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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q657.ラベル表示・SDS(安全データシート)提供義務について

2023年05月19日更新

【質問】

がん原性、強い変異原性を示す物質として指定された物質は、ラベル表示・SDS提供が義務でしょうか、それともGHS分類基準で危険有害性がある物質と同様の努力義務に留まるのでしょうか。

 

【回答】

日本国内で化学物質やその含有製品などを譲渡提供する事業者には、その化学物質が以下の詳細解説に記す3つの法令の当該リストのいずれかに指定されているとき、SDS提供の義務が課されます。 また、法令によっては、ラベル表示やリスクアセスメントも義務になります。 3つの法令のリストは、それぞれ独自に維持されているため、1成分ごとに3つの法令リストを別々に参照する必要があります。 すなわちラベル表示やSDSの提供義務はこれら3法令に基づく義務対象物質であるか否かで判断され、がん原性や強い変異原性の指定物質であるか否かではありません。


がん原性について、2022年12月26日に厚生労働省から「がん原性があるものとして厚生労働大臣が定めるもの」の告示*1) で、2023年4月1日から施行される約120物質の指定物質が決まりました。 また、2024年4月1日からはさらに約80物質が追加されます。 これらはいずれも、安衛法でラベル表示、SDS提供、およびリスクアセスメントが義務付けられている674物質や2024年に追加される234物質に含まれています。 このがん原性物質は前記告示の「別添3 対象物質の一覧」をご参照ください。


なお、これとは別に1991年以来「がん原性が認められた40物質について、健康障害を防止するための指針」*2) があります。 こちらは指針なので、法的拘束力はありません。


強い変異原性について、厚生労働省の職場のあんぜんサイト「強い変異原性が認められた化学物質」*3) に解説ページがあります。 原稿執筆時点で、新規化学物質として1085物質と既存化学物質として244物質が掲載されています。 総じて、あるいは個別物質ごとに指針等が公示され、ラベル表示やSDS提供なども求められています。 しかし、指針等には法的な拘束力はありません。 ただし、3つの法令のリストのいずれかに含まれていれば、当然、これら法令に基づく義務(詳細は後記)が課されます。


3つの法令リストにも指定されていなくても、GHS分類基準で危険有害性(質問のがん原性、強い変異原性などの健康に対する有害性を含む)がある場合には、労働安全衛生法によりラベル表示・SDS提供・リスクアセスメントが努力義務になります。


ここで、ラベル表示・SDS提供の「努力義務」や、法的拘束力のない「指針等」は「やらなくてよい」ことではありません。 譲渡先にSDSを提供することで、危険有害性があることの情報を伝達し、リスクアセスメントなどで安全な作業手順と防具等の検討を行わせ、作業従事者の安全と健康を守ることができます。


以下、詳細に説明します。


1.GHSへの対応

GHSとは、国際的に推奨されている化学品の危険有害性の分類・表示方法です。 その基本は、紫色の表紙のためパープルブックと呼ばれている国連GHS文書「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS)」です。 年に2回開催される国連GHS専門家小委員会で討議され、2003年に初版発行以来、2年に1回改訂されて、現在2021年公開の改訂第9版が最新です。


GHSには、①分類基準(危険有害性を判定するための国際的に調和された基準)と②情報伝達手段(ラベルやSDS)の内容が定められています。


日本国内でも、国連GHS文書に基づいて日本産業規格(JIS)が制定されます。現在、2015年に公開されたGHS改訂第6版に準拠したJIS Z7252:2019とZ7253:2019があります。 各省庁のGHSに関する情報の共有と国連GHS専門家小委員会への対応のために、「GHS関係省庁等連絡会議」が設置されています。


2.日本でラベル表示やSDS提供を義務付けている3つの法令

日本国でSDS提供・ラベル貼付を義務付けている法令は、①経済産業省所管の「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(化管法)、②厚生労働省所管の「労働安全衛生法」(安衛法)及び「毒物及び劇物取締法」(毒劇法)の3つです。


