2022年09月15日更新
プラスチックは別名で合成樹脂と呼ばれるようにモノマーを重合して合成し高分子化したものです。 身近な例では包装材などに使用するエチレン(モノマー)から合成されるポリエチレンなどが知られています。 モノマーから合成して製造されるプラスチックはさらに添加剤などを加えることによって狙いの特性がでるように調整されています。
上記のようにして製造されたプラスチックは環境中に廃棄された場合、光や熱などの作用により分解され小片化し、5 mm以下のものは「マイクロプラスチック」と呼ばれ環境中に蓄積されることが懸念されています。 プラスチックの分解は配合されている添加剤が促進するとの指摘もあります。 マイクロプラスチックは、海洋生物の体内で検出されるなどプラスチックごみ問題として近年注目されている物質です。 これらプラスチックごみ問題への対策としては、以下の(i)~(iii)の内容を中心として各国で規制が強化されてきています。
(i)プラスチックの使用量を抑制する
(ii)回収、リサイクルなどによる環境中への流出防止
(iii)生分解性プラスチックの開発・利用
本コラムでは上記を踏まえ、以下に近年のプラスチックごみに関する各国の取り組みについて紹介していきます。
◆EUの動向
EUは2018年1月にEUプラスチック戦略(1)を採択し、プラスチックごみ問題に関する取り組みを公表しており、先に述べた(i)~(iii)を含んだ内容となっています。 EUでは最終的に二酸化炭素と水まで分解するものを「生分解性」、光や熱の作用により化学物質が酸化して分解し、最終的にマイクロプラスチックとして環境中に残留することが懸念されるものを「オキソ分解性」と名付け区別しています。
「生分解性プラスチックの開発・利用」に関しては、生分解性プラスチックの多くが自然環境(特に海洋環境)で見つけるのが困難な特定の条件下で分解するというのが現状のため、結局は分解せずに環境中に残留し生態系に害を及ぼすという問題があることを指摘しています。 問題の解決策として「生分解性」と表示できるプラスチックおよび使用後の取り扱い方法を明確にし、生分解性プラスチックの定義とラベル付けに関する調和の取れた規則を作成することを提案しています。
現在、EUでは製品に意図的に添加されたマイクロプラスチックに関して、生分解性プラスチックを適用除外する方向でREACH規則の「制限」による規制を検討しています(2)。 この検討において「生分解性」に関して分解の速度なども考慮された検討を行っているため、「生分解性」の要件がどのように決定されるかは注目されるところです。
「プラスチックの使用量を抑制する」施策であるオキソ分解性プラスチックの規制については、「循環型経済におけるEUプラスチック戦略に関する 2018 年 9 月 13 日のEU議会決議(プラスチック戦略)」(3)において、オキソ分解性プラスチックを2020 年までに完全に禁止することを求めました。
この内容を受けてEUはオキソ分解性プラスチックに関する規制として「特定のプラスチック製品の環境への影響の削減に関する2019年6月5日の欧州議会および理事会の指令(Directive (EU) 2019/904)」を施行しています(4)。
対象範囲となるオキソ分解性プラスチックの定義は、酸化によってプラスチック材料が微小断片に断片化または化学的分解する添加剤を含むプラスチック材料を意味するとしています。 今後、この指令に基づき加盟国の国内法が制定され、オキソ分解性プラスチックの使用は禁止されていく方向となっています。
◆日本国内の動向
日本国内における「生分解性プラスチックの開発・利用」としては、2019年5月に策定された「プラスチック資源循環戦略」(5)に基づき作成された「バイオプラスチック導入ロードマップ」(6)の中で、「生分解性プラスチック」をバイオプラスチックの種類の一つとして位置づけ導入を促進していることがあげられます。 ここでいうバイオプラスチックとは原料として植物などの再生可能な有機資源を使用する「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」の総称としています(7)。
生分解性プラスチックは、分解環境に応じた適正なものを用いた場合、廃棄物処理の合理化、海洋プラスチックごみの削減などを実現する材料としています。 ただし、海洋での生分解性については、分解度合い・スピード等の生分解性をコントロールする技術の確立には一定の時間を要するとし、海洋生分解性を評価する手法の確立に向けて国際標準化のための議論を進めている段階です。
