当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EU紛争鉱物規則((EU)2017/821)における最近の動向

2021年01月29日更新

紛争鉱物は、紛争地帯で採掘され、戦闘を継続させるための資金源として販売される天然鉱物資源です。 特にスズ、タングステン、タンタル、金などの紛争鉱物は3TGとも呼ばれ、紛争に関与する武装集団の資金源となっていることに加えて、児童の強制労働といった人権侵害を引き起こしているといわれています。 3TGは携帯電話や自動車などのさまざまな日用品や宝飾品に使用されているため、国際的な潮流として、企業は紛争の発生や地域社会の搾取に寄与しないように調達することが求められています。


紛争鉱物に関わる法規制として、米国では2010年7月にドッド・フランク法(第1502条)が制定されており、米国証券取引所に上場している企業は米国証券取引委員会(SEC)への報告と情報開示が要求されています。


EUにおいては、「紛争の影響を受けた高リスク地域からのスズ、タンタル、タングステン、それらの鉱石、および金の輸入者に対するサプライチェーンデューデリジェンス義務を課す欧州議会および理事会規則」(以下 EU紛争鉱物規則)((EU)2017/821)1)が施行されています。


本規則は、EUにおける3TGの輸入者、および紛争の影響を受けた高リスク地域から3TGを調達する製錬所や精製所の供給慣行に関して透明性と確実性を提供し、サプライチェーンのデューデリジェンスシステムの構築により、紛争地域の武装グループや治安部隊が3TGを取引する機会を削減することを目的としています。


本規則は2017年5月19日に公示され、同年7月9日より施行されていますが、その時点で適用される条項は一部に留まり、事業者への義務を含む多くの条項は2021年1月1日より施行されています。 今回のコラムでは、EU紛争鉱物規則において2021年1月1日より新たに適用された内容とともに規則の全面施行に伴って、公開された情報を説明します。


(1)EU紛争鉱物規則の全面施行

EU紛争鉱物規則の第20条では以下の条項が2021年1月1日から適用されると規定しています。


第1条:主題と範囲(5項)

第3条:輸入者のサプライチェーンデューデリジェンス遵守の義務(1項・2項)

第4条:管理システムの義務

第5条:リスク管理義務

第6条:第三者監査義務

第7条:情報開示義務

第8条:サプライチェーンデューデリジェンススキームの承認(6項・7項)

第10条:加盟国の管轄当局(3項)

第11条:輸入者の事後評価(1~4項)

第12条:輸入者の事後評価記録

第13条:協力と情報交換

第16条:違反時に適用される規則(3項)

第17条:報告とレビュー


サプライチェーンデューデリジェンスとは、紛争の影響を受けた高リスク地域に関連する実際のリスクと潜在的なリスクを特定して対処し、調達活動に関連する悪影響を防止または軽減することを目的として、3TGの輸入者に求められる管理システム、リスク管理、独立した第三者監査、情報の開示に関わる義務を意味します。 また、デューデリジェンススキームとは、政府、業界団体などによって開発および監督された自主的なサプライチェーンデューデリジェンスの手順やツール、および仕組みなど(独立した第三者監査を含む)を意味しています。


本規則におけるサプライチェーンデューデリジェンスは、経済協力開発機構(OECD)の「紛争の影響を受けた高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンにおけるデューデリジェンスガイダンス」2)に基づいており、課せられる義務についても本ガイダンスに整合した内容となっています。


本規制の対象となる紛争の影響を受けた高リスク地域は、武力紛争が進行中または紛争後の脆弱性がある地域、および失敗国家、人権侵害を含む国際法の広範囲にわたる違反が行われているような統治や安全保障が弱いか存在しない地域と定義されています。


これについては個々の企業では判断が難しいため、企業が紛争の影響を受けた高リスク地域の定義をよりよく理解し、サプライチェーン上のリスクを特定することを目的として、「高リスク地域およびその他のサプライチェーンリスクを特定するための拘束力のないガイドライン」((EU)2018/1149)3)が公示されています。


