当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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化学物質管理にかかわる労働安全衛生法改正の動きについて「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の情報から

2021年03月05日更新

今年になり二酸化炭素中毒のニュースがありました。 一酸化炭素中毒はよく知られています。珍しい事故かと思われがちですが、化学物質の災害事例を調べてみますと、意外に多いものです。 その他の化学物質による労働災害についても、年間400件超も起こっています。 労働安全衛生法(以下、労安法)においては、平成28年から危険有害性の化学物質を取り扱う事業場にリスクアセスメントを実施することを義務化していますが、化学物質災害の減少傾向は鈍化しているようです。


厚生労働省では、「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」を開催し、2020年12月まで10回の検討会が行われてきました。 その「中間まとめ」が行われ、2021年1月に公表されました。 2021年2月26日には、「中間とりまとめとこれに基づく具体的な進め方」(以下、「進め方」)が公表されました。


2021年3月1日にその検討会が開催されましたが、現在のコロナ禍の状況で、傍聴者数が制限され傍聴ができませんでした。


公表されました「中間とりまとめとこれに基づく具体的な進め方」では、今後の労安法第57条に関連する改正をするとの方向性が示されています。 このコラムでは、公表資料からこの概要について紹介します。


1.ラベル表示・SDS交付の義務対象化学物質の拡大

グローバルには、GHS分類で危険有害性に分類される化学物質はすべてラベル表示・SDS交付の対象になっています。

他方、国内では、化管法ではSDS交付対象物質は562物質、労安法では労安法第57条、および、労安法第57条の2にラベル表示・SDS交付対象物質は674物質(2021年3月1日現在)です。


今回の中間報告では、労安法のラベル表示・SDS交付対象物質として義務化する物質を拡大するというものです。 「進め方」では次のように提案されています。


・国によりすでにGHS分類が行われている物質3,018物質について、危険性または健康有害性が確認されていない物質(環境有害性のみに分類されている物質)の洗い出し。これらの物質は、義務化対象物質とはしない。

・2021年度(1年目)に新たに義務化対象とする物質は約700物質:国によりGHS分類を行われている物質から、発がん性、生殖細胞変異原性、生殖毒性及び急性毒性のカテゴリーで区分1相当の有害性を有する物質

・2022年度(2年目)に追加される対象物質は約700物質:上記以外で、区分1相当の危険有害性を有する物質 、区分2相当の危険有害性を有する物質

・2023年度(3年目)に追加される対象物質は約700物質:上記以外の物質

・2024年度(4年目)に追加される対象物質は約150~300物質:2021年度~2023年度に新規に国によりGHS分類される物質

・2025年度(5年目)以降に追加される対象物質は約50~100物質: 前年度に新規に国によりGHS分類される物質


施行までの経過措置期間は2~3年とされています。ラベル表示・SDS交付対象物質の追加は、政令(労働安全衛生施行令)で行われます。


なお、労働安全衛生規則第24条の14及び第24条の15に基づき、ラベル表示・SDS交付義務の対象物質以外の危険有害性を有するすべての化学物質及びそれを含有する混合物についても、ラベル表示及びSDS交付が努力義務とされていることには、注意いただきたいとおもいます。


2.SDSの記載内容の見直しについて

現行、SDSの更新義務は規定されていませんが、EU等では更新の義務規定があることから、それを導入するものです。

すなわち、SDSの交付義務対象物質について、定期的に危険性・有害性に関する情報を確認し、新しい情報を取得した場合はSDSの記載内容を改正し、一定期間内等にSDSを再交付しなければならないことになります。


ただ、進め方においては下記の検討課題が挙げられています。


・危険性・有害性に関する情報の更新状況の確認は、どの程度の頻度で実施すべきか?

・危険性・有害性情報が更新されたことが確認された場合、どのようなスケジュールでSDSの記載内容の更新、再交付を行うこととすべきか?

また、その他の課題として下記も挙げられています。

・混合物のSDSには、裾切値以上含まれる全てのSDS交付義務対象物質の成分及び含有量の記載を義務化させるべきか?

・SDS交付義務対象物質が今後増加する中で、どこまで記載を求めるべきか?

・危険性・有害性に関する情報を伝達するという趣旨を踏まえて、どこまでが必要な情報か?

・最終製品のSDSには、推奨用途での作業を念頭に、「貯蔵又は取扱い上の注意」(使用すべき保護具の種類など)、「事故発生時に講ずべき応急措置」をより具体的に記載することを求めるべきか?


3.自律的な管理の実施状況のモニタリングについて

労安法第57条の3に関連するものです。今回の「中間のまとめ」で注目したい項目です。

労安法第57条の3では、事業者に対してラベル表示・SDS交付対象物質のリスクアセスメントの義務が定められています。


ラベル表示・SDS交付対象物質の中で、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則等の個別 の規則で定められている物質については、定められている条件を確認することによりリスクアセスメントを行ったことになります。その他の物質については、事業者がリスクアセスメントを行うことが必要です。事業者が行うリスクアセスメントについてその実施を、より確実にするものと言えます。


「中間とりまとめ」では、「ウ 労使等による化学物質管理状況のモニタリング」の項目の中に「(ア)自律的な管理状況に関する労使等によるモニタリング」として示されています。 リスクアセスメントを事業者のみが行うのではなく、作業者を参画させ、労使共同で行うことを規定するものと言えます。


