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PFOA(ペルフルオロオクタン酸)規制の動向
2020年1月10日更新
このところPFOA(PerFluoroOctanoic Acid)に関連するお問い合わせが増えています。
POPs条約の改定に合わせて、2020年7月4日からREACH規則の制限物質として規制されることや2020年2月頃に日本の化審法も改正される見込みからかと思います。
PFOA(CAS No. 335-67-1)は、有機フッ素化合物で、フッ素ポリマー加工助剤以外にも、親水性(水になじむ性質)と親油性(油になじむ性質)の両方もつことから、撥水剤、撥油剤、消火剤、フォトレジスト、塗料などに幅広く利用されています。 身近な用途では、調理器具焦げ付き防止表面処理剤や衣類の撥水剤です。
身近に利用されている(いた)PFOAの有害性は、C&L インベトリでは、次となっています。
Hazard Class (物理的、健康または環境ハザードの性質)and Category Code(s)(ハザードの重篤度を指定した各Hazard Class内でのクライテリアのdivision(等級)
・Repr. (生殖毒性) カテゴリー 1B
Hazard Statement Code(s) H360D(胎児に損傷を与える可能性があります)
・Eye Dam.(眼損傷性) カテゴリー 1
Hazard Statement Code(s) H318(重篤な眼損傷を引き起こします)
・Carc.(発がん性) カテゴリ 2
Hazard Statement Code(s) H351(がんを引き起こす疑いがあります)
以下略
1.POPs条約とPFOA
PFOA規制が強化されたのは2019年4月29日~5月10日のPOPs条約の締約国会議(COP9)で、PFOAとその塩及びPFOA関連物質がPOPs条約の附属書A(廃絶)に追加することが決定されたことによります。
経済産業省のホームページで、決定された主な規制内容を解説しています。1)
・製造と使用等の禁止(用途を除外する規定あり)
▫半導体製造におけるフォトリソグラフィ又はエッチングプロセス
▫フィルムに施される写真用コーティング
▫作業者保護のための撥油・撥水繊維製品
▫侵襲性及び埋込型医療機器
▫液体燃料から発生する蒸気の抑制及び液体燃料による火災のために配備されたシステム(移動式及び固定式の両方を含む。)における泡消火薬剤
▫医薬品の製造を目的としたペルフルオロオクタンブロミド(PFOB)の製造のためのペルフルオロオクタンヨージド(PFOI)の使用
▫以下の製品に使用するためのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の製造
・高機能性の抗腐食性ガスフィルター膜、水処理膜、医療用繊維に用いる膜
・産業用廃熱交換器
・揮発性有機化合物及びPM2.5微粒子の漏えい防止可能な工業用シーリング材
▫ 送電用高圧電線及びケーブルの製造のためのポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)の製造
▫ Oリング、Vベルト及び自動車の内装に使用するプラスチック製装飾品の製造のためのフルオロエラストマーの製造
UNEPのCOP9の報告書には詳細が記述されています。2)
附属書の発効は、附属書への物質追加に関する通報を国連事務局が各締約国に送付してから1年後になります。この通知は2019年12月3日に発行されました。3)
2.化審法とPFOA
附属書A(廃絶)に追加された物質については、製造・使用等の廃絶に向けた取組を、条約加盟国は協調して行うことになります。
日本では、化審法でPOPs条約物質の規制を行います。UNEPのCOP9の決定を受けて、2019年11月15日から12月14日まで化審法の改正案「ジコホル、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA 関連物質に係る措置(案)」のパブコメがされました。4)
改正案では、PFOAを化審法の第一種特定化学物質に指定し、その製造、輸入、使用を制限する等が行われます。
措置の内容
▫ 令和2年4月から、ジコホル 、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩 及びPFOA関連物質について、その製造、輸入を原則禁止
▫ 認められた用途(エッセンシャルユース)以外での使用を禁止
▫ ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質が使用された一部の製品について取扱いに係る技術基準を設定
