て続けに公表されている背景と理由を考えてみたいと思います。


1.GHSの歴史と改定の仕組み

既にご存じの方も多いと思いますが、まずはGHS改定の仕組みを整理してみたいと思います。


「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(GHS:Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)は、国連勧告として2003年に採択されて2005年に初版が公表されて以降2年ごとに改定を続け、2021年1月現在の最新版は2019年に公表された第8版です。今年の夏には次の第9版が公表される予定です。


GHS制定のルーツは、1992 年の国際連合環境開発会議(UNCED)において採択されたアジェンダ 21、第 19 章、第 27 項*9)にある「安全データシートおよび容易に理解できるシンボルも含めた、世界的に調和された危険有害性に関する分類および表示システムを、可能なかぎり西暦 2000 年までに利用できるようにするべきである。」に起源を発しています。


改定作業は、国連「危険物輸送ならびに化学品の分類および表示に関する世界調和システムに関する専門家委員会(委員会)」の下部組織である「化学品の分類および表示に関する世界調和システムに関する専門家小委員会(GHS 小委員会)」で2年ごとに行われ、事務局は国際連合欧州経済委員会(UNECE)が行っています。GHS小委員会には日本からも複数の委員が加わっています。

改定は技術的な進歩と実施による経験をふまえて必要な見直しを行ってきています。


2.各国のGHS改定版導入方法

GHSは国連勧告であり、各国は自国の法律と調和を取り危険有害性クラスなどのすべてを必ずしも取り入れる必要はなく、取捨選択して自国の法律とすることができます(Building Block Approach)。 さらに、日本の労働安全衛生法(労安法)と化学物資排出把握管理促進法(化管法)のように管轄省庁が異なる分野にまたがっているために、各々の法律で選択するクラスが異なる場合もあります。 特にGHSが環境有害性を包含していることから、国によってはその部分は環境管轄官庁の別の法律に委ねられる場合もあります。


このように各国は最新版に対応した自国の法律改定には自国の既存の法律・省令との整合性や関係省庁との調整を行った上で素案を作成し、関係者からの意見聴取のためのパブリックコメント(パブコメ)を得た上で告示を行います。


告示から施行までには改定の周知徹底のための期間が必要です。前述のEUの例では公告から施行までに約1年6カ月を要しています。


施行後も旧版で既に流通しているものに関しては猶予期間(移行期間)を設ける必要が有り、カナダの例では2年間の移行期間を想定しています。


これらの事情を勘案すると、改定にはおおよそ4年程度の期間が必要になることになります。

GHS第7版の公表が2017年であることから、その直後から改定の検討を始めてもその4年後である2021年施行に向けて準備を行うことになり、2020年に公告する例が増えているというのも理解できるところです。


また、このような事情からGHS第7版へ移行した国のうち前述のニュージーランドおよびカナダは第5版(第7版の4年前に発表)からの移行です。 オーストラリアは第4版からの移行、ブラジルと米国(未発表)は第3版からの移行というようにそれ以上の改定間隔を取っています。


3.GHS第7版の変更点

さて、GHS第7版への移行により何が変わるのでしょうか。

以下に第4版からの主要な変更点を改定毎に纏めておきます。


1)第4版から第5版への変更点

①「酸化性固体」に対する新たな試験方法の追加

②「エアゾール」「皮膚腐食性/刺激性」「眼損傷性/刺激性」の判定基準明確化

③旧附属書1および旧附属書2を統合して附属書1:分類および表示まとめ表として改定し簡素化

④附属書3第4節危険有害性絵表示の新コード化システム導入

⑤附属書3注意書きの一部改定


2)第5版から第6版への変更点

①新規に「鈍感化爆発物」クラスと区分を追加

②「可燃性ガス」クラスに新規に「自然発火性ガス」区分を追加

③爆発物クラスの分類手引きに表2.1.3を追加

④吸引性呼吸器有害性クラスに3.10.3.3.1追加

⑤安全データシート(9.物理的および化学的性質に追加情報と項目整理

⑥附属書7に新しく例8:小さな包装への表示を追加


3)第6版から第7版への変更点

①「可燃性ガス」の区分修正

②いくつかの健康有害性の定義を明確化

③国際海事機関(IMO)の取決めにしたがって運搬されるバルク貨物に対応するためのSDS14.輸送上の注意への追記

④附属書3の注意書き一部改定

⑤附属書7に新しく例9:小さな包装への表示:折りたたみラベルを追加


4.まとめ

今回は昨年1年間を俯瞰して各国のGHS第7版導入状況を纏めてみました。そのなかでGHS改定の周期は2年ごとですが各国の新版への移行は早くとも4年ごとになっていることがわかりました。 今後も同じように進むかは各国法令改定手続によりますので保証はできませんが、今後の各国の移行状況を予測する一つの考え方としてご参考になれば幸いです。


(杉浦 順)


*1 ニュージーランドEPA意見募集ニュースリリース

https://www.epa.govt.nz/news-and-alerts/latest-news/consultation-resumes-on-classification-of-hazardous-substances/


*2 ニュージーランドEPAのGHS第7版施行ニュースリリース

https://www.epa.govt.nz/news-and-alerts/latest-news/chemical-management-changes-coming-in-2021/


*3 オーストラリアGHS第7版移行ガイダンス

https://www.safeworkaustralia.gov.au/collection/ghs-7-guidance-material


*4 オーストラリアGHS第7版モデル実践規範

https://www.safeworkaustralia.gov.au/resources-publications/model-codes-of-practice


*5 カナダ有害製品法(HPA)の改定案

http://gazette.gc.ca/rp-pr/p1/2020/2020-12-19/html/reg5-eng.html


*6 カナダ有害製品規則(HPR)の改定案

http://gazette.gc.ca/rp-pr/p1/2020/2020-12-19/html/reg4-eng.html


*7 ブラジルABNT NBR14725-2:2019

https://www.abntcatalogo.com.br/norma.aspx?ID=418238


*8 EU CLP規則修正第12版

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:02008R1272-20201114


*9 アジェンダ21

https://sustainabledevelopment.un.org/outcomedocuments/agenda21


*10 GHS初版~第7版和訳

http://www.env.go.jp/chemi/ghs/

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