当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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現在検討中のREACH制限物質

2020年05月29日更新

REACH規則の附属書XVII(制限)には、現在エントリー73まで収載されています。一方、附属書XVIIに収載されるまでには複数の段階で意見募集や検討が実施されるため、附属書XVIIへの収載に向けた検討が行われている物質も多くあります。

今回は、附属書XVIIへの収載に向けた5つの検討段階ごとに現在の状況を整理してみます。

1.加盟国等による制限提案意向(Intention)段階

一般的な制限の検討手続きは、欧州化学品庁(ECHA)や加盟国による制限提案意向の提出からスタートし、次のステップとなる制限提案文書の提出時期が示されます。

現在、加盟国等が制限提案意向を提出し、制限提案文書の作成を進めているのは、「制限提案意向リスト」1)の「Status」が「Intention」となっている次の5種です。

なお、加盟国等は制限提案文書の作成に向けて、広く利害関係者に情報提供を求める場合もあります。


・使い捨ておむつに含有する物質(Substances in single-use nappies)

・ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩類(Perfluorooctanoic acid and its salts)

・N,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide、CAS番号127-19-5)

・鉛および鉛化合物(Lead and its compounds)

・クロム酸鉛(Lead chromate、CAS番号7758-97-6)、クロムイエロー(Lead sulfochromate yellow (C.I. Pigment Yellow 34)、CAS番号1344-37-2)およびモリブデンレッド(Lead chromate molybdate sulphate red (C.I. Pigment Red 104)、CAS番号12656-85-8)


なお、「鉛および鉛化合物」については、後述の法案段階の内容(湿地内での鉛含有散弾の使用制限)をさらに拡大する内容となっています。 また、「クロム酸鉛、クロムイエローおよびモリブデンレッド」は、REACH規則附属書XIVに収載され、すでに日没日(2015年5月21日)が経過している物質ですが、REACH規則第69条2項に基づき、輸入成形品を対象とした制限が検討されています。

2.加盟国等による制限提案文書段階

次に制限提案意向を提出した加盟国等から、制限提案文書がECHAに提出されます。提出された制限提案文書は公表され、意見募集が実施されます。

制限提案文書が提出されると、「制限提案意向リスト」の「Status」は「Opinion development」となり、また、「検討中の制限提案文書リスト」2)に収載され意見募集の期限など示されます。現在、制限提案文書の意見募集が実施中または終了した物質は次の4種です。


・カルシウムシアナミド(Calcium cyanamide、CAS番号156-62-7)

・原料等として意図的に添加するマイクロプラスチック類(Microplastics)

・皮膚感作性の区分1、1A、1Bに該当する皮膚との接触によりアレルギー反応を引き起おこす皮膚感作性物質(Skin sensitising substances)

・ウンデカフルオロヘキサン酸とその塩類および関連物質(undecafluorohexanoic acid (PFHxA), its salts and related substances)

3.ECHAの専門家委員会(SEAC)の意見案段階

制限提案文書に対する意見募集結果を踏まえ、ECHAの専門委員会である社会経済評価委員会(SEAC)が制限提案に対する意見案を作成し、意見募集が実施されます。SEACの意見案の意見募集が開始されると「検討中の制限提案文書リスト」に意見案に対する意見募集期限が示されます。現在、次の3種について、5月22日までの意見募集が実施されていました。


・5種のコバルト塩類(硫酸コバルト(Ⅱ)(Cobalt(II) sulphate、CAS番号10124-43-3)、二塩化コバルト(Cobalt dichloride、CAS番号7646-79-9)、硝酸コバルト(Ⅱ)(Cobalt(II) dinitrate、CAS番号10141-05-6)、炭酸コバルト(Ⅱ)(Cobalt(II) carbonate、CAS番号513-79-1)、酢酸コバルト(Ⅱ)(Cobalt(II) diacetate、CAS番号71-48-7))

・ホルムアルデヒドおよびホルムアルデヒド放出剤(Formaldehyde and formaldehyde releasers)

・ペルフルオロヘキサンスルホン酸とその塩類および関連物質(Perfluorohexane-1-sulphonic acid, its salts and related substances(PFHxS))

4.ECHAの専門家委員会(SEAC)の最終意見段階

SEAC意見案に対して寄せられた意見を踏まえ、SEACは最終意見を採択し、欧州委員会(EC)に提出します。

最終意見が採択されると、「検討中の制限提案文書リスト」から削除され、「制限提案意向リスト」の「Status」が「Opinions adopted」となります。 現在、次の4種についてECに最終意見が提出され、ECにおいて法案が検討されています。


・N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide、CAS番号68-12-2)

・8種の多環芳香族炭化水素類(Polycyclic-aromatic hydrocarbons (PAH))

・6種の特定長鎖ペルフルオロアルキルスルホン酸類とその塩類および関連物質(C9-C14 PFCAs -including their salts and precursors)