2.1. 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(化管法)

化管法は、2021年10月の政令改正で、指定化学物質の追加などがあり、2023年4月から施行されました。 第一種指定化学物質515物質(特定第一種指定化学物質23物質を含む)と第二種指定化学物質134物質の合計649物質又はこれらを規定含有率以上含有する製品に、SDS提供義務とラベル表示の努力義務があります。


指定化学物質649物質のリストは、経済産業省のWebサイト*4) に公開されています。 また、(独)製品評価技術基盤機構(NITE)のデータベース「化学物質総合情報提供システム(CHRIP)」*5)からも確認することができます。


2.2. 労働安全衛生法(安衛法)

安衛法は、2022年2月の政省令改正で、(1)情報伝達の強化、(2)リスクアセスメント関連、(3)実施体制の確立、(4)健康診断関連、(5)特別規則(特化則、有機則等)関連の諸規定が抜本的に変わり、内容により2023年4月1日と2024年4月1日に分けて施行されます。


現在、安衛法でラベル表示・SDS提供・リスクアセスメントを義務(第57条、第57条の2、第57条の3)としているのは、安衛法施行令別表第3第1号に指定されている製造許可物質(7物質)と同別表9に指定されている表示・通知義務対象物質(667物質)の合計674物質とそれらの各々に対して定められた裾切値と呼ばれる濃度以上含む混合物です。 今後、2024年4月1日施行で2021年に決められた234物質が追加され、その後も毎年数百物質が追加されて、2026年には約2900物質が指定される見込みです。


さらに、安衛法は、施行令別表9に指定されていなくても、「危険有害な全物質」(GHS分類基準やJIS Z 7252で危険有害性を判定)について、ラベル表示・SDS提供・職場のリスクアセスメントを努力義務(第24条の14、第24条の15、第28条の2)としています。


ラベル表示・SDS交付義務対象674物質の一覧は、厚生労働省のWebサイトに公開されています。*6)


2.3. 毒物及び劇物取締法(毒劇法)

毒劇法は、毒物又は劇物にラベル表示とSDS提供を義務付けています。毒物又は劇物の一覧は、国立医薬品食品衛生研究所の毒物劇物の検索サイト*7)や製品評価技術基盤機構「化学物質総合情報提供システム」*5)に掲載されています。


3.わかりやすい資料

体系的に解説している資料として、経済産業省・厚生労働省から「化学品を取り扱う事業者の方へ-GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供制度」(2022年1月)*8)、厚生労働省から「化学物質管理者講習テキスト~リスクアセスメント対象物製造事業場向け~」(2023年3月)*9) があります。厚生労働省の職場のあんぜんサイト「化学物質」*10) にも情報が集積されています。


また、本稿Q&AのREACH653「SDSの交付義務について」*11)では、SDS提供をしなくてもよい場合について整理しています。


*1) 厚生労働省報道発表資料「労働安全衛生規則に基づき作業記録等の30年間保存が必要ながん原性物質を定める告示を行いました」


*2) 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「がん原性に係る指針対象物質」


*3) 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「強い変異原性が認められた化学物質」


*4) 経済産業省 化管法SDS制度 対象化学物質


*5)(独)製品評価技術基盤機構(NITE)のデータベース(CHRIP)


*6)厚生労働省「職場の安全サイト」ラベル表示・SDS交付義務対象物質


*7) 国立医薬品食品衛生研究所 毒物劇物の検索サイト


*8) 経済産業省・厚生労働省:化学品を取り扱う事業者の方へ-GHS対応-化管法・安衛法・毒劇法におけるラベル表示・SDS提供制度(2022年1月)


*9) 厚生労働省:化学物質管理者講習テキスト~リスクアセスメント対象物製造事業場向け~(2023年3月)


*10) 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「化学物質」


*11) 東京環境経営研究所:Q&A REACH 653「SDSの交付義務について」

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