「中間とりまとめ」では、下記の項目を義務化することが提案されています。


・自律的な管理の実施状況(労働者数50人未満の事業場においては労働者からの意見 の聴取状況を含む)を記録し、一定期間(リスクアセスメントの実施結果については、 次にリスクアセスメントを実施するまでの間)保存すること。

・化学物質の取扱いの規模が一定以上の企業は、定期的に、自律的な管理の実施状況について、インダストリアル・ハイジニスト(筆者注:日本の労働安全衛生コンサルタントに相当する米国の認定専門職)等の専門家の確認・指導を受けること。


これらに対して「進め方」では、検討課題として下記が挙げられています。


・自律的な管理の実施状況の記録は、行政及び労使において事後に検証することができるよう、3年間保存する(ただしリスクアセスメントの実施結果は、ばく露防止対策を講じる上で必要不可欠であることから、次にリスクアセスメントを実施するまでの間保存する)こととしてはどうか?

・インダストリアル・ハイジニスト等の専門家による確認・指導について、以下の点についてどのように考えるか?

-専門家は、実施状況の妥当性について、具体的にどのような観点から確認・指導するべきか?

-「化学物質の取扱いの規模が一定以上」について、具体的に何を基準とするのが適当か。化学物質の製造・取扱いの数量を基準とすることでよいか?また、一定以上とは具体的にどのような基準とするべきか?

-「定期的」とは、具体的にどのような頻度とするのが適当か?上記の記録の保存期間との整合性も必要ではないか?

-専門家は、社外人材であることを要件にする必要はあるか?



4.中小企業に対する支援措置について

「中間とりまとめ」では、化学物質に関する知識を有する人材が十分でない中小企業に対して、適切に化学物質管理が行えるように、下記の政策の提案がされています。

・化学物質管理に関するガイドラインの策定

・専門家による支援体制の整備

・化学物質管理を支援するインフラの整備


「進め方」においては、下記の項目が提案されています。

・化学物質管理に関するガイドラインの策定

特に管理が困難と考えられる物質や、危険性・有害性(ハザード)が高い物質については、中小企業等における管理の参考となるよう、標準的な管理方法等をまとめたガイドラインを、国が研究機関や業界団体と協力して示す。

・化学物質管理を支援するインフラの整備

国は、スマートフォンやタブレット等を活用して、専門知識がなくても化学物質管 理が容易に実施可能な、簡易な管理支援システムを開発するとともに、化学物質管理に関する情報を集約したポータルサイトの整備について検討する。


「進め方」では下記の検討課題が挙げられています。

・標準的な管理方法等をまとめたガイドラインは、業種ごと、作業ごとに策定する必要があるか?

・作業や取り扱い物質に応じた適切なガイドラインを選択し、ばく露防止対策を取ることは、リスクアセスメント及びその結果に基づく措置を行ったものとして取り扱うこととができるか?

・スマートフォンやタブレット等を活用した簡易な管理支援システムには、どのような機能が求められるか?

・化学物質管理に関する情報を集約したポータルサイトには、どのような機能が求められるか?


5.将来的な規制のあり方(特化則等の位置づけ)について

「3.自律的な管理の実施状況のモニタリングについて」と特化則や有機則等の規制の在り方が検討課題として示されています。

「中間とりまとめ」では、下記のように示されています。

・有害性(特に発がん性)の高い物質について国がリスク評価を行い、特化則等の対象物質に追加し、ばく露防止のために講ずべき措置を国が個別具体的に法令で定めるというこれまでの仕組みを、国はばく露濃度等の管理基準を定め、危険性・有害性 に関する情報の伝達の仕組みを整備・拡充し、事業者はその情報に基づいてリスクアセスメントを行い、ばく露防止のために講ずべき措置を自ら選択して実行することを原則とする仕組みに見直すことが適当である。

・すでに国でGHS分類された危険有害物のうち、特化則、有機則等の個別 の規制で管理方法が具体的に定められているものについては、これらの規定に基づく管理を引き続き適用する。


「進め方」においては、下記を検討課題として挙げています。

・新たに特化則等に対象物質を追加することは行わない場合、

-現行の特化則、有機則等は当面維持する、ということとしているが、自律的な管理が原則となる中で、特化則等の個別の規制は将来的 にどのような扱いとするべきか?

-仮に特化則等を廃止して自律的な管理に将来的に統合する方向とする場合においても、自律的な管理においても必要と思われる特化則等での規定はあるか?

参考)

-自律的な管理においては、労働者が吸入する濃度を管理の基準とするため、場の濃度を基準値以下に下げられない場合でも、十分な防護係数を有する呼吸用保護具を使用することにより労働者が吸入する濃度を下げることも可能となるが、特化則等では、場の濃度を管理濃度以下に維持すること自体が法的義務である。

-有害性の区分1の物質についても、自律的な管理においては、健康診断の実施の要否は事業者の判断となるが、特化則等では、対象物質である限り6月ごとの健康診断の実施が法的義務である。


早ければ、今年中に、ラベル表示・SDS交付対象物質が追加されると予想されます。 また、将来、化学物質の管理は自己責任で行ことが求められることになります。 これまでは、特化則、有機則等で規制される物質について管理をすればよいと思われていたかもしれませんが、これからは労働基準法に基づく「安全配慮義務」を念頭に入れて頂きたく思います。


参考資料

1)

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06355.html


(林  譲)


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