(2)全面施行に伴い発生する義務

2021年1月1日以降、3TGの輸入者は、第3条以降のサプライチェーンデューデリジェンスの要件を満たす必要があります。 概要は以下のようになります。


・管理システムの義務(第4条)

輸入者は、サプライチェーンポリシーを採用する必要があります。サプライチェーンポリシーの基準やサプライヤーとの契約、および合意の内容にOECDデューデリジェンスガイダンスの附属書IIの内容を調和させて組み込むことが求められています。


また、輸入者はサプライチェーンポリシーに関する最新情報をサプライヤーや一般の人々に伝達することが要求されています。 さらに、上級管理職に責任を割り当てることによってサプライチェーンのデューデリジェンスをサポートする内部管理システムを構築し、苦情処理メカニズムを早期警告のリスク認識システムとして確立することなども求められています。


・リスク管理義務(第5条)

輸入者は、サプライチェーンにおける悪影響のリスクを特定および評価し、特定されたリスクに対応するための戦略を実施する必要があります。 リスク管理措置は、OECDデューデリジェンスガイダンスの附属書IIと一致している必要があり、リスク管理の指定された責任を持つ上級管理職のメンバーに報告する必要があります。


・第三者監査義務(第6条)

輸入者は、独立した第三者による監査を実施する必要があります。 監査の範囲には、管理システム、リスク管理、情報開示など、サプライチェーンのデューデリジェンスを実施するために使用される輸入者のすべての活動、プロセス、およびシステムが含まれます。


ただし、サプライチェーン内のすべての製錬所および精製業者が本規制に適合していることを示す第三者監査報告書などの実質的な証拠を提供した場合、輸入者はこの義務を免除されます。 輸入者が欧州委員会によって作成されたリスト(第9条)に含まれる製錬所および精製所から独占的に調達していることを証明できる場合、証拠は十分であるとみなされます。


・情報開示義務(第7条)

輸入者は、第三者監査の結果を加盟国の管轄当局に提供する必要があります。また、デューデリジェンスの結果として取得、維持された情報を機密性と競争上の懸念を十分に考慮して、下流の購入者に開示する必要があります。 さらに、毎年、サプライチェーンのデューデリジェンスポリシーおよび責任ある調達の慣行について、インターネット等を介して公に報告する必要があります。


以上概要をとりまとめましたが、その他にも細かい要件がありますので、本規則の条文とOECDデューデリジェンスガイダンスの内容を合わせて御確認することをお勧めします。


また、欧州委員会は中小企業が鉱物および金属のサプライチェーンに関するデューデリジェンスを実施するための情報提供を目的としたポータルサイト(Due diligence ready!

)4)を公開しています。本サイトでは、紛争鉱物に関する専門用語集や上記OECDデューデリジェンスガイダンスに関するFAQやEU諸国における管轄当局の公式リストなども掲載されており、本規則に新たに取り組む企業が上記の要件を理解することを支援しています。


(3)附属書Iの改正

本規則では、3TGの各鉱物または金属の年間輸入量のしきい値が付属書Iにより定められており、しきい値を超えた鉱物または金属の輸入者は上記の要件を満たす必要があります。 附属書IのパートAには鉱物、パートBには金属が分類されており、それぞれにCNコード、TARIC下位分類や年間輸入量のしきい値が明記されています。


2020年10月30日、欧州委員会は(EU)2017/821の附属書Iを改正する委員会委任規則((EU)2020/1588)5)を公示しました。 今回の改正によって、2017年当時、分類コードが不完全であったため、しきい値が未設定となっていた下記5種類の鉱物および金属の年間輸入量のしきい値が設定されました。


