当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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米国環境保護庁による化学物質管理政策と最近の動き

2020年07月21日更新

米国の米国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency、以下EPA)により進められています化学物質管理の法令に基づいた様々な政策の中なから、最近の主な動向も含めて採りあげて、ご紹介します。

1.TSCAに基づく政策

有害物質規制法(Toxic Substance Control Act、以下TSCA)は米国の商業的に製造使用される化学物質を規制する法律として、非常に重要な位置を占めており、米国法典(United States Code)中に、 Title 15 CHAPTER 53として収録されています。 1) その目的は人の健康や環境に対して不合理なリスク(unreasonable risk)のある化学物質を規制することです。

1-1.TSCAインベントリーの更新

TSCAでは、EPA長官は米国内で製造(輸入を含む。以下同様)、あるいは加工された化学物質のリストを編集し、最新の状態に維持し、公表すると定められており、これに基づいて作成されているのがTSCAインベントリーです(section 2607(b))。

TSCAではこれに収載されている物質を既存化学物質、未収載のものを新規化学物質としています。


新規化学物質を米国内で初めて製造する者は製造前届出(Pre-Manufacturing Notice、以下PMN)を行い(section2604)、EPAはその際に提出された情報を審査し、承認されたものについては届出者に通知、これを受けて届出者は製造開始後、開始届(Notice of Commencement、以下NOC)を提出します。

EPAはNOCを受領後、この物質を既存化学物質としてTSCAインベントリーに収載します。


なおPMNの際に提出する情報については事業上機密にすべき情報(Confidential Business Information、以下CBI)の必要性は認めており、物質のアイデンティティ(CAS番号、分子構造等)や用途カテゴリーに関するものは、届出時に一定期間の秘密保持の請求が可能です(section2613)。 なお、物質の取扱量が年間10ton未満や、特定条件を満たすポリマー、研究開発用等の場合には届出を行った上でPMNの義務は免除されます。


新規物質を製造、あるいは輸入しようとする者にとって、こうした公開情報からはそれがTSCAインベントリーに収載済か否かが不明なことがあります。


この様な場合、EPAに対し直接問い合わせることが可能です。その際に製造者あるいは輸入者は、その物質のそれまでの研究開発、試作の状況や米国外での使用状況、主な使用目的や用途、赤外線分光あるいはその代替となる分光データ等の情報の提供が求められます(40CFR720.25)。 2) EPAはこれらの情報を審査し、そこに「善意の意図」(Bona Fide intent)の存在が認められれば、申請者に対しその物質がTSCAインベントリーに収載済か否かを開示します。

EPAでは年間約400件のNOCを受け取っているため、収載物質は増加の一途で、毎年1月及び6月頃の年2回更新されています。 直近のものは2020年6月更新版で、これには計86,405の物質が収載されています。3)


TSCAインベントリーには以下の様な情報が掲載されています:

(1) 物質のアイデンティティ

(2) Flag:適用される規制等、その物質についての個別の状況を以下の様な記号で示しています。

・PMN:PMNが開始された物質

・5E:同意指令(Consent Order、以下CO)の対象とされた物質(section2604(e))。これはPMNを審査の結果、リスクに関する情報が不十分、あるいは不合理なリスクの恐れがある場合等に、その製造や使用等の制限に関する管理条件を規定してPMN提出者に対し出される指令です。

・R:リスク管理対象とすることを指定、あるいは提案された物質(section2605)。

・T:試験対象とされた物質(section2603)。

・TP:-試験対象とすることを提案された物質。

・S:重要新規利用規則(Significant New Use Rule, 以下SNUR)の対象とされた物質(section2604(a)の(2))。 COが発令された物質について、PMN提出者以外への公平性を期すために適用されるその化学物質の製造等を制限あるいは禁止する措置に関する規則です。 新規化学物質の他、既存化学物質についての新たな使用が「重要な新規使用」であると判断される場合にも適用されます。

