当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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公共施設の子供用品における化学物質含有調査の概要

2021年06月04日更新

現在、子供向けの製品における化学物質の含有は、さまざまな法規制で規制されています。 これは、床を這い回ったり、物を口に入れたりするなど、子供特有の行動特性や大人に比べて代謝が高いことから、子供に焦点を合わせたばく露とリスク評価に基づいた規制が必要とされるためです。 そのような背景により最近では、子供用品における化学物質含有に関する情報も多く公開されるようになっています。


今回のコラムでは、4月20日にスウェーデン化学物質庁(KEMI)より公開された公共施設における子供用品の含有化学物質に関する調査プロジェクト1)の概要を説明します。


1はじめに

スウェーデンの環境目標2)は、汚染の無い健康的な環境を次世代に引き継ぐことを全体的な目標(世代の目標)としたうえで、16の環境品質目標、および廃棄物、生物多様性、有害物質、持続可能な都市開発、大気汚染、気候の分野におけるいくつかの指標で構成されています。 16の環境品質目標のひとつである「無毒な環境」3)においては、以下の6つの目標4)が明確化されています。


・全ての経路を通じた化学物質への合計ばく露量を人体や生物の多様性に有害ではないレベルに抑える。

・可能な限り危険な物質の使用を停止する。

・意図せずに形成された危険な物質の拡散を抑制し、これらの物質とその分解生成物の形成、発生源、排出、および拡散に関する情報を利用可能にする。

・汚染された地域が人の健康や環境に脅威を与えない程度に改善される。

・リスク評価を十分に行うために化学物質の環境および健康特性に関する知識を利用可能にする。

・材料、化学製品、商品に含まれる環境および健康に有害な物質に関する情報を利用可能にする。


本調査プロジェクトは、無毒な日常生活のための行動計画における枠組みの中で実施された取り組みのひとつです。


2調査プロジェクトの対象

近年、KEMIによる製品の有害物質調査は、子供が取り扱う製品や家庭環境で発生する製品に焦点を合わせています。 従来の調査では家庭環境における製品に重点を置いていたため、今回の調査では学校、幼稚園、遊び場、スポーツや体育館など、子供がよく滞在する環境における製品を対象としています。


本調査プロジェクトでは様々な種類の転倒や落下の防止に関わる製品を対象としています。 転倒は子供が滞在する環境で頻繁に発生しますが、以前の分析や文献調査では、その防止に関わる製品の素材(軟質プラスチック、ゴム、発泡プラスチック)には、有害物質が存在する可能性があるとされています。そのため、調査対象の素材としては、ポリウレタン(PU)フォームとPUコーティングされた繊維、その他の発泡体、ポリ塩化ビニル(PVC)、リサイクルゴム、合成ゴム等が特定されました。


ただし、検討段階において人工芝や人工芝に用いられるゴム顆粒に加えて、ボールやマット、大型の樹脂製の積み木(組立ブロック)などのさまざまな種類の遊具や体操器具も対象に加えられました。 その結果として対象製品は合計90品目が選定されました。


調査対象企業については、地方自治体により、学校、遊び場、幼稚園に物品を販売するサプライヤに関する連絡先情報の提供を受けました。 また体操協会からの情報やインターネット検索により対象企業を追加し、スウェーデン消費者庁による遊び場の検査で収集された情報も考慮されました。そのような情報に基づき、合計29社が選定されました。


今回の調査プロジェクトにおいて対象としている法規制と分析対象物質は、以下の通りです。

(i)REACH規則(EC)No 1907/2006

・附属書XVIIの制限対象物質や認可候補物質(CLS)リスト収載物質

(ii)POPs規則(EU)No 2019/1021

・規定されている物質

(iii)玩具安全指令2009/48/EC

・放出可能性のある特定金属の含有制限

・香水およびCMR物質(発がん性癌、生殖毒性のある物質)の含有制限

・3歳未満の子供向けの玩具または口に入れることを目的とした玩具の物質の制限値(付録C)


