当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • tkk-lab

Q579.塩化ビニルからのフタル酸エステル類の移行対応について

2020年05月22日更新

【質問】 フタル酸エステル規制で工場のすべての塩ビ製マットなどの撤去を要請されました。 コスト負担がおおきいのですが、どう対応すべきでしょうか。

【回答】 ご質問のフタル酸エステル類は、国内外のいくつかの法規則により規制を受けます。 主な規制は以下のとおりです。

1.RoHS(Ⅱ)指令(EU)

2019年7月22日より改正RoHS指令(RoHS(Ⅱ)指令)に伴い、製品含有禁止物質としてフタル酸エステル類4物質(DEHP、BBP、DBP、DIBP)が追加され、それぞれ均質素材当たり1,000ppm以上の含有が制限されました。


2.玩具、育児用品についての使用規制

EU、米国、日本のいずれの国・地域でも、乳幼児を保護することを目的として、玩具や育児用品へのフタル酸エステル類の使用の制限が行われています。 規制値は0.1%としているケースが多く見受けられます。

3.日本国内の食品用器具および容器包装に関する規格基準食品衛生法の規定として、油脂、脂肪性食品を含有する食品に接触する器具および容器包装には、DEHPを含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂の使用が原則として禁止されています。

上述の通り、いずれも製品中のフタル酸エステル類を制限するものであり、フタル酸エステル類含有素材を、貴社の工場内で使用することを制限するものではありません。 ただし貴社製品の製造プロセスや保管中に、ポリ塩化ビニルと貴社製品と接触すること等でRoHS(Ⅱ)指令の規制値を超えて製品に移行することを懸念されていると拝察します。

ポリ塩化ビニルはポリマー(高分子鎖)ですが、可塑剤であるフタル酸エステル類は低分子であるため、それらは化学結合でつながっているわけではなく、混ざり合った状態になっています。 このため、ポリ塩化ビニルの表面にブラウン運動によるしみ出し(ブリードアウト)が起こります。

ブリードアウトしたフタル酸エステル類は、接触している製品等に移行し、移行量はフタル酸エステル類の含有量や、製品等が置かれた温度などの環境によって増減し、各法規則の含有規制を超えて移行する場合もあり対策が必要とされています。

しかし、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行の「フタル酸エステル類規制への対応」というレポート1)2)では、DEHP移行実験の結果を示しており、DEHPを約30%含有したPVCマット上に、市販のPVC消しゴム(DEHP非含有)を室温中、自重のみで接触させて、85日後にPVC消しゴムの接触面をラマン分光法で測定したが、有意な移行を確認することはできなかったとされています。


一方、DEHPを約30%含有したPVCマットと市販のPVC消しゴム(DEHP非含有)を圧着させた場合には、85日後にPVC消しゴムの接触面を熱分解GC/MS法で測定すると、0.2%のDEHPが確認されたと報告されています。


また、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行の「接触による移行汚染管理ガイダンス」3)によると、フタル酸エステル類は蒸気圧が低く、ブリードアウトしたものが全て空気中に揮散するわけではないことから、非接触の場合には、接触による移行に比べて影響は相当に小さいとされています。

貴社工場内には、塩ビマット以外の生産設備や工具等にもフタル酸エステル類を含有する素材を使用している可能性がありますので、これらを全て工場内から排除することは、費用も甚大になり困難と思われます。 上述の通り、フタル酸エステル類の移行には温度や接触する際の圧力、製品の素材などの条件により、移行量が変化することが確認されていますので、移行汚染そのものを完全に防止するのではなく、各法令の閾値を超える汚染を起こさないレベルに移行量を管理することを前提とした視点での対応が現実的です。

具体的には貴社工場内の環境下において、可能性のある移行元(塩ビマットなど)および移行先(製品)を特定し、実際に起こり得る移行量を検証し、閾値以下に移行量を管理するための具体的な方法を「論理的」に検討することが望ましいと考えます。

論理的に検討するための考え方や正しい知識は、前述の「接触による移行汚染管理ガイダンス」3)において「直接影響を与える因子の視点」と、「工程別の視点」の2つの着眼点で解説されています。 また、「RoHS指令対象フタル酸エステル4物質の汚染管理に関するQ&A(JAMP発行)」4)では、貴社と類似した課題を抱えている企業向けに、フタル酸エステル類の汚染管理に関する情報がQ&A形式で解説されていますので、それらを参考にされ貴社工場内の環境に合わせた管理の仕組みを構築することをお勧めします。

なお、フタル酸エステル類を含有する樹脂類は包装資材などにも利用されている場合がありますので、部品などの受け入れから、製品の出荷工程、更には販売物流環境における汚染管理についても配慮が必要となりますので注意が必要です。


参考資料

1.地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行

「フタル酸エステル類規制への対応」レポート

https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/9542.pdf

2.地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行

「フタル酸エステル類規制への対応(続編)」レポート

https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/9594.pdf

3.アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行

「接触による移行汚染管理ガイダンス」

―RoHS指令対象フタル酸エステル4物質への対応の着眼点―(第1.0版)

 (アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行)

https://chemsherpa.net/docs/guidelines#guideline2

4.アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行

 「RoHS指令対象フタル酸エステル4物質の汚染管理に関するQ&A」

https://chemsherpa.net/docs/guidelines#guideline2

3,359回の閲覧

最新記事

すべて表示

Q599.中国のCCCマークとCGPマークの相違点について

【質問】 中国のCCCマークとCGPマークの違いを教えてください。 【回答】 CCCマークは、中国の強制製品認証(China Compulsory Certification 以下CCC認証)制度に適合を示す認証マークです1)。 CCC認証制度の各種資料や適合製品の登録情報に関するポータルサイトがあります2)。 CCC認証制度は、强制性产品认证管理规定(強制製品認証管理規定)で規定された強制認証制

Q598.RoHS(II)指令の整合規格変更に対する川下メーカーの対応について

2021年07月02日 【質問】 RoHSの整合規格が2021年11月18日にEN50581:2012からENIEC63000に変更になるため、対応を進めたいと考えております。 2つの規格は基本的には同じという情報があり、川下メーカーの対応としては適合宣言書の整合規格の文言を変更するだけでよいのでしょうか。 【回答】 EN IEC 63000:2018は、委員会実施決定 (EU) 2020/65

Q596.食品加工用ロボットの保護用手袋にCEマーキングが必要でしょうか

2021年04月22日更新 【質問】 食品加工用のロボットを開発しております。 ロボットの手の部分にディスポ保護手袋を使用しますが、EUに輸出する手袋にCEマーキングは必要でしょうか。 【回答】 食品加工用ロボットが貴社製品ならば、その機能(仕様)により、以下のCEマーキングなどが適用される可能性があります。 ・機械指令 Directive 2006/42/EC ・EMC指令 Directive