・タンタルまたはニオブの鉱石および精鉱:100,000kg

・金の鉱石および精鉱:4,000,000kg

・酸化スズおよび水酸化スズ:3,600kg

・タンタル酸塩:30kg

・炭化タンタル:770kg


欧州委員会は2021年1月1日以降、3年ごとに加盟国から提供された過去2年間の輸入情報に基づき、附属書Iに記載されている既存のしきい値を修正する権限があります。 また、新しく設定されるしきい値については、EU年間総輸入量の95%以上に相当し、それぞれの分類の最大値が設定されます。


(4)紛争の影響を受けた高リスク地域(CAHRA)の非包括的リスト

本規則 第14条では、欧州委員会は、定期的に更新され、紛争の影響を受ける高リスク地域の指標となる非包括的なリストを提供するために外部の専門的な見解を要請しなければならないとしています。


この規定に基づき、欧州委員会は、非営利の調査組織であるランドヨーロッパと契約して、紛争の影響を受けた高リスク地域(CAHRA)の非包括的リストを提供するプロジェクトを実施し、2020年12月17日にCAHRAリスト6)が公開されました。


今回公開された最初のCAHRAリストは2020年9月のデータに基づいて作成されており、27か国が含まれています。 特定の詳細については、CAHRAの名前をクリックすることにより、個々の詳細なレポートを確認することができます。 なおCAHRAリストは四半期ごとに見直され、更新されます。


(5)さいごに

今回、完全施行となったEU紛争鉱物規則ですが、上述の米国の規制において、すでにデューデリジェンスに取り組まれている企業も多いかと思われます。


米国の規制は、「その者の製造する製品の機能または生産に必要」とされる紛争鉱物を対象範囲にしているため、当事者となる米国の上場企業は使用量に関係なく、紛争鉱物を使用、含有するすべての製品におけるサプライチェーンのデューデリジェンスを行う必要があります。 そのため、自動車のように多くの構成部品を使用する製品においては、それぞれのサプライヤー毎にデューデリジェンスを行うことが求められます。


いっぽうでEU紛争鉱物規則は、義務を課す対象事業者をEU圏内への輸入者とし、さらに附属書Ⅰのしきい値により少量の輸入者は適用除外と規定しているため、現時点では本規則が完全施行されることにより直接的な影響を受ける事業者は限定的といえます。 ただし、EU紛争鉱物規制は2023年1月1日まで(以降3年ごと)に追加措置を含めた全体の影響評価を行うと規定しているため、今後短期的に改正が行われる可能性も考えられます。


また、紛争鉱物の調達地域についても、米国の規制はコンゴ民主共和国または隣接国で採掘および精製された鉱物に適用されますが、EU紛争鉱物規制は、その範囲を拡大して、紛争の影響を受けた高リスク地域から採掘された鉱物を対象としています。 そのため、それぞれの法規制に対応するためには、これらの相違点を意識したうえで、デューデリジェンスを行う必要があります。


なお、欧州委員会による上述のポータルサイト(Due diligence ready!)内において、EU紛争鉱物規制の法的な義務を課せられない事業者においても同様にサプライチェーンデューデリジェンスに取り組むことを推奨するとしています。 これは、3TGを含有する製品のサプライチェーン全体でデューデリジェンスを行う世界的な傾向(潜在的なリスク回避やCSR意識の高まりによる)を考慮すると、今後は法的要求だけでなく、顧客からのデューデリジェンス要求も増加することが予想されているためであると説明されています。


EU紛争鉱物規制の完全施行に伴い、各種のガイダンスやポータルサイトといった情報が充実したことにより、新たにデューデリジェンスに取り組む企業への支援の体制が整ったといえます。 これは日本国内においても新たにサプライチェーンデューデリジェンスに取り組む、または現状の取り組みが不十分な事業者とっても有効な情報であると考えられます。


(柳田 覚)


引用

1)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A02017R0821-20201119

2)

https://www.oecd.org/daf/inv/mne/mining.htm

3)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32018H1149

4)

https://ec.europa.eu/growth/sectors/raw-materials/due-diligence-ready_en

5)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32020R1588

6)

https://www.cahraslist.net/


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