3調査の結果

調査対象の90品目の製品のうち9品目の製品には、法規制の制限値を超える濃度の規制物質が含まれていました。 さらに、0.1重量パーセントを超える濃度の認可候補物質(CLS)を含む製品が8品目確認されました。


38品目の製品は規制物質を含有していましたが、制限値を下回る濃度、またはその製品が規制の対象に含まれないものでした。残りの35品目については、規制物質の含有は確認されませんでした。


制限値を上回る規制物質または認可候補物質(CLS)の含有が確認された製品は調査された製品全体の約20%でした。含有が確認された主な物質は以下の通りです、


(1)環芳香族炭化水素(PAHs)

対象製品の約10%に、多環芳香族炭化水素(PAHs)が含有していました。PAHsは発がん性が認められており、REACH規則の附属書XVIIのエントリー50として制限対象物質として収載されています。 ただし、数百の異なるPAHsが存在するなかで規制対象とされる物質はわずかであり、さらに製品や材料が皮膚または口腔に直接接触する場合のみに適用されるため、制限の対象となったのは4品目の製品のみでした。


PAHsは2015年にREACH規則の附属書XVIIに収載されているにもかかわらず、依然として含有する製品が市場で確認されています。


PAHsは、自動車のタイヤからリサイクルされた様々な種類のゴム製品に見られます。 古い自動車用タイヤを使用したゴムの顆粒を人工芝や遊び場の埋め戻しとして使用した場合、これらの物質が環境に拡散し、長期的には人々に影響を与える可能性があります。


制限値を上回るPAHsが確認された製品は、古い自動車用タイヤ由来の原料を使用していたと推測されます。 これは、原料として使用されている顆粒や古いタイヤが実際に法的要件を満足しているかどうかを知ることが困難であることを示しています。 原料となる細かく粉砕されたタイヤは、規制の異なる第三国(EU域外)から輸入された可能性も考えられますが、その詳細については、このプロジェクトでは調査されていません。


(2)リン酸トリス(1-メチル-2-クロロエチル)(TCPP)

TCPPは対象製品の約10%に含有が確認されました。TCCPは発がん性の可能性を有しており、玩具安全指令2009/48/ECの付録Cに収載されています。 TCPPは構造的に類似しているTCEPおよびTDCPとともに玩具では厳しく規制されています。 今回の調査対象製品において、本規制の対象となっているのは4品目の製品のみで、大半は非常に低い水準の含有でした。


今回の調査対象製品のうち、TCPPが7重量%以上含有する製品が確認されました。 (玩具安全指令2009/48/ECの規制値は5 mg/kg未満) ただし、その製品は遊び場の壁や障害物に使用されている保護フォームであったため、玩具安全指令2009/48/ECの適用範囲外でした。


このように玩具安全指令2009/48/ECの範囲に含まれない製品も遊び場や学校などの公共施設に存在しています。ECHAはTCCPのリスクを認識しており、長期的には他の種類の製品における規制案が設けられる可能性があります。


(3)フタル酸エステル類

調査対象製品に含有するフタル酸エステル類としてDIBPとDEHPが確認されました。DIBPとDEHPは生殖毒性を有するとされており、玩具安全指令2009/48/EC の規制対象であるうえ、REACH規則の認可候補物質(CLS)リストに収載されています。 また、附属書XVIIのエントリー51として制限対象物質として収載されています。


DIBPおよびDEHPの一般的な用途は、プラスチック材料の可塑剤であり、今回調査された製品の中には、マットレス、セラピーボール、ワックスクロス等がありました。


調査対象の5品目の製品に、フタル酸エステルのDIBPの含有が確認されたいっぽうで、DEHPを含む製品は非常に少なく1品目のみでした。 DEHPの含有製品は、軟質プラスチック材料を調査した以前の調査プロジェクトと比較すると、明らかに少ない結果となっています。


(4)アゾジカルボンアミド(ADCA)

