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EU POPs規則に関わるPFHxS関連物質の動向
2020年08月21日更新
POPs条約(ストックホルム条約)の締約国会議(Conference of Parties:COP)は隔年で開催されています。直近では2019年4月~5月に第 9 回締約国会議(以降:COP9)が開催され、附属書ⅠパートA(廃絶)にPFOAを追加することが決定されました。1)
COPでは、POPs条約締約国会議の下に設置された残留性有機汚染物質検討委員会(Persistent Organic Pollutants Review Committee:POPRC)の検討結果を受け、新たな規制物質の附属書Ⅰへの追加を決定します。次回のCOP10は2021年4月~5月に開催される予定で、この際にPOPRC15(2019年10月1日~4日開催済)とPOPRC16(2020年9月開催予定)の結果が審議されることになります。
このコラムでは、POPRC15で勧告されCOP10において審議される予定のPFHxS関連物質について、EU POPs規則 附属書Ⅰへの追加の動向について解説します。
1. POPRC15での検討結果2)
POPRC15ではノルウェーから提案されていた、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)とその塩及びPFHxS関連物質(以降:PFHxS関連物質)を、対象物質へ追加することが検討されました。POPRCではこれら物質のリスクマネジメント評価を行い、会議資料(文書番号:POPRC.15/7/Add.1)として公開しました。この会議資料ではPFHxS関連物質の代替品案が検討されており、概要は以下の通りです。
・消防用泡沫・・・非フッ素化およびフッ素化の化学代替品による代替可能
・メッキ、繊維・・・非フッ素化およびフッ素化の化学代替品による代替、および技術的対応で代替可能
・研磨、洗浄、洗浄剤、コーティング・・・非フッ素化化学代替品による代替可能
・電子部品、半導体・・・非フッ素化およびフッ素化の化学代替品による代替可能
以上の評価結果をふまえて POPs 条約上の位置付け(製造・使用等の「廃絶」or「制限」)について検討し、結論として用途除外なしで、附属書ⅠパートA(廃絶)に追加する案をCOP10 に勧告することを決定しました。
2. EU/ECHAのPFHxS関連物質に関する意見公開
欧州化学品庁(European Chemicals Agency:ECHA)はノルウェーの提案を受けて、REACH規則附属書XVドシエについての使用制限の提案書3)を作成し、リスクアセスメント委員会(Committee for Risk Assessment:RAC)と社会経済分析委員会(Committee for Socio-economic Analysis:SEAC)にPFHxS関連物質に関する意見を求めました。その後、RACとSEACから寄せられた意見を、ECHA のWebサイト4)に公開しています。
PFHxS関連物質は、REACH規則 第17次SVHCとして、2017年7月10日に既に追加されている化学物質です。PFHxS関連物質は、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)(POPs条約附属書IパートB(制限))及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)等と同じ過フッ素化合物類です。前記のようにPFOA はCOP9で附属書ⅠパートA(廃絶)に追加することが決定され、それを受けてEUでは7月4日にREACH規則の制限物質からPOPs規則の廃絶物質に移行しています。今回PFHxS関連物質に関してもまた同じ事が繰り返される可能性があります。PFHxS関連物質も廃絶物質に指定されると、PFOAの代替物質としてPFHxS関連物質を計画している企業にとっては影響が大きいと推測します。
前述のようにPFHxS関連物質は、REACH規則のSVHC収載物質ですが、SVHC評価プロセスでは毒性および環境毒性が評価されていませんでした。SVHC収載物質は厳しく管理された条件下で特定の認可された目的には使用できます。
しかし提案国ノルウェーではPFHxS関連物質を2020年までに使用を段階的に減らし、廃絶することを国家目標として、国家の優先物質リストに追加しています。また、カナダや米国環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)でも廃絶の動きがあります。
国際的な化学物質管理( Strategic Approach to International Chemicals Management:SAICM)の戦略的アプローチの下でもPFOA関連物質を含む過フッ素化学物質は懸念物質として特定されており、より安全な代替物への移行を支援する取り組みが行われていて5)、世界の趨勢は廃絶に向かっています。
そもそも、ノルウェーの提案はPFOA代替物質としてのPFHxSを廃絶することが目的でしたが、2020年6月17日にSEACはPFHxS関連物質の製造または上市を制限する提案を支持する最終意見を採択しました。これは、2020年3月のRACによる意見に続いたものになります。
SEACの案は、PFHxSとその塩の合計に対しては25 ppb、PFHxS関連物質の合計に対して1000 ppbの濃度制限を支持しています。 これらの閾値は、意図的な使用を廃絶する必要性、排出を最小化する必要性および分析手法の現実性とのバランスを考慮して決定したものです。
この検討経緯は、先にPOPs規則附属書ⅠパートA(廃絶)にPFOAが追加された際の検討経過と同様の流れです。PFOAの検討経緯では、当初のドシエは意図的な使用を廃絶することを確実にするために、閾値を2ppbとしていました。これに対して、試験方法が確立されていないという業界関係者の主張を理由に、RACとSEACによって最終的に採択された閾値は25 ppbでした。
今回のPFHxS関連物質の閾値の検討にも同様の論議がされており、予定されているPOPRC16での審議やCOP10での決定で閾値がどのように設定されるかも、世界のPFOA関連物質廃絶の動向と共にPFOA関連物質のEUにおける今後の規制動向を占う上で注目されます。
(中山 政明)
引用
1)PFOA規制の動向
https://www.tkk-lab.jp/post/point20200703
2) POPRC15での決定事項
3) 附属書XV提案書
https://echa.europa.eu/documents/10162/a22da803-0749-81d8-bc6d-ef551fc24e19
4) PFHxS関連物質に関する意見
https://echa.europa.eu/registry-of-restriction-intentions/-/dislist/details/0b0236e1827f87da
5) 化学物質管理(SAICM)の戦略的アプローチ