当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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中国の既存化学物質の環境リスク評価による管理

2021年01月21日更新

はじめに

中国の新化学物質環境管理登録弁法(それまでの新化学物質環境管理弁法を改正・改称し、本年1月1日より施行)は、対象とするのは既存化学物質のデータベースである中国現有化学物質名録(現在約46,000物質を収載)に収載されていない新規化学物質です。


他方、既存化学物質についてはこれまで危険化学品安全管理条例等により、指定の化学物質に対する取扱い時の登記や許可証の発行等による安全面の対策は講じられてきました。


近年、既存化学物質に対して環境リスクに対する評価をベースとした管理の仕組みを導入する動きが出てきています。 今回はその流れの中で進められている優先規制化学品名録をはじめとする規制対象物質リストの整備等の動きについてご紹介します。


1.水質汚染防止行動計画 1)

中国・国務院は2015年4月水質汚染防止行動計画(通称「水十条」)を公表しました。


これは近年の同国の著しい経済成長に伴う環境汚染の深刻化を背景に、「節水優先・空間均衡・総合対応・同調施策」の原則を掲げ、重点汚染物質、重点産業、重点地域に対して優先的に水質改善を進めるとし、今後の水質汚染防止政策の基本を示したものです。


これによれば以下の目標が示されています:

(1) 2020年までに全国の水質環境を段階的に改善し、深刻に汚染された水域を大幅に減らすと共に、飲用水の安全性レベルを高める。また地下水の過剰採取を厳しく管理し、その汚染の深刻化を抑止する。

(2) 2030年までに国内の水質環境の全面的改善を進め、生態系機能の回復に努める。

(3) 21世紀半ばまでに生態環境の完全な質的改善と生態系の好循環を実現する。


そして上記目標を達成するために10件の重点施策、35件の実施項目をあげていますが、この実施項目第22項に既存化学物質に対して環境および人の健康へのリスクを評価し、2017年末までに特に重点的にリスク管理すべき化学物質のリスト(以下優先規制化学品名録)を公表すること、また高リスクの化学物質の生産と使用を厳しく制限し、段階的に廃止して代替品へ切り替えることが述べられ、リスク評価に基づく化学物質管理体制を構築していく方針が示されました。


2.優先規制化学品名録の整備 2)

優先化学品名録は、環境や人の健康に本質的に有害であり、環境中に残留し、食物連鎖を通じて人体中へ取り込まれ、濃縮される可能性のある有毒・有害物質をスクリーニングにより選定して編集されます。


それに際しては、「中国の国内条件と国際的経験を組み合わせ、化学物質の環境と人の健康への固有の危険有害性、潜在的環境ばく露レベル、国際的な管理およびその他の要因を包括的に考慮し、環境や人の健康への本質的な有害性を特定し、それに留意しつつ、スクリーニング条件を科学的に決定する」としています。また「公開性の原則」を掲げ、パブリックコメントの実施により、広く一般の意見や提案を採り入れています。


こうした方針の下に整備の進められた優先規制化学品名録は、これまで2次にわたって中国の生態環境部、工業情報化部および国家衛生計画生育委員会の連名で公表されてきました。


第1次分として2017年12月に1,2,4-トリクロロベンゼン(CAS RN 120-82-1)、ジクロロメタン(75-09-2)等計22件 3)、第2次分として2020年11月に1,1-ジクロロエチレン(CAS RN 75-35-4)、1,2-ジクロロプロパン(78-87-5)等計18件 4)、合計40件の物質あるいは物質群が公表されています。


公表されたこれら物質の有する環境や人の健康に対する本質的な有害性については、具体的には以下の有害性に分類されるものです:

①持続性、生体蓄積性、毒性(PBT)を有する物質。

②中国の「化学物質の分類と表示に関する規則」(GB 30000)シリーズの基準に従って、既知の発癌物質として確認されており、人の生殖細胞に遺伝的変異を引き起こす物質、或いは人の生殖毒性に分類される物質。(CMR)

③環境または健康上のリスクのために国際的に禁止または厳しく制限されている物質。

④環境汚染事件を引き起こし、人々に大きな影響を及ぼした物質。

この様に収載物質は、環境汚染物質を中心に選定されていますが、これらにはストックホルム(POPs)条約、ロッテルダム(PIC)条約といった環境汚染対策を目的とした国際条約において規制対象となっているものもあります。


