当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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成形品中のCL物質に関連する義務の順守調査結果

2019年11月28日更新


欧州化学物質庁(ECHA)には、REACH規則やCLP規則、殺生物性製品規則(BPR)等の所管する化学物質法規制の順守状況を加盟国と共同で調査する「執行情報交換フォーラム(以下、フォーラム)が設置されています。


フォーラムは年3回(3月、6月、11月)に全体会議が開催されていますが、2019年11月の全体会議では、2021年に実施する「第9次REACH EN FORCE(REF-9)」プロジェクトとして「認可対象物質」をテーマとし、認可対象物質が未認可のまま使用・上市されていないか、認可付与されている場合でも認可条件を順守しているかを確認することが決定しました[i])。


一方、実施済のプロジェクトに関しては、2018年に実施された「混合物の分類および表示・SDS等CLP規則の各種義務」をテーマとしたREF-6の結果について議論され、2019年末に最終報告書が公表される見込みです。 また、2017年10月~2018年12月に実施された「成形品中のCL物質」をテーマとしたパイロットプロジェクトの最終報告書が採択され、11月18日に公表されました[ii])。


今回はこの「成形品中のCL物質」に関するパイロットプロジェクトの概要を取り挙げます。


1.実施概要

成形品中のCL物質に関するパイロットプロジェクトは、2015年9月に公表された欧州司法裁判所(CURIA)の先決裁定によって、成形品中のCL物質の義務が課される「0.1wt%」を判定する際の分母の解釈が変更されたことを受けて、2015年11月のフォーラム本会議で実施が決定されました。


当初予定では、2017年10月から2018年6月頃まで調査が実施される見込みでしたが、最終的には2018年12月まで調査期間が延長され、15加盟国が参加して調査が実施されました。 調査では、成形品中のCL物質に関わる届出(REACH規則第7条2項)や成形品提供先への情報伝達(第33条1項)、消費者からの情報提供要請への対応(第33条2項)の順守状況について、書面および現地監査による405社の企業調査と、CL物質含有状況等について682種の成形品調査が実施されました。


2.調査対象

企業調査の対象となった405社は中小企業が70%、大企業が18%、不明が11%であり、また、サプライチェーンでの役割としては次のような状況でした。


サプライチェーン内での成形品供給者:47%

消費者への成形品供給者:50%

成形品製造者:32%

成形品輸入者:40%

※1社が複数の役割を担っている場合もある。


また、成形品調査の対象となった682種の成形品は重点対象CL物質としたフタル酸エステル類等が含有している可能性が高いとして特定された次の製品群でした。


消費者向けの衣類・靴、家庭用繊維製品:20%

ワイヤ・ケーブル、電気電子付属品:11%

フローリング製品やプラスチック製家具等:10%

その他プラスチック・ゴム製品:60%


3.調査結果

3.1 届出義務の履行状況

今回の調査対象では、届出義務の対象となる0.1wt%超含有するCL物質の年間製造・輸入量が1トン以上かつ該当用途が未登録のケースはほとんどなく、一部対象企業では、義務が履行されていることが確認でき、違反は発見されませんでした。


3.2 成形品提供先への情報提供義務の履行状況

成形品調査の対象となった682種の成形品のうち、REACH規則の各種義務が課される0.1%超のCL物質を含有していた成形品は84種でした。 中でもポリ塩化ビニルPVC等の軟質プラスチック材料中のDEHP等のフタル酸エステル類(54種)や短鎖塩素化パラフィン(SCCP)類(12種)が、次いでヨガマットやホッケー用ヘルメットパッド中のアゾジカルボンアミド(ADCA)(12種)が多く検出されており、その他には鉛等の含有が確認されています。


84種の成形品のうち、企業間での成形品の提供等、成形品提供先への情報提供義務の対象となるのは45種でしたが、情報提供を実施していたのは5種のみであり、40種は情報提供義務に違反しており、違反割合は実に89%と高いものとなっています。 また、企業調査でも、義務対象となる42社のうち、37社(88%)が違反している結果が示されました。


報告書では、違反事例の多くで、サプライヤから必要な情報を受領しておらず、また提供もしていないことから、サプライチェーンの情報伝達が機能していないことを高い違反率の主要因に挙げています。


3.3 消費者からの情報提供要請への対応義務の履行状況

消費者向け製品等、消費者からの情報提供要請への対応義務の対象となるのは、55種の成形品でしたが、順守しているのは24種のみであり、31種(56%)が違反している結果となりました。 また、企業調査でも、義務対象となる43社のうち、22社(51%)が違反していることが示されました。


ただし、上記の違反率は今回の調査で、仮に消費者からの情報提供要請があった場合に適切な情報(少なくともCL物質名)を提供できるだけの情報を有しているかを確認した結果です。 実際に消費者から情報提供要請を受けているのは、55種の成形品のうち、5種のみと少ないものの、このうちの4種の成形品で45日以内の消費者への回答ができておらず、情報提供要請への対応義務に違反していることが示されました。


4.調査結果への対応

4.1 行政命令および制裁措置

これらの調査結果から、当局によって行政命令等の対応が図られたのは45件であり、このうち、4件は当局によって販売停止とされ、16件は企業が自主的に販売を停止しました。 また、26件については当局による制裁措置が課され、このうちの2件については罰金が科されています。


4.2 改善に向けた提案

これらの調査結果を受けて、報告書では、CL物質の情報はサプライヤから入手する情報に依存するため、企業に対して、サプライヤとのコミュニケーションの強化やサプライヤに対するCL物質の情報提供要求の明確化によるサプライチェーン全体での情報伝達の大幅な改善が必要であると提案しています。 また、品質管理等のマネジメントシステムやITツール等の活用が有効であると述べています。


一方、ECHA等の当局に対しては、成形品中のCL物質の義務や定期的なCL物質の追加等について、企業への意識啓発を図るとともに、より一層のガイダンスや実践ガイド等の整備が必要であることが示されています。 また、フォーラムに対しては成形品中のCL物質の情報伝達義務をはじめ、REACH規則附属書XVIIによる制限やPOPs規則など、その他成形品の含有制限に関する義務を新たなREFとして実施することが提案されています。


5.最後に

今回の報告書によって、成形品中のCL物質の情報伝達については、EU域内においても違反率が高い状態であり、今後大きな改善が必要であることが示されたといえます。 また、2021年からは廃棄物枠組み指令(WFD)による成形品中のCL物質の届出が消費者に直接販売する小売業者を除くすべての成形品供給者に義務付けられる等、成形品中のCL物質に対する対応がより一層求められることになります。


日本企業にとっても、これまで取り組みを進めている成形品中のCL物質の情報把握を引き続き実施し、EU域内企業からの情報提供要請に適切に応えられるようにしておくことが求められます。


なお、今回の報告書で成形品中に0.1wt%超含有していることが散見されたフタル酸エステル類やSCCP類、鉛等については、REACH規則の制限やPOPs規則、RoHS指令等によって特定の製品種を対象に含有制限が課されている場合もあります。 しかしながら、今回の報告書は成形品中のCL物質の義務の履行状況に特化した記載になっており、含有制限については特に言及されていません。


(井上 晋一)

[i]) ECHA ニュースリリース

https://echa.europa.eu/-/inspectors-in-the-eu-to-target-reach-authorisation-duties


[ii]) 成形品中のCL物質に関するパイロットプロジェクト最終報告書

https://echa.europa.eu/documents/10162/13577/sia_pilot_project_report_en.pdf/f9fc153b-a322-43be-1ba1-44f4e5cb02c8

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