▫ 令和2年10月から、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及びPFOA関連物質を使用する製品の輸入を禁止
エッセンシャルユース(適用除外用途)
▫ 医薬品の製造を目的としたペルフルオロオクタンブロミド(PFOB)の製造のためのペルフルオロオクタンヨージド(PFOI)の使用
別途定める取扱い上の技術基準に従うもの
▫ 消火器、消火器用消火薬剤及び泡消火薬剤
POPs条約のエッセンシャルユースより狭い気がしますが、経済産業省のPOPs条約のページ(前記)では、「用途を適用除外とするか否かについては、今後、国内で検討することとしています」との記述がありますので、変わる可能性はあると思います。
3.REACH規則とPFOA
EUでは、2020年1月時点では、REACH規則の附属書XVII Entry 68で対象物質を次として2020年7月4日から規制します。
・PFOA
・PFOAの塩
・化学式C7F15が別の炭素原子に直接結合した直鎖または分岐ペルフルオロヘプチル基を有する任意の関連物質(その塩およびポリマーを含む)
2019年12月16日のコラム「EU POPs規則附属書Ⅰへの物質追加の動向について」で解説されているように、Entry 68の規制は削除され、規則2019/1021(EU POPs規則)に移動します。5)
エッセンシャルユースの条件などが変わりますが、現時点での規制内容は次となっています。
まず、関連物質の説明がFAQの形で示されています。
・化学式C8F17を有する直鎖または分岐ペルフルオロオクチル基を有する任意の関連物質(その塩およびポリマーを含む)。6)
対象物質は、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、その塩およびPFOA関連物質で、PFOAのみではありません。
対象となる物質が多くあり、RAC / SEAC意見書に記載があります。7)
PFOAに関する附属書VXIIの修正規則では、PFOA関連物質は、分子構造に基づいて、PFOAに分解または変換する可能性があると考えられている物質です。8)
PFOAの制限条件は次です。
(1) 2020年7月4日以降、自社で製造・販売してはならない。
(2)2020年7月4日以降、製造に使用してはならない、または市場に出荷してはならない:
(a) 別の物質の成分
(b) 混合物
(c) 成形品
25ppb(parts per billion 1ppm=1,000ppb)以上の濃度のPFOA(その塩を含む)又は1, 000ppb以上のPFOA類物質の一つ又は組み合わせ
(3)1項及び2項は、次のものから適用されるものとする。
(a)2022年7月4日:
(i) 半導体製造装置
(ii) ラテックス印刷インキ
(b)2023年7月4日:
(i) 労働者の健康及び安全に対する危険から労働者を保護するための織物
(ii) 医療用織物、水処理ろ過、生産工程、排水処理用の膜
(iii) プラズマ・ナノコーティング
(c)2032年7月4日:指令93/42/EECの範囲内の埋め込み型医療機器以外の医療機器
(4)1項及び2項は、次のいずれにも適用しない。
(a)ペルフルオロオクタンスルホン酸及びその誘導体であって、規則(EC)850/2004(EU POPs規則)の附属書IのパートAに記載されているもの 9)
(b)6原子以下の炭素鎖を有するフッ素化合物の製造の不可避の副産物として生じる物質の製造
(c)REACH規則第18条(4)の(a)から(f)までの条件が満たされていることを条件として、使用または、輸送された分離中間体として使用される物質
(d) 物質、他の物質または混合物の成分としての使用
(i)指令93/42/EECの範囲内にある植込み型医療機器の製造
(ii)フィルム、紙又は印刷版に適用される写真コーティング
(iii)半導体のフォトリソグラフィ工程又は化合物半導体のエッチング工程
(e)2020年7月4日以前に市販され、使用されるか、または他の消火発泡混合物の製造に使用される濃縮消火発泡混合物
(5)2(b)項は、消火用発泡混合物であって、次のものについては、適用しない。
(a)2020年7月4日以前に上市された物
(b) 4(e)項に従って製造され、訓練の目的で使用される場合、環境への排出が最小限に抑えられ、収集された排水が安全に廃棄されることを条件とする物
(6)2(c)項は、次の場合には適用されない。
(a)2020年7月4日以前に発売された成形品