環境中に残留する海洋プラスチックごみ問題などへの対応については、プラスチックの資源循環を一層促進する重要性が高まっていることを受け、「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(8)を2022年4月1日より施行しています。 この法律はプラスチックに対し、プラスチック廃棄物の排出の抑制、再資源化に資する環境配慮設計やワンウェイプラスチックの使用の合理化などを求めており、主にリサイクル関連の施策を推進する内容となっています。 上記の施策は「プラスチックの使用量を抑制する」や「回収、リサイクルなどによる環境中への流出防止」に関する内容となります。
◆その他各国の動向
中国ではGB規格としてGB/T 41010-2021 「生物降解塑料与制品降解性能及标识要求(生分解性プラスチックと製品の分解性能及び標示に関する要件)」を2022年6月21日に発効し、適用対象として生分解性材料から作られた製品が含まれています。 この国家規格は生分解性および生分解性率などの用語と定義を規制し、分解性能要件、マーキング要件、および検査方法を定めています。 例えば、生分解性速度について「相対生分解率は 90% 以上であるべきであり、材料中の 1% 以上の成分の単一有機成分の絶対生分解率は 60% 以上であるべきである」や「生分解性プラスチックおよび製品が混合物またはさまざまな材料複合体で構成される場合、1% 未満の成分を含む有機成分も生分解性である必要がある」などの要件が記載されています。 今後、この規格がどのような取り扱いで運用されていくのかは注目しておく必要があるといえます。
また、中国は2020年1月に「プラスチック汚染管理の更なる強化に関する意見」(9)として、一部のプラスチック製品について段階的に製造、販売、使用を禁止または制限する方針を打ち出しました。 2021年9月に国家発展改革委員会生態環境省が公表した「第14次5カ年計画」内の「プラスチック汚染防止行動計画」(10)においても使い捨てプラスチック製品に重点を置き、プラスチック製品のリサイクル性を高め、使い捨てプラスチック製品の使用削減を継続的に推進するとしています。
その他の国では例えば台湾は2019年に「一次用塑膠吸管限制使用對象及實施方式」(11)において、学校や百貨店、ファーストフードチェーンなどに対し、使い捨てプラスチックストローの使用制限を定めています。
◆最後に
プラスチックは軽量かつ大量生産可能で安価など我々の生活を豊かにしてきた一方で、近年では、海洋プラスチックごみの問題として注目を集めています。
プラスチックの使用量を抑制する方策である使い捨てプラスチックの代替(例えばプラスチックストローの紙への代替)などは、各国で検討が進められており、世界的な流れの一つになると思われます。
回収、リサイクルなどによる環境中への流出防止についても各国で検討が進められており、どこまで施策を徹底し製造者、消費者の意識を高めていくかがポイントとなりそうです。
また、生分解性プラスチックの開発・利用については、「生分解性」の考え方に関して一部で定義づけに関する方針が出ているものの、実環境における実効性を含め議論の余地があるという状況です。
ナイロビで開催された国連環境総会(UNEA-5.2)の第5回会期では、プラスチック汚染を終わらせ、2024年までに国際的な法的拘束力のある協定を締結するという歴史的な決議が下されました(12)。 プラスチックに関する規制は世界的な流れになっており、今後も各国が実施する規制動向について注視していく必要がありそうです。
(1)EUプラスチック戦略
(2)マイクロプラスチックの制限提案
(3)プラスチック戦略
(4)2019年6月5日の欧州議会および理事会の指令
(5)プラスチック資源循環戦略
(6)バイオプラスチック導入ロードマップ
(7)プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律
(8)バイオプラスチックの導入に向けて
(9)プラスチック汚染管理の更なる強化に関する意見
(10)第14次5カ年計画のプラスチック汚染防止行動計画
(11)一次用塑膠吸管限制使用對象及實施方式
(12)プラスチック汚染に関する政府間交渉委員会(INC)
(長野 知広)
Kommentare