・SP:SNURの対象とすることを提案された物質。

・XU:化学物資データ報告規則(Chemical Data Reporting、以下CDR)に基づく報告を免除された物質( section 2607(a))。 CDRでは、一定量以上の化学物質を製造、加工する者は、EPAへ報告する義務があります。

(3) active/inactiveの別:アクティブ物質制度とは、2016年改正後のTSCAに導入されました。2016年6月以前の10年間に製造、加工の実績のあった物質を、それ以降届出されたものも含め、active、そうでないものをinactiveとして指定するものです(section2607(b)の(4))。

2020年6月更新版では、物質のアイデンティティの扱い等により、次の2種のリストに分けて掲載されています:

1) TSCAINV:Cas. No.と共に物質名を公開しています。Flagやactive/inactiveの別の他、物質がUVCBの場合にはその旨記載されています。収載物質数68,091(うちactive 33,447、inactive 34,644)。

2) PMNACC:物質名でなく、一般名を掲載しています。Flagやactive/inactiveの別の他、PMN番号やEPAアクセス番号を記載しています。収載物質数18,314(うちactive 8,140、inactive 10,174)。

2種のリストの物質の合計は、計86,405物質(うち、active 41,587物質、inactive 44,818物質)となります。

なお、inactiveとして指定された物質を商業目的で製造あるいは加工を行おうとする者は、事前にEPAへ届けねばなりません。(section2607(b)の(5))

1-2.既存化学物質のリスクベース評価における優先順位の決定

既存化学物質のリスクベース評価制度は、TSCAの2016年改正時において、リスク評価はコストその他の非リスク要因は考慮せずに実施するとのスタンスの明確化や評価の手順等、制度としての整備がなされました(section2605)。

リスク評価を実施するに際し、先ず対象となる物質の優先順位付けを行う必要があります。4)


その詳細な手順は「リスク評価のための化学物質の優先順位付け規則」(40 CFR Part702.1~702.17)によりますが、その使用条件下で潜在的な危険有害性やばく露経路によって人の健康や環境に危害をもたらす不当なリスクが存在する可能性があると判断される物質を「高優先物質」、その基準に合致しないものを「低優先物質」として選定します。具体的には、前記アクティブ物質の中から候補物質を選定後、優先順位付け、スクリーニングレビュー等の過程により、パブリックコメントも実施しながら決定していきます。5)


この最近の動きとしてEPAは、2019年12月に高優先物質として1,4-ジクロロベンゼン(CAS番号106-46-7)他20物質を、2020年2月に低優先物質として酢酸3-メトキシブチル(同4435-53-4)他20物質を各々指定したことを公表しました。6), 7),

なお、こうした化学物質のリスク評価の優先順位付けは継続的に行われます。 この中で一旦低優先物質に選定されたものが、次回の優先順位付けプロセスにおいて再提案され、改めて高優先物質に指定されることはあり得ます。


リスク評価は、この様にしてEPAにより高優先物質に選定された物質の他、製造者側が要求し、EPAが承認した物質に対しても行われます。


リスクはその物質の危険性(hazard)と使用条件下でのばく露の両面について評価が行われ、リスク評価草案の作成及び公表、それに対するパブリックコメント等を経て、最終的リスク評価結果は、リスク評価開始後後、3年以内(最長3.5年以内)に公開されます。


EPA HP上には上記20物質を含め、リスク評価の対象の物質のリストが掲載されています。8) これには物質名、Cas No.、リスク評価開始年月、整理番号、リスク評価の進捗状況等が示されています。

1-3.CDR制度に関する改正

CDR制度では、ポリマー、微生物や天然産化学物質等を除く原則全てのTSCAインベントリー収載物質を物質毎に年間25,000lb(11.34ton)以上取扱う場合、4年に一度製造・輸入量をCDX(Central Data Exchange)を用いた報告を義務付けています。 但しSNUR等による規制対象とされた場合は2,500lb(1.13ton))以上が対象となり、この場合は小規模事業者への義務免除はありません。 詳細は40CFR Part704に規定されています。9)

