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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

SCIPデータベースの評価報告書

2022年12月16日更新

はじめに

現在EUではREACH規則で定めている認可対象候補物質(Candidate List Substance:CLS)を含有する成形品を登録したデータベース(Substances of Concern In articles as such or in complex objects(Products)Data Base:SCIP DB)が運用されています。 本年10月、欧州化学品庁(European Chemical Agency:ECHA)は、その運用開始後初めて、その目的の達成状況や、現状の問題点、今後優先して取り組むべき課題等を分析・評価した報告書(First ex-post Evaluation of SCIP)を公表しました。1) ,2)

本稿では、その概要について解説します。


1.SCIP DBについて

SCIP DBは廃棄物枠組み指令 2008/98/EC(Waste Framework Directive:WFD)に基づきます。3)

この指令は2008年に初めて公布、施行されましたが、EU域内の廃棄物処理の法的枠組みを定めることで、廃棄物の発生に伴う人の健康や環境への有害な影響を防止し、それらを保護することを目的としています。 


その後2015年に循環型経済行動計画が採択されましたが、こうした経済システムに転換を図るには、資源の効率的利用の促進が不可欠であるため、WFDは2018年6月に改定され、その中でSCIP DBが法的に規定されました。


すなわちその第9条(1)の(i)において、EU加盟各国は、廃棄物生成の削減を図るために講ずる措置の1つとして、材料および製品中の有害物質の含有量の削減を促進し、REACH規則第3条の33で定義される成形品のサプライヤ(全ての製造者、輸入者、流通業者、および成形品を供給するその他の関係者)は、2021年1月5日以降、ECHAにそれらの情報を提出することを確実にすること、また同条(2)において、ECHAは2020年1月5日までにその提出情報のデータベースを構築し、維持することが定められました。


こうしたデータベースは、以下を目的とするものです:

(i) CLSのより有害性の低い物質への代替およびそれらを含む廃棄物発生の防止を促進する。

(ii) 廃棄物処理業者が廃棄物処理の一層の改善を図るために必要な情報を利用できるようにし、消費者は情報に基づいた選択を行えるようにする。

(iii) 当局が成形品中のCLSの使用を監視し、成形品のライフサイクルに渡る適切な規制措置ができる様にする。


そして諸準備を経てSCIP DBは2020年10月26日に運用が開始され、翌年1月5日より成形品の情報の登録が開始されました。

これは同日以降CLSを0.1wt%超含む成形品をEU域内のサプライチェーンに供給するサプライヤに対し、その成形品の特定、安全使用、CLSとその含有箇所、使用・廃棄方法等の情報をSCIP DBに登録することを義務付け、これら情報を一般に公開するものです。なお登録の対象となる成形品は、成形品そのもの(article as such)の他に、これらを組み込まれた複合品(complex object)も登録対象です。


SCIP DBには、2022年12月初旬時点で計880万余件の登録が確認できます。4)


2.分析・評価の方法

今回の分析・評価は、ECHAとEU域内のコンサルティング法人であるPwC EU Serviceとの連携の下に進められ、下記の3つの方法により収集したデータを組み合わせて分析しました。 実地調査で得た回答に対する分析を主とし、回答数の少なかった設問については、適宜机上調査やインタビューで得た情報で補いました:


(i)実地調査:ウェブ上でのアンケート調査を実施し、397件の回答を得た。回答者の内訳はSCIP登録義務のある企業69%、一般消費者や消費者組合、環境NGO等7%、廃棄物処理業者2%。また国別ではドイツ31%、イタリア23%と、両国で過半数を占め、また5件はEU/EAA以外からの回答であった。

(ii)机上調査:REACH規則、WFD等の法令、ECHAの2019~2023年の戦略プラン 5) 、SCIP DB構築のシナリオ案 6) や、その他これまでの業務文書類を調査した。

(iii)インタビュー:EU加盟国の当局、廃棄物管理者や関連組織等計12者に対して実施した。


3.分析・評価結果の概要

得られた情報の分析結果を基に、SCIP DBに対し、その妥当性、有効性、コスト的効率性、利便性、付加価値、および整合性の6つの観点から評価を行い、その現状と問題点を以下の様に指摘しています:

(1) 妥当性

SCIP DBの目的とするところは、利害関係者のニーズ、期待や義務に適合するものであることが確認できました。


しかし登録義務のある企業以外の消費者、廃棄物管理者等は、SCIP DB収載情報の信頼性や品質には疑問は無いものの、そのアクセスのし難さを感じています。 また企業によっては自らの登録する情報の利害関係者にとっての有用性を理解していない場合があります。


