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REACHにまつわる話 ~ナノ物質登録で要求される情報について~
2019年12月20日更新
REACH規則では、「ナノ物質」の登録に関してその詳細情報の提出を求める改正規則が2018年12月4日に公布され、2020年1月1日から施行されます1)。
改正規則では、ナノ形態の物質の登録時に提出しなければならない情報を、附属書の条項を修正することで規定しています。 また、これらの詳細を解説する下記の2件のガイダンスが2019年12月3日に公表されました。
・「REACHとCLPにおける物質の同定と命名に関すガイダンス」の付録として
「ナノ形態に適用される登録と物質同定のガイダンスの付録(Appendix for nanoforms applicable to the Guidance on Registration and Substance Identification)」2)
・「情報要求と化学物質安全性評価に関するガイダンス」の部の
「QSARsと化学物質のグループ分け(R.6章)」の付録としての
「ナノ形態に適用されるQSARsと化学物質のグループ分けに関するガイダンスの付録R.6-1(Appendix R.6-1 for nanoforms applicable to the Guidance on QSARs and Grouping of Chemicals)」3)
(筆者注:ガイダンス名を意訳していますので、念のため原文も記載しました。)
今回のコラムでは、改正規則および上記2件のガイダンスをもとに、ナノ形態の物質を登録する場合に提出しなければならない情報についての概要をご紹介します。
前置きとして、「ナノ物質」の用語の定義について説明しておきたいと思います。冒頭「ナノ物質」と記載しましたが、欧州委員会の「ナノ物質の定義に関する2011年10月18日の委員会勧告」4)では、「nanomaterial」が使用されていました。 しかし、今回の改正規則の用語として「nanoform」が使用されています。 我が国においても、「ナノ材料」、「ナノマテリアル」等の用語が用いられています。 今回のコラムでは、改正規則に沿って、「nanoform」、「nanoforms」を「ナノ形態」と訳してご紹介します。
1.「ナノ形態」の定義
「ナノ形態」は、改正規則の附属書Ⅵ「第10条に規定する情報要件」の前文「附属書 VI から附属書 XI までの要件を満たすための注記」で下記のように定義されています(筆者抄録)。 (なお、改正前は「GUIDANCE」と明記されていましたが「NOTE」に修正されています。「NOTE」を「注記」と訳しました。)
「ナノ形態とナノ形態類似のセット」の定義:
ナノ物質の定義に関する2011年10月18日の委員会勧告4)に基づいて、ナノ形態は、非結合状態の、あるいはアグリゲート(強い結合状態)またはアグロメレート(弱い結合状態)の、天然または工業的に製造された粒子を含む物質の形態であり、1つ以上の外径が1 nm〜100 nmの範囲にある粒子が、寸法基準の分布が50%以上であるものをいう。 ただし、1つ以上の外径が1 nm未満のフラーレン、グラフェンフレーク、および単層カーボンナノチューブも含む。
ここで、「粒子」とは、明確な物理的な境界を持つ微小な物体を意味する。「アグリゲート」とは強く結合または融合した粒子を意味する。 「アグロメレート」とは、弱く結合した粒子の集合体であり、その集合体の外部表面積は個々の成分の表面積の合計に近い。
上記の個々の粒子のパラメーターが類似している場合は、それらを一つのグループとして「ナノ形態類似のセット」として、ハザード評価、ばく露評価、リスク評価を行うことが出来る。 ただし、個々の粒子の変動範囲が、ハザード評価、ばく露評価、リスク評価に影響がないことを実証する証拠が必要である。」
「ナノ形態」の定義は、これまでの「ナノ材料」、「ナノマテリアル」や「ナノ物質」と同じですが、個々の粒子のパラメーターが類似している場合は、例えば、粒径分布や表面処理が異なっていても、詳細な情報は要求されますが、「1物質」として登録できることが明確にされました。
2. 「ナノ形態とナノ形態類似のセット」についての情報
「ナノ形態とナノ形態類似のセット」に関する情報では、「ナノ形態」を同定するための基本的な情報としては下記の項目が挙げられています。 なお、改正規則では、REACH規則の附属書Ⅵに2.4を追加して、「ナノ形態」の同定に必要な情報項目が記載されています。
2.1 附属書Ⅵ 2.4で規定されている登録で「ナノ形態とナノ形態類似のセット」を同定する情報
下記の6項目で同定することになります。
1) 物質の名称、他の同定情報
2) 1nm~100nmの範囲の数平均の寸法分布
3) 表面の官能性、表面処理剤している場合のその名称、CAS番号、EC番号
4) 形態、アスペクト比、他の構造的な特性(結晶性、異なる形態の混合している場合の分率等)
5) 表面積、比表面積
6) 分析方法、計算方法
なお、微細な粒子の形態についての分類はガイダンスの中で、下記の3種の基本形態とその混合体に分類されると説明されています。
a) 球状;アスペクト比が3.1未満のもの
b) 棒状;アスペクト比が3.1以上のもの
c) 板状;一辺が他辺に比べて十分に短いもの
d) 上記の3種の形態が混在するもの
3.「ナノ形態類似のセット」にグループ化するために必要な情報
同一物質が、異なる「ナノ形態」であっても、それらをグループ化して「ナノ形態類似のセット」とすることが可能です。 その第1ステップは、「リード・アクロス」で行うことが説明されています。
10トン以上の物質については、化学物質安全性評価を行うことが必要ですが、「ナノ形態類似のセット」を一体として行うことが出来ます。 すなわち、これらを1つのグループとして行えることになります。
グループ化して「ナノ形態類似のセット」とするには、単一の「ナノ形態」の物質の場合にも必要な情報ですが、異なる「ナノ形態」の物質を「ナノ形態類似のセット」にグループ化するには、下記の情報から、証明する必要があります。
3.1)化学的情報
物質の同定で求められる場合と同じ下記の項目が挙げられています。
・化学的組成
・不純物
・表面処理/表面機能性
3.2)物理的特性
一般的な物質については、液状であれば、融点、沸点、蒸気圧等、固体状であれば、粉状、塊状や融点、結晶性等の情報が必要になりますが、「ナノ形態」の物質については、下記の項目が求められています。
・寸法、数平均分布
・形態
・表面積
「形態」については、上記4種の区分、アスペクト比、結晶性等が必要です。また、「表面積」については、「ナノ形態」を特定する重要なパラメーターです。
3.3)特性
下記の性質の情報が求められています。
・溶解性;溶解速度および平衡溶解度。
・疎水性;ファン・デル・ワールスエネルギーや表面帯電に依存する
・ゼータ電位
・分散性;溶剤に依存する。
・ほこりっぽさ
3.4)反応性
「ナノ形態」の物質は、その粒子径が微小であること、そのためにその方面の活性が高いことから、反応性が大きく、そのため有害性が懸念されます。 このため下記の情報が求められています。
・生物学的活性(生物学的反応性)
・光反応性
光反応性は、光により反応を開始する、あるいは、酸素ラジカルが生成する場合にDNAを損傷する懸念があることから情報を要求されています。
グループ化して「ナノ形態類似のセット」にするには、特に、「特性」および「反応性」が類似していることが重要と考えます。
3.5)測定方法等
前記の各項目の測定方法の説明が求められています。
以上、「ナノ形態」の物質については、詳細な情報を提出することが必要になります。この改正は2020年1月1日から施行されます。
これまで登録していた物質でも「ナノ形態」の情報を提出していない場合は、登録情報の更新が必要になります。
参考資料
1)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32018R1881&from=en
4)
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2011:275:0038:0040:en:PDF
(林 譲)