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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

塩素化パラフィン類の光と陰

2024年03月01日更新

1.塩素化パラフィン類とは

塩素化パラフィン類(Chlorinated paraffins)は直鎖飽和炭化水素(アルカン)の水素原子が塩素原子で置換した化合物の総称であり、炭素の鎖長によって次の3つに大別されます。


・炭素数が10~13:短鎖塩素化パラフィン(SCCP)類

・炭素数が14~17:中鎖塩素化パラフィン(MCCP)類

・炭素数が18以上:長鎖塩素化パラフィン(LCCP)類



図 SCCP類の構造式の例(C13H22 Cl6の場合)(*1)


2.社会経済的便益

塩素化パラフィン類は価格が安く、物質特性として低揮発性や難燃性、電気絶縁性、撥水性、高圧下での潤滑性などを有することから、潤滑油や切削油といった金属加工油の極圧添加剤や、ポリ塩化ビニル(PVC)の可塑剤、皮革加脂剤、塗料添加剤、ゴム配合剤などに利用されており、主な用途としては金属加工油や電線被覆材、建築資材、輸送機器等が挙げられます。


3.人の健康または環境へのリスク

EUにおけるCLP規則に基づく「調和化された分類(CLH)」および日本の「国によるGHS分類」において、SCCP類、MCCP類、LCCP類の代表的な物質の評価結果見てみると、それぞれ次のような分類が示されています。


<EU>

・SCCP類:発がん性 区分2、水生環境有害性(急性・慢性)区分1 (*2)

・MCCP類:水生環境有害性(急性・慢性)区分1 (*3)

・LCCP類:CLHの指定なし


<日本>

・SCCP類:眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性 区分2B、発がん性 区分2、特定標的臓器毒性(単回ばく露) 区分3、水生環境有害性(急性・慢性)区分1 (*4)

・MCCP類:生殖毒性 区分1B、特定標的臓器毒性(反復ばく露) 区分1、水生環境有害性(急性・慢性)区分1 (*5)

・LCCP類:未評価

また、SCCP類とMCCP類については、EUでは、残留性・生物蓄積性・毒性(PBT)特性も示されています。両国の評価結果等から、鎖長が短いほど人や環境への有害性が明らかになっていることがわかります。


4.規制法の動向

上記のとおり、PBT特性を有するSCCP類については、2017年5月に開催されたストックホルム条約第8回締約国会議(COP8)において附属書A(廃絶対象)に「塩素含有量が全重量の48%を超えるSCCP類」が追加(*6)されたことを受けて、日本では化審法第一種特定化学物質に指定(*7)され、すでに国内での製造や使用は禁止されており、同様に世界各国でも規制化されています。


MCCP類については、高懸念物質として、EU REACH規則による認可対象候補リスト収載物質(CLS)に指定(*8)されていますが、現時点においては、成形品中の含有等に関する禁止や制限には至っていません。 しかしながら、2023年10月に開催されたストックホルム条約の第19回POPs検討委員会で自動車・社会インフラ向け電気電子機器・医療機器に用いる金属加工油剤や修理用部品等のためのMCCP類の使用といった一部用途を適用除外とした上で、「塩素含有量が全重量の45%以上のMCCP類」のストックホルム条約附属書A(廃絶対象)への追加を2025年5月頃に開催される第12回締約国会議(COP12)に提案することが決定(*9)されています。 そのため、近い将来には、SCCPと同様に世界各国で規制化されることが想定されます。 なお、EUではRoHS指令やREACH規則の制限対象としてもMCCP類の追加が検討されてきましたが、ストックホルム条約で廃絶対象となる見込みであるため、これらの検討は停止されています。


一方、LCCP類については、規制化の元となるGHS分類も実施されていない状況であるため、現時点では具体的な規制化の動きは確認されませんでした。


5.代替材とリスクトレードオフ

SCCP類の禁止規制化に伴い、SCCP類の代替として脱塩素化等の取組みが進められてきましたが、一部は現時点で禁止規制の対象外である鎖長の長いMCCP類やLCCP類へ代替されてきました。 しかしながら上述のとおり、禁止対象の範囲は今後MCCP類へと拡大する見込みです。


このように健康や環境へのリスクが明らかとなり規制対象となった物質から、類似物質に規制範囲が拡大する動きは、ペルフルオロアルキル化合物の一部であるPFOS類からPFOA類やPFHxS類に、さらにはポリフルオロアルキル化合物を含めたPFAS類全体へ、ビスフェノールAから類似のビスフェノール類へ等、様々な物質で検討が進められています。 また、これまでの規制の中にはノニルフェノールのように直鎖型と分岐型の両者が対象となる場合もあります。


類似物質への規制の拡大は、「残念な代替(規制された物質と同様のリスクを有する物質への代替)」を防ぐために今後も強化されることが想定されますし、条約の履行が進めば、さらに国内法で条約が定める以上の内容を規定あるいは条約に提案していくことも考えられます。


そのため、類似物質への代替にあたっては性能や機能といった品質面の確保とともに、既知の健康や環境へのリスクを評価・確認し、将来的な規制の可能性についても考慮することが必要になってきていると思われます。


【参考文献】

*1 環境省 デカブロモジフェニルエーテル及び短鎖塩素化パラフィンの環境リスク評価


*2 ECHA CLH(Alkanes, C10-13, chloro)


*3 ECHA CLH(Alkanes, C14-17, chloro)


*4 NITE 政府によるGHS分類(塩化パラフィン(炭素数が10から13までのもの及びその混合物に限る。))


*5 NITE 政府によるGHS分類(塩化直鎖パラフィン(炭素数が14から17))


*6 経産省 ニュースリリース


*7 経産省 第一種特定化学物質


*8 ECHA CLS(MCCP)


*9 経産省 ニュースリリース

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