(b)4(d)(i)項に従って製造された埋め込み型医療機器
(c)4(d)(ii)項に記載の写真コーティングでコーティングされた物品
(d)4(d)(iii)項に掲げる半導体又は化合物半導体
4.PFOSとPFOA
ネットでの検索では情報がPFOS(PerFluoroOctanesulfonic Acid(ペルフルオロオクタンスルホン酸))とPFOAは一緒になっていることが多く、化学式もC(炭素)とF(ふっ素)の直鎖の末端がスルホン酸(SO3H)であればPFOS、カルボン酸(COOH)であればPFOAになります。
このように、PFOAとPFOSとの違いは何かとの戸惑いが広がっているようです。
C&LインベントリのPFOS(CAS No 1763-23-1)のHazard Class と Category Code(s)
・Repr. (生殖毒性) カテゴリー 1B
・Carc.(発がん性) カテゴリー 2
PFOAと同じですが、PFOAにあったEye Dam.は分類されていません。
POPs条約では、PFOSは附属書B(制限)物質となっています。
EUはPFOSをEU POPs規則(規則 2019/1021)で規制しています。
規制値は物質または混合物に存在するPFOSの濃度は10 mg / kg(重量で0.001%)以下となっています。
非装飾的な硬質クロム(VI)めっき用のミスト抑制剤などの用途は除外されています。
日本ではPFOSについて、以下の用途について、ストックホルム条約事務局に対し、日本国政府として代替困難な用途である旨を連絡しています。
▫ 半導体用途(反射防止膜及びフォトレジスト)
▫ フォトマスク(半導体及び液晶ディスプレイ用)
▫ 写真感光剤用途
▫ メッキ(クロムメッキ等)
▫ 泡消火剤
▫ 医療機器(カテーテル及び留置針)
▫ 電気電子部品(プリンター・複写機用転写ベルト・ゴムローラー等)
REACH規則の附属書XVII Entry68は、PFOSおよびその誘導体は、4(a)項によって明確に適用しないとしています。
このように、PFOAとPFOSは別の基準で規制されています。
まとめ
REACH規則の附属書XVII Entry 68の規制( EU POPs規則)は、エッセンシャルユースの移行期間が長く、当分の間は、PFOAが流通することになります。 エッセンシャルユースが全くない廃絶であれば、コンタミなどのリスクはないのですが、エッセンシャルユースが認められていますのでコンタミが危惧されます。
RoHS(II)指令(2011/65/EU)でフタル酸エステル類の規制が一部を除いて2019年7月22日から始まりました。 フタル酸エステル類は塩化ビニール(PVC)の可塑剤として利用されており、工場内の全てのPVC製品を除去するなどのある意味で過剰な対応が見られました。
PFOAは衣類の撥水剤として利用されてきましたので、作業者の衣類にまで対応するかとなると過剰ともいえます。 PFOAは消火剤にも使われ、土壌汚染や地下水汚染もあると言われています。
PFOAのコンタミの可能性がゼロでは無いにしても、コンタミが25ppb以上になる可能性のリスク評価をするのが肝要です。
(松浦 徹也)
引用
1)https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190514003/20190514003.html
2)http://chm.pops.int/Portals/0/download.aspx?d=UNEP-POPS-COP9FU-COMM-INFOREQ-SC9-20190612.English.pdf
3)https://treaties.un.org/doc/Publication/CN/2019/CN.588.2019-Eng.pdf
4) https://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000194549
5) https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32019R1021
6) https://echa.europa.eu/documents/10162/7a04b630-e00a-a9c5-bc85-0de793f6643c
8)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32017R1000&from=EN
9)https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32004R0850