6品目の製品にはアゾジカルボンアミド(ADCA)の含有がみられました。 ADCAはアレルギーや喘息の症状を引き起こす可能性があり、REACH規則の認可候補物質(CLS)リストに収載されています。 ADCAはゴムおよびプラスチックにおける発泡剤として使用される物質で、本調査では、ヨガマット、樹脂製の積み木(組立ブロック)、おむつ交換台のマットレスに含まれています。 製造過程が正しく運用されている場合、最終製品に残留はみられません。


(5)ジメチルホルムアミド(DMF(a))

ジムマットにおいては、ジメチルホルムアミド(DMF(a))の含有が確認されました。 DMF(a)は生殖毒性の可能性があるうえ、皮膚や目に接触すると有害であり、REACH規則の附属書XVIIのエントリー72として制限対象物質として収載されています。 DMF(a)は、繊維コーティングの製造プロセスおよびプラスチックの製造に使用される溶剤です。検出された製品中のDMF(a)は、製造過程における残留であると考えられます。


4さいごに

本調査プロジェクトの結果は、子供向けの公共施設で使用される製品には依然として健康と環境に有害な物質が含まれていることを示しています。


この結果から、製品を提供する企業に加えて、幼稚園や学校等の公共施設に所属する購入者についても、サプライヤに対して含有する化学物質に関する明確な要求をする必要があるとしています。


特定の法規制の範囲外にある公共施設の子供用品は一般製品安全指令 2001/95/EC(GPSD)の対象となります。GPSDのリスク評価はRAPEXの管理に関するガイドライン5)に示されており、企業が自らで行う必要があります。 上記のように公共施設に関係する購入者からの要求や情報は、製品のリスク評価を行ううえで、非常に有益な情報になりうると考えられます。


いっぽうで法規制の範囲外にある製品については、有害物質の規制値を定めて法規制化することで、法規制に準拠したより安全な製品を市場から入手できる可能性が高くなることにも言及されています。 今回の調査で抽出された物質の多くは、従来の調査プロジェクトにおいても規制違反が確認されていることから、今後規制が強化されることも考えられます。


例えば今後規制が強化される可能性のある物質として、UV-328があげられます。UV-328は紫外線吸収剤として様々な用途のプラスチックやゴム製品に使用されており、本調査でも屋外用資材に含有が確認されています。


UV-328は難分解性や生体蓄積性を有しており、REACH規則の認可候補物質(CLS)リストに収載されています。さらに、Pops条約における規制対象物質について検討を行う「残留性有機汚染物質検討委員会」(POPRC)で新たに規制が提案されており、次回の委員会でリスクプロファイル案を作成する段階に進められる予定です。6)


使用用途が多岐に渡るため、規制化に際しては多くの製品に影響を与えると思われますが、今後の規制動向を確認する必要があります。


また、今回の調査結果では、規制物質を含有しているほとんどの製品が意図的な使用ではなく、製造工程時の残留や汚染されたリサイクル材を原料としていることがわかりました。


EUにおいて循環型経済活動計画7)が示されているように、循環型社会への転換が進むことにより、今後、リサイクル原材料の利用も促進されていくと推測されます。 これは子供用品だけではなく、その他多様な製品においても同様です。そのため、製品を生産する企業においては、製造工程を精査し、リサイクル原材料に関する情報を明確に整理しておくことが重要だと考えられます。


柳田 覚


1)

https://www.kemi.se/publikationer/tillsynsrapporter/2021/tillsyn-4-21-material-i-barns-offentliga-miljoer


2)

https://sverigesmiljomal.se/miljomalen/


3)

https://www.kemi.se/en/about-the-swedish-chemicals-agency/our-task/a-non-toxic-environment


4)

https://sverigesmiljomal.se/miljomalen/giftfri-miljo/preciseringar-av-giftfri-miljo/


5)

https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32019D0417


6)

https://www.meti.go.jp/press/2020/01/20210122003/20210122003.html


7)

https://ec.europa.eu/environment/strategy/circular-economy-action-plan_en

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