本年5月にTSCAの2016年改正を反映したCDR制度の改正がなされました。10)


この中でCDRを免除となる小規模事業者の定義が以下の様に変更されました11):

① 年間製造・輸入量10万lb未満の事業者:年間売上高1,000万$未満(改正前4,000万$未満)

② 同上10万lb以上:同上1,200万$未満(改正前400万$未満)

その他特定の副産物の報告免除の追加や報告要件の簡素化等、報告における企業の負担の軽減が図られた内容となっています。

本改正は2020年報告分(2016~2019年の実績データ)より適用されます。

2.EPCRAに基づく政策―TRI

域の知る権利に関す緊急計画及び地る法律(42USC Chapter116, section11001~110150, Emergency Planning and Community Right-to-Know Act、以下EPCRA)とは、危険有害性物質を取り扱うプラントの周囲の地域社会が、それらによる災害等の緊急時に適切な対応がとれる様、それら物質の使用状況を知る権利を確立することを主目的としています。12)


これに基づく制度がTRI(Toxic Chemical Release Inventory Reporting)で、EPAは対象となる有毒化学物質を指定し、そのインベントリーを整備し、これらを排出するプラントに対して毎年その排出状況の報告を義務付けています。13)


対象となる有毒化学物質とは、がんまたは他の人間の健康への慢性的影響、人間の県境への重大な悪影響、あるいは県境への重大な悪影響を及ぼす物質で、現在個別物質として676、カテゴリーとして33が指定されていますが、適宜追加や削除がなされ、本年2月にも変更が行われました。14)


また義務の対象となるのは、フルタイムの従業員が10人以上、SICC(標準産業分類コード)20~39に属する等に該当するプラントで、製造、金属鉱山、発電、化学品製造、有害廃棄物処理等が含まれます。

おわりに

以上、米国の化学物質管理政策に関し、特に重要なTSCAやEPCRAに基づいて進められている政策について最近の動向も含めて解説しました。規制対象物資の追加・変更をはじめとする法改正等、常に状況が変化していく分野であり、今後共それらの動向への継続的な注意が重要です。

(福井 徹)

1)

https://uscode.house.gov/view.xhtml?path=/prelim@title15/chapter53&edition=prelim

2)

https://www.govinfo.gov/app/details/CFR-2011-title40-vol31/CFR-2011-title40-vol31-sec720-25

3)

https://www.epa.gov/tsca-inventory/how-access-tsca-inventory#download

4)

https://www.epa.gov/assessing-and-managing-chemicals-under-tsca/risk-evaluations-existing-chemicals-under-tsca

5)

https://www.ecfr.gov/cgi-bin/retrieveECFR?gp=&SID=c4f45fa62a3c3045e54bb22d40d197a2&mc=true&n=pt40.33.702&r=PART&ty=HTML#sp40.33.702

6)

https://www.federalregister.gov/documents/2019/12/30/2019-28225/high-priority-substance-designations-under-the-toxic-substances-control-act-tsca-and-initiation-of

7)

https://www.federalregister.gov/documents/2020/02/26/2020-03869/final-designation-of-low-priority-substances-under-the-toxic-substances-control-act-tsca-notice-of

8)

https://www.epa.gov/assessing-and-managing-chemicals-under-tsca/chemicals-undergoing-risk-evaluation-under-tsca

9)

https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?SID=c76e6a88a83d1b47b26c7f311201ba2d&mc=true&node=pt40.33.704&rgn=div5

10)

https://www.regulations.gov/document?D=EPA-HQ-OPPT-2018-0321-0118

11)

https://www.federalregister.gov/documents/2020/05/28/2020-10435/small-manufacturer-definition-update-for-reporting-and-recordkeeping-requirements-under-the-toxic

12)

https://www.law.cornell.edu/uscode/text/42/chapter-116

13)

https://www.epa.gov/toxics-release-inventory-tri-program/reporting-tri-facilities

14)

https://www.epa.gov/sites/production/files/2020-02/documents/tri_chemical_list_changes_02_24_2020.pdf

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