優先規制化学品名録に収載された物質に対しては、その生産や使用による環境や人の健康に与える重大な影響を軽減するために、以下の1つ以上の管理措置が実施されます。

①汚染物質リストの公表と政策・規制の実施:優先規制化学品名録を基にして、大気汚染防止法および水質汚染防止法の規定(次節参照)により、有毒・有害な大気汚染物質、水質汚染物質の各々のリストを公表する。また「1製品1ポリシー」の原則に則り、関連する政策や規制を実施する。これは経済的および技術的実現可能性、化学環境および健康へのリスク、その他の特定の条件を包括的に考慮して選択する。

②制限措置:これらの物質の特定の製品での使用を制限するために、関連の国内強制規格を改定する。また政府はこれらの代替を奨励する。

③クリーン生産監査と情報公開:これらの物質を生産、あるいは排出する企業に対し、クリーン生産監査を義務付けると共に、企業はこれらの物質の名称、量、使用法、排出濃度等の情報を一般に分かり易い方法で公開する。


なお、これらの政府の施策を実行し、有毒・有害物質の環境リスク状況を追跡・評価し、その結果に基づいて優先規制化学品名録は、タイムリーに更新を行っていくとしています。

 

3.優先規制化学品名録と大気汚染防止法、水質汚染防止法、土壌汚染防止法との関係

前節で述べた様に、優先規制化学品名録を基に、有毒・有害な大気汚染物質および水質汚染物質の各々のリストが作成されます。


大気汚染については、大気汚染防止法 5) の2015年8月改正で追加された第78条によって有害・有毒大気汚染物質のリストが公表され、それらの人の健康や環境に対する危険性や影響の程度によってリスク管理を実施すると規定されています。


また水質汚染については水質汚染防止法6) の2017年6月改正による第32条において同様な規定がなされています。


双方のリストの関係ですが、優先規制化学品名録は主に「管理」の原則を反映し、優先すべき化学物質のスクリーニングに焦点を当てています。


これに対し、有毒有害大気汚染物名録および有毒有害水汚染物名録は「有為の制御」の原則に基づき、優先規制化学品名録の中から国の排出基準と監視方法に基づき、効果的に制御できる固定発生源から排出される化学物質を対象としています。7) 


これまでに2019年1月、有毒有害大気汚染物名録2018年 8) として11件、同年7月に有毒有害水汚染物名録第1組 9)として10件の物質または物質群が指定、公表されています。これらは全て優先規制化学品名録第1次公表分の中から指定されていますが、殆どは大気・水質双方の名録に含まれています。


なお土壌汚染については2018年8月に土壌汚染防止法 10) が制定され、その第20条で土壌中の有毒・有害物質のスクリーニング評価を実施し、そのリストを公表することが規定されていますが、2020年12月現在ではまだ公表されていません。


おわりに

以上述べた様に、中国では既存化学物質に対して環境汚染防止を目的としたリスク評価に基づく管理体制の構築が進められています。


引き続き更なる取組みとして、優先規制化学物質名録、有毒有害大気汚染物名録および有毒有害水汚染物名録への物質の追加、後2者の収載物質に対する具体的な濃度規制値や適用除外の範囲等の規程の整備や土壌汚染物質リストの策定等が進められていくことが予想されます。


今後共こうした動向には注意を払う必要があります。


(福井 徹)


1) 国务院关于印发水污染防治行动计划的通知 国发〔2015〕17号

http://www.gov.cn/zhengce/content/2015-04/16/content_9613.htm


2) 《优先控制化学品名录(第二批)》解读

http://www.mee.gov.cn/ywgz/gtfwyhxpgl/hxphjgl/zcfgybzgf/202011/t20201104_806203.shtml


3) 关于发布《优先控制化学品名录(第一批)》的公告 公告 2017年 第83号

http://www.mee.gov.cn/gkml/hbb/bgg/201712/t20171229_428832.htm


4) 关于发布《优先控制化学品名录(第二批)》的公告 公告 2020年 第47号

http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk01/202011/t20201102_805937.html


5) 中华人民共和国大气污染防治法

http://www.mee.gov.cn/ywgz/fgbz/fl/200802/t20080229_118802.shtml


6) 中华人民共和国水污染防治法(2017年6月27日第二次修正)

http://www.mee.gov.cn/ywgz/fgbz/fl/200802/t20080229_118802.shtml


7) 专家解读《有毒有害大气污染物名录(第一批)(征求意见稿)》

http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk15/201812/t20181210_683948.html


8) 关于发布《有毒有害大气污染物名录(2018年)》的公告 公告 2019年 第4号

http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk01/201901/t20190131_691779.html


9) 关于发布《有毒有害水污染物名录(第一批)》的公告 公告 2019年 第28号

http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk01/201907/t20190729_712633.html


10) 中华人民共和国土壤污染防治法

http://www.mee.gov.cn/ywgz/fgbz/fl/201809/t20180907_549845.shtml


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