当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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REACHにまつわる話 ~NMP制限に関して~

2019年8月30日更新


2018年4月19日に、広く溶剤として使用されている1-メチル-2-ピロリドン(NMP)がREACH規則附属書XVIIのエントリー#71に制限物質として指定されました1)。 また、この制限に関するガイダンスが2019年7月17日に公表されました2)。


これまでは、主に化学物質が有する有害性(ハザード)の視点から制限されているといえますが、今回のNMPはリスクの視点から制限されているといえ、少し異なる制限条件が導入されたものですので、その内容をご紹介します。


REACH規則XVII エントリー#71の制限の内容を下記の通りです。

#71 NMPの制限の内容

1.労働者のばく露レベル、すなわち、導出無影響レベル(DNEL)が、吸入ばく露では14,4 mg/m3、経皮吸収では4,8 mg / kg /日であることを、製造業者、輸入業者、および川下ユーザーが化学物質安全性報告書(CSR)および安全性データシート(SDS)に含めていない限り、2020年5月9日以降、NMPそのもの、または、NMPを0.3%以上含む混合物を上市してはならない。

2. 製造業者および川下ユーザーは、労働者のばく露が第1項で指定されたDNELを確実に下回る、適切なリスク管理措置を講じ、適切な工程条件で作業しない限り、2020年5月9日以降、NMPそのもの、または、NMPを0.3%以上含む混合物を製造または使用してはならない。

3. 1項および2項の規定に関わらず、ワイヤーのコーティング工程での溶媒としての使用のための上市及び使用に関しては、2024年5月9日から適用する。


この制限内容は、NMPあるいはNMPを0.3%以上含有する混合物全てについて、上市や使用を制限するものではありません。 労働者のばく露が、規定されたDNEL以下であるようにリスク管理措置、すなわち、リスク低減措置を実施して、製造または使用することを求めています。


ここで、導出無影響レベル(DNEL)は、’Derived no-effect level’で、次のように説明されています(ガイダンスの説明から要点を抜粋します)。

導出無影響レベル(以下;DNEL);

そのレベル以下では人間の健康へ悪影響が発生しないと予想される物質へのばく露レベルである。DNELは、REACHの物質登録のための毒性試験や公開されている有害性報告書から計算され、化学物質安全性評価の基準値として用いられる。 DNELはばく露経路および健康への悪影響それぞれについて特定されるもので、物質に対して複数のDNELが存在する可能性がある。 適用可能な複数の経路がある場合、複合リスクも考慮する必要がある。 DNELは、制限の手続きにおいては当局によって強制的な数値として特定されるか、認可の手続きではECHAのリスク評価委員会によって推奨される場合がある。


DNELは、SDSの8項「ばく露防止及び保護措置」の項に記載される「生物学的指標などの許容濃度」に該当するものです。


REACH規則では、化学物質を年間10トン以上製造・輸入する事業者は、化学物質安全性評価(CSA)を行い、その結果を記載した化学物質安全報告書(CSR)を登録時に提出することが必要です。 CSAでは、労働者のばく露レベルがDNEL以下にするばく露低減措置を策定することが必要です。 また、CSAの結果を、「ばく露シナリオ」として、SDSに添付することが必要です。


今回ご紹介しました制限の内容は、年間10トン以上の製造・輸入者のCSA/CSRでは、DNELが制限の条件で規定された数値、すなわち「吸入では14,4 mg/m3、経皮吸収では4,8 mg / kg /日」で行うことが必要となり、SDSについてもこの記載が求められます。


さらに注意しなければならないことは、年間10トン未満、さらには、登録が義務付けられない1トン未満でもあっても、SDSの8項には、今回の規定されたDNELの情報を記載することが必要となります。


EUの川下ユーザーは、ばく露シナリオで提供される情報に従って、使用することが求められています。 それ以外の条件で使用する場合は、自らCSAを行い、CSRをECHAに提出することが必要です。 また、SDSにばく露シナリオが添付されていない場合は、自らCSAを行うことが求められることになります。


今回の制限の内容は、日本の労働安全衛生法における、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則と共通するものがあります。 すなわち、規制の対象となる化学物質の製造や使用を全面的に禁止するものではなく、製造・使用に当たっては、労働者の安全を守るためのばく露低減措置の実施が義務付けられている点が共通しているといえます。


REACH規則では、登録対象となる10トン以上の化学物質について、その供給者にリスクアセスメントの義務を課していると言えますが、今回の制限の条件では、量には関係なく、DNELの情報を提供することが求められ、その川下ユーザーには、自らリスクアセスメントを実施し、リスク低減措置を実施することが求められています。


他方、日本では、現在、労働安全衛生法で指定されている673物質を新たに取り扱う場合等には、リスクアセスメントを行う義務があります。 また、危険有害性のある物質を取り扱っている場合や新たに取り扱う場合には、リスクアセスメントを行う努力義務があります。


両法規制を比べてみますと、基本的には、REACHではリスクアセスメントの義務は、化学物質の製造・輸入者に、日本の場合は使用者に課されていますが、今回のREACH規則のNMPの制限は、川下ユーザーにもリスクアセスメントの義務の規定を取り入れたものと言えます。


なお、NMPの制限に関するガイダンスは、リスクアセスメントを行う上で参考になる情報です。ご一読をお勧めいたします。


1) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32018R0588

2) https://echa.europa.eu/documents/10162/13641/entry_71_how_to_comply_en.pdf/c6e09198-c0b1-44e3-abae-6b3d0bc909a8


(林  譲)

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