当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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EUの新たな循環型経済(Circular Economy)活動計画

2020年04月24日更新

欧州化学品庁(ECHA)は2月に廃棄物枠組み指令(WFD)に基づく「(製品含有懸念物質(SCIP)データベース)」の試行版を公表1)し、企業に対してテスト実施を呼びかけています。 テスト結果のフィードバックを受けて10月頃に最終版とする予定で、2021年1月からの成形品供給者に義務付けられる「成形品中のCLS情報の届出」に向けて準備が進められています。


このSCIPデータベースの構築に大きな影響を与えたのが、2015年に策定された循環型経済(Circular Economy)活動計画です。 この循環型経済活動計画の新版が3月11日に公表2)されましたので、今回はその概要を紹介します。

1.目的と概要

「循環型経済活動計画~よりクリーンで競争力のあるEUに向けて~」と題された新たな活動計画3)では、冒頭で、地球は1つにも関わらず、このままいけば2050年までに地球3つ分の資源が消費されることになると警鐘を鳴らしています。 これを防ぐためにも、地球の範囲内で成長する経済モデルに移行すべく、資源消費の削減と今後10年間で資源の再利用を2倍に増やすことがこの活動計画の目的となっています。


ECの発表資料では、新たな循環型活動計画の要点として次の4項目が挙げられています。


・持続可能な製品をEU市場の標準とする

・消費者等の買い手の力を強化する

・循環の可能性が高い製品種に焦点を当てる

・再生材料市場を有効に機能させ、無駄をなくす

2.持続可能な製品をEU市場の標準とする

これまでもEUでは、持続可能な製品の提供に対して様々な法的または自主的活動が実施されてきたものの、EU市場で流通する製品全体に対する包括的な要件はありませんでした。 また、製品の環境影響の80%を決定する「設計段階」が重要であるものの、製品の製造者に対して、循環可能な製品設計を促す十分なインセンティブが提供されていませんでした。


そこで、2021年を目途に持続可能な製品に関する立法戦略を新たに策定し、その立法戦略の中心として、エコデザイン指令(ErP指令)が挙げられています。 ErP指令は現在エネルギー関連製品を中心に製品種ごとにエネルギー効率や資源効率などの要件が定められていますが、ErP指令の対象となる製品を拡大することで、気候変動や資源効率、循環型経済に適した持続可能な製品の市場流通を推進していくことが示されています。

3.消費者等の買い手の力を強化する

持続可能な製品の市場流通を推進するためには、消費者がそれらの製品を選んで購入するとともに、適切に使用することも必要になります。 そのため、消費者に製品寿命や修理サービスの利用方法、スペアパーツ、修理方法などの情報を販売時点で入手できるように消費者法を改正する方針が示されました。 また、これらの情報へのアクセスを確保するため、消費者の新たな権利として、「修理の権利(right to repair)」の確立を目指すことが示されています。

4.循環の可能性が高い製品種に焦点をあてる

循環型経済の実現に向けて、影響が大きい次の7つの製品分野について、より産業界等と連携して重点的に取り組みを推進していくことが示されています。 各製品分野における主な活動は次の通りです。


(1) 電気電子製品やICT製品

製品の長寿命化や廃棄物の回収・処理の改善等を図る「電気電子製品の循環戦略」を新たに策定するとともに、RoHS指令の見直しやREACH規則やErP指令とRoHS指令の関係を明確化するガイダンスを作成する。


(2) 電池および自動車

電池に関する新たな規制枠組みを提案するとともに、既存のELV指令の見直し等を行う。


(3) 包装材

包装材の使用が継続して増加傾向にあることから、包装材の必須要件等を強化するために包装廃棄物指令を見直す。


(4) プラスチック製品

再生プラスチックの使用を促進するため、プラスチックの主要用途である包装材や建築資材、自動車等での再生プラスチック使用や廃棄物削減の義務要件を提案するとともに、マイクロプラスチックの意図的添加の制限や非意図的放出への対応を図る。


(5) 繊維製品

持続可能な繊維製品の製造を推進するとともに、繊維廃棄物の徹底した分別収集を図ること等を示す、繊維製品に対する包括的なEU戦略を新たに策定する。


(6) 建設資材

建設資材における一定量のリサイクル材料の使用を義務付ける等の建設資材規則の改正を図る等、持続可能な建設環境に関する包括的な戦略を新たに策定する。


(7) 食品・飲料

食品廃棄物の削減目標の設定を提案するとともに、使い捨ての容器や食器、カトラリーの再利用の立法化に向けた調査を開始する。

5.再生材料市場を有効に機能させ、無駄をなくす

廃棄物の発生抑制や循環利用に向けて廃棄物政策を強化するため、前述のRoHS指令やELV指令、包装廃棄物指令、電池指令等の見直し等とともに、廃棄物枠組み指令への廃棄物削減目標の導入や、拡大生産者責任(EPR)の強化等の方針が示されています。

また、資源循環を推進するためには、使用禁止物質を含有する再生材料によって、再生材料の安全性が損なわれることを防ぐために、次のような取組を推進することが示されています。


・廃棄物の分別や有害化学物質の除去に関する対策の開発支援

・リサイクル材料およびそれら材料から製造された製品における有害化学物質の含有を最小限に抑える対策の開発

・ECHAのSCIPデータベースとの相乗効果によって、製品中の高懸念物質や再生処理作業において技術的な課題がある物質等の情報の追跡・管理に関する調和化したシステムの開発

・ストックホルム条約に基づく国際的な義務を履行するためのPOPs規則附属書の改正

・グリーンなリサイクルの流れを維持するための有害廃棄物の分類や管理の改善


さらに、今後公表される予定の「持続可能な化学物質戦略」では、化学物質と製品、廃棄物関連法規制の関係性をより強化・改善し、循環型経済との相乗効果を図る方針が示されています。

6.最後に

今回は新たな循環型経済活動計画の概要を紹介しました。 本活動計画そのものは今後の方針や活動項目を大まかに示したものですが、REACH規則等の化学物質規制から、RoHS指令やELV指令、包装廃棄物指令、ErP指令等の製品関連規制など、製品に関わる既存の規制の多くが取り上げられており、これら既存規制については、循環型経済を見据えた見直しの検討がスタートしています。


2021年にはSCIPデータベースに対する成形品中のCLSの届出がスタートし、RoHS指令も2021年7月までに見直しに向けた改正案を策定することが定められています。 これら各法規制の動向を個々の法規制のみの動きとしてとらえるのではなく、その上位に位置する循環型経済活動計画等のEU方針や戦略の概要を把握しておくことで、個々の動向の意図に対する理解が深まるものと考えます。

(井上 晋一)

1)ECHA ニュースリリース

https://echa.europa.eu/-/substances-of-concern-in-products-database-try-out-the-prototy-1


2)EC プレスリリース

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_20_420


3)ECHA 新たな循環型経済活動計画

https://ec.europa.eu/environment/circular-economy/pdf/new_circular_economy_action_plan.pdf

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