2021年05月14日更新
RoHS指令については、制限対象物質や適用除外用途、指令全体の見直しが進行中ですが、2021年3月に制限対象物質を対象とした調査プロジェクト(パック15)の最終報告書が公表されました。
パック15は、制限対象物質に関する3つのタスクと、適用除外用途に関する2つのタスク、合計5つのタスクを対象に2018年2月に検討が開始されていました。
【制限対象物質に関するタスク】
・タスク1:制限対象物質の評価・特定に関する既存方法論の見直し
・タスク2:タスク1で見直した方法論に基づく7物資群の詳細評価
・タスク3:電気電子製品で使用される物質の特定と将来的な制限検討に向けた優先順位付け
【適用除外用途に関するタスク】
・タスク4:適用除外用途申請の評価・決定に関する方法論の開発
・タスク5:適用除外用途申請の評価
今回は、パック15の最終報告書1)で示された各タスクの結果概要を紹介します。
1.タスク1(制限対象物質の評価・特定に関する既存方法論の見直し)
4種のフタル酸エステル類等を含む前回の制限対象物質の検討時において、制限対象物質の検討を行う際に用いる「方法論マニュアル」が2013年に整備されていましたが、パック15ではこの方法論マニュアルについて見直しが行われました。
見直しにあたっては、RoHS指令第6条の制限対象物質を検討する際の基準や、REACH規則や廃棄物枠組み指令(WFD)等の関連法規制との関わり、物質情報の情報源等について改訂が行われています。大きく次の3つのステップで制限対象物質を特定する流れとなっています。
(1)電気電子製品中に使用されている物質の特定
電気電子製品中に使用されている物質のインベントリーを作成(または更新)し、インベントリーの各物質における有害性や使用状況等の情報を追加し、RoHS指令第6条の基準に合致する物質を特定する。
(2)電気電子製品中に使用されている物質の優先順位付け
特定した物質について、電気電子製品における一般的な用途や使用量、他法規制による規制状況等の情報を踏まえ、健康や環境、資源効率への悪影響による優先順位付けを行う。
(3)高優先物質の詳細評価
優先順位付けの結果、「高優先」とされた物質について、電気電子製品使用時の使用者へのリスク、廃電気電子機器による労働者や環境へのリスク、代替物質の有無やその入手可能性やその有害性、制限対象となった場合の社会経済的影響等の詳細な調査を行う。
2.タスク2(タスク1で見直した方法論に基づく7物資群の詳細評価)
見直された方法論マニュアルの「(3)高優先物質の詳細評価」の手順に従って、次の7物質群の詳細評価が実施され、その結果、7物質のうち2物質(TBBP-AおよびMCCPs)を制限対象物質に推奨することが示されました。
なお、結論については、2019年10月および12月に公表されていた詳細評価結果案2)と同様となっています。
・ベリリウムおよびその化合物:追加は推奨しない
・ジクロロコバルト(II)、硫酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、炭酸第一コバルト、酢酸コバルト(II):追加は推奨しない
・三酸化二アンチモン:追加は推奨しない
・りん化インジウム(InP):追加は推奨しない
・中鎖塩素化パラフィン(MCCPs):追加を推奨する
・硫酸ニッケル(II)、スルファミン酸ニッケル:追加は推奨しない
・2,2’-ビス(4’-ヒドロキシ-3’,5’-ジブロモフェニル)プロパン(TBBP-A):追加を推奨する
3.タスク3(電気電子製品で使用される物質の特定と将来的な制限検討に向けた優先順位付け)
見直された方法論マニュアルの「(1)電気電子製品中に使用されている物質の特定」および「(2)電気電子製品中に使用されている物質の優先順位付け」の手順に従って、インベントリーリストと優先物質リストが作成されました。
インベントリーリストには、電気電子製品に含有または製造時に使用されることが判明している900を超える物質について、物質情報やREACH規則等の他規制による規制状況、有害性、電気電子製品での使用量が取りまとめられました。 また、これらの物質は事前評価によって、10の優先順位グループ(グループI~グループX)に分類されています。