・オクタメチルシクロテトラシロキサン(Octamethylcyclotetrasiloxane(D4)、CAS番号556-67-2)、デカメチルシクロペンタシロキサン(Decamethylcyclopentasiloxane:(D5)、CAS番号541-02-6)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(Dodecamethylcyclohexasiloxane (D6)、CAS番号540-97-6)

5.法案段階

ECHAから提出されたSEAC最終意見を踏まえ、ECは附属書XVIIの改正に向けた法案を作成し、意見募集が実施されます。

現在、意見募集が実施中または終了した法案は次の4種です。

【ジイソシアネート類(Diisocyanates)】3)

附属書XVIIの新たなエントリーとして追加し、ジイソシアネート類の合計濃度が0.1wt%以上の産業用途または専門家用途の物質または混合物の場合に、供給者が安全な使用に関する情報を提供すること、また、使用前に使用者に対して雇用主が安全な使用に関する教育を実施することを義務付け

【鉛および鉛化合物(Lead and its compounds)】4)

附属書XVIIのエントリー63の制限条件に、新たに湿地および周囲400m圏内で鉛を1%以上含有する散弾の使用制限を追加

【CMRや皮膚感作性、皮膚腐食性等、所定の有害性を有する物質】5)

附属書XVIIの新たなエントリーとして、次の4つに該当する物質を追加し、これら物質について、発がん性・変異原性に分類される物質や化粧品規則附属書IIに収載された物質は0.00005wt%、生殖毒性物質は0.001wt%、皮膚感作性物質は0.001wt%など、該当する各基準に応じた濃度以上含有するタトゥーインク用途の混合物の上市および使用制限を追加


・CLP規則附属書VIパート3に収載された物質のうち、吸入ばく露以外で発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)の区分1A、1B、2に分類される物質や、皮膚感作性の区分1、1A、1B、皮膚腐食性の区分1、1A、1B、1C、皮膚刺激性の区分2、重篤な眼の損傷性の区分1、眼刺激性の区分2に分類される物質

・化粧品規則((EC)No 1223/2009)附属書IIに収載された物質

・化粧品規則附属書IVに収載された物質のうち、表のg、h、i列のいずれかに条件が指定されている物質

・この改正に伴い新たに設定する付録に収載する水銀(Mercury、CAS番号7439-97-6)など92物質

【既存の9つのエントリーの修正】6)

附属書XVIIに収載されている次の既存エントリーを修正または削除


・エントリー3の「特定の危険有害性に分類される液状の物質・混合物」について、制限条件をCLP規則に基づく内容に修正

・エントリー22の「ペンタクロロフェノールとその塩類およびエステル類(pentachlorophenol and its salts and esters)」について、POPs規則の対象となることから削除

・エントリー28~30の「CMR物質」について、対象物質を収載した付録1~6に最近のCLP規則附属書VIパート3の改正内容を反映

・エントリー43の「アゾ色素およびアゾ染料(Azocolourants and Azodyes)」について、指定している試験方法のEN規格の更新を反映

・エントリー46の「ノニルフェノール(Nonylphenol)およびノニルフェノールエトキシレート類(Nonylphenol ethoxylates)」について、CAS番号およびEC番号を削除

なお、法案検討後、正式に附属書XVIIが改正されると、「制限提案意向リスト」の「Status」は「Commission decided」となります。

最後に

現在の附属書XVIIのうち、最も新しいエントリー73を見ると、提案意向が2014年11月に提出され、正式に官報公示されたのが2019年6月と約4.5年をかけて、上記の制限手続きが進められたことになります。 このように、今回取り上げた制限をはじめとするREACH規則の物質追加は、企業が対応しやすいように透明性を重視し、かなり早い段階から検討状況が開示されています。

検討には時間がかかるため、常に確認する必要はありませんが、気になる物質等については、ECHAの「制限提案意向リスト」を適宜確認することで状況を確認することができます。

(井上 晋一)

1) 制限提案意向リスト

https://echa.europa.eu/registry-of-restriction-intentions

2)検討中の制限提案文書リスト

https://echa.europa.eu/restrictions-under-consideration

3)附属書XVII改正案(ジイソシアネート類)

http://ec.europa.eu/growth/tools-databases/tbt/nview.cfm?p=EU_681_EN

4)附属書XVII改正案((鉛および鉛化合物)

http://ec.europa.eu/growth/tools-databases/tbt/nview.cfm?p=EU_691_EN

5)附属書XVII改正案(CMRや皮膚感作性、皮膚腐食性等、所定の有害性を有する物質)

http://ec.europa.eu/growth/tools-databases/tbt/nview.cfm?p=EU_709_EN

6)附属書XVII改正案(既存の9つのエントリーの修正)

http://ec.europa.eu/growth/tools-databases/tbt/nview.cfm?p=EU_714_EN

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