(2)有効性

SCIP DBは他では入手できない信頼性ある情報を提供しているが、それらの使用が困難であり、また半数以上の回答者は、SCIP DBは成形品中のCLSのより安全な物質への代替の実質的なインセンティブにはなっていないと答えています。


そして登録義務者のコンプライアンスを更に高めるためには、彼らのSCIP DBに対する一層の意識の増進を図る必要があります。


(3) コスト的効率性

EUではSCIP DBより少し前の2017年のCLP規則改定により、有害性混合物に関する情報の毒物センターへの届出制度(Poison Center Notification:PCN)7) が施行されました。2017~2021年のPCNプラットフォーム、2019~2021年のSCIP DBの各々に対するシステム開発およびメンテナンス関係の支出費用を比較しましたが、両者共その期間の合計額は3.6~3.7百万€とほぼ同程度になっています。 これについては、SCIP DBはPCNプラットフォームよりシステムとしては一段と規模が大きく、複雑ではあるが、SCIP DBにはそうした規模の経済性や、先行したPCNプットフォームの開発成果を利用できたことの効果が考えられます。


そしてSCIP DBに対し、(i)これ以上のシステムの開発は行わない、(ii)人員は減らし、開発は限定されたもののみとする、(iii)人員は維持し、更なる開発を行う、の3ケースを想定し、2023~2025年における各々の費用を試算しました。


(4) 利便性

登録義務者は使いやすさと時間の節約を最も重視する一方、消費者、廃棄物処理者やその他の情報検索を行う者は、より簡潔で実用的な検索機能を求めています。

また情報によっては英語以外の言語に翻訳されていない不便さもあり、利害関係者によって評価はまちまちです。

現状のSCIP DBは有用ではあるものの、最適なものにはまだなっていません。


(5) 付加価値

SCIP DBは実質的にEUに付加価値をもたらしていることを認めていますが、まだその利点は完全なものにはなっていません。


仮にSCIP DBを取り止めた場合には、殆どの者は成形品中のCLSに関する透明性と可視性が妨げられると考えていますが、一部の者からは、SCIP DBは法規制の整備や廃棄物管理に便益をもたらすものかについては疑問であるとの指摘があります。


(6) 整合性

SCIP DBは他のECHAの取り組んでいる政策との整合性はとれており、他の法令やツールと共に、化学物質の安全に向けてのより幅広い目標へ向かって寄与するものです。 しかし一部の登録義務者からは、既存のREACH規則第33条における成形品使用者への含有CLSの情報提供義務と重複しており、このためのITシステムの統合は特に中小企業への負担となることが指摘されています。

 

そしてこうした分析を踏まえ、今後の方向性として以下の様な内容を勧告しています:


(i)様々な利害関係者にとって効率的に情報検索を行える様に改善していく:

・廃棄物管理者に対しては、ニーズに適合した検索機能と識別子を実装する。現在の SCIP DBの情報形式は、彼らのニーズに対して細かすぎる。

・消費者に対しては、既存の消費者向け情報提供のためのツールとの統合を図り、企業名やバーコード等の一般的な名称識別子を提供することにより、アクセスの容易化を図る。

(ii)SCIP DBでは、ネットを介したシステム連携(System to system:S2S)により情報登録が可能なサービスが提供されているが、これを使用する可能性のない企業向けには、登録プロセスをさらに簡便化する。

(iii) 今後のシステムへの支出費用については、今回の試算を参考にしつつ、取組みに必要なリソースを見積もり、どの程度の範囲の改善が可能なのかを念入りに検討する。

(iv) SCIP DBの収載情報は有用であるため、英語以外の言語にも翻訳して、可能な限り理解し易いものとする。

(v) REACH規則第33条との関連については、SCIP DBと AskREACH 等のアプリケーションやデータベースとを統合することで、消費者にとって一層の整合性や有効性を向上させる。


おわりに

循環型経済への転換のための施策の1つとして構築され、稼働開始から2年余を経たSCIP DBですが、今回の分析・評価により概ね当初の狙い通りの効果は得られていることが確認されたものの、今後更に改善すべき点も指摘されました。


今後は本報告書の内容も踏まえ、順次これらの課題への取組みがなされていくと思われますので、引き続き注視していきたいと思います。


参考URL

1)




4)




7)


以上

(福井 徹)

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