次に、優先物質リストには、インベントリー中の優先順位グループのうち、最も優先順位の高い「グループI」に位置づけられた物質について、さらに電気電子製品での用途等の追加情報が追記されるとともに、さらに次の5つのクラスターに分類されています。
・クラスターI a):最も有害性が高いグループであり、大量に使用されている物質、または最も有害性が高いグループであり、ナノマテリアルとして使用されている物質、または他のRoHS指令制限対象物質の代替物質となる可能性がある物質【6物質】
・クラスターI b):最も有害性が高いグループの物質またはこのクラスター内の他物質やREACH規則の認可あるいは制限の対象または追加勧告されている物質の代替物質である可能性が示されている物質【13物質】
・クラスターI c):最も有害性が高いグループの物質であるが、電気電子製品中の含有に業界団体等から疑問が提示されている物質、またはこのクラスター内の他物質やREACH規則の認可あるいは制限の対象または追加勧告されている物質の代替物質である可能性が示されている物質【18物質】
・クラスターI d):有害性が低いグループの物質、またはこのクラスター内の他物質やREACH規則の認可あるいは制限の対象または追加勧告されている物質の代替物質である可能性が示されている物質【2物質】
・クラスターI e):有害性が低いグループであり、電気電子製品での含有が不明確である物質、またはこのクラスター内の他物質やREACH規則の認可あるいは制限の対象または追加勧告されている物質の代替物質である可能性が示されている物質【4物質】
RoHS指令の制限対象物質への追加推奨は、あくまで物質ごとの詳細評価に基づくものであり、優先物質リストへの収載は追加推奨とは直接関係ありません。しかしながら、今後詳細評価を行う物質を選定する際に考慮されることになります。
4.タスク4:適用除外用途申請の評価・決定に関する方法論の開発
RoHS指令第5条(1)の基準に基づいた適用除外用途申請の評価手続きに関する「方法論マニュアル」が新たに作成されました。
方法論マニュアルでは、RoHS指令第5条(1)(a)の基準への適合やライフサイクル分析による定量的な影響比較等を、次の4つのフェーズで評価することが示されています。
・明確化フェーズ:適用除外用途申請がRoHS指令附属書Vに定める最低限の情報要件を満たしているかのスクリーニング評価を実施する。
・意見募集フェーズ:申請された適用除外用途に対する賛否や、用途の範囲や表現、有効期限、代替可能性等について、利害関係者から意見を収集する。
・評価フェーズ:寄せられた意見を踏まえ、REACH規則との整合性や、代替や廃絶の科学技術的な実行可能性や代替物質の信頼性、代替等による健康や環境への影響、代替物質の入手可能性や社会経済的影響、有効期限について、RoHS指令第5条(1)(a)の基準への適合を評価する。
・報告フェーズ:報告書を作成する。
5.タスク5:適用除外用途申請の評価
新たに作成された適用除外用途申請の評価に関する「方法論マニュアル」に基づき、ディスプレイや照明に用いられる量子ドット中のカドミウムに関する3つの適用除外用途申請が一括で評価されました。その結果、附属書IIIに新たに1種の適用除外用途の追加とともに、関連する既存のNo.39a(ディスプレイ照明用途のダウンシフトカドミウムベース半導体ナノクリスタル量子ドット中のセレン化カドミウム(ディスプレイ画面のカドミウム含有量が0.2μg/mm2未満)のカドミウム)の12カ月後の廃止が推奨されました。
6.最後に
パック15は多くのタスクが調査対象であったこともあり、2018年2月の開始から2021年3月の報告書の公表まで3年強の期間を要しました。調査報告書の結論はあくまでも調査の結論であり、欧州委員会がその内容を踏まえて、制限対象物質や適用除外用途についての最終判断を行い、立法手続きが進められることになります。 しかしながら、制限対象物質の推奨や、優先物質リストの公表等、RoHS指令の制限対象物質に関する今後の方向性を示す内容となっていますので、企業の取組においても参考になる調査報告書であると考えます。
(井上 晋一)
1) パック15報告書
2)詳細評価結果案
・2019年12月公表版(3物質群)
・2019年9月公表版(4物質群)
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