当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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Q653.フタル酸エステル類の揮散・収着による移行の影響

2019年7月31日更新


【質問】

電子部品類を倉庫の棚に保管する場合、フタル酸エステル類の揮散・収着による移行の影響は無視してもよいものでしょうか。

【回答】

RoHS(II)指令では2019年7月22日からフタル酸エステル類4物質DEHP(CAS No 117-81-7)、BBP(CAS No 85-68-7)、DBP(CAS No 84-74-2)、DIBP(CAS No 84-69-5)について、それぞれ1,000ppm以上の含有が制限されました。


ご質問は貴社が取り扱う電子部品類の保管中に、同じ保管場所に置いてあるポリ塩化ビニルなどの樹脂やゴム類などに含まれるフタル酸エステル類が空気中に揮散(揮発)し、その電子部品に収着(付着)することで、RoHS(II)指令の含有規制(1,000ppm以上)を超えて移行することを懸念されていると拝察します。


フタル酸エステルの主な用途はポリ塩化ビニル等の樹脂やゴム類などに柔軟性を持たせることを目的とした可塑剤であり、電源コードや包装資材などに広く使用されています。 樹脂はポリマー(高分子鎖)ですが、可塑剤であるフタル酸エステル類は低分子であるため、それらは化学結合でつながっているわけではなく、混ざり合った状態になっています。 このため、フタル酸エステル類を含有する樹脂(成形品)の表面にブラウン運動によるしみ出し(ブリードアウト)が起こります。


ブリードアウトしたフタル酸エステル類は、成形品同士が相互に接触している場合には一方の成形品に含有されたフタル酸エステル分子が他方の成形品に移行し、移行量はフタル酸エステル類の含有量や、成形品が置かれた温度などの環境によって増減し、含有規制を超えて移行する場合もあり対策が必要とされています。

一方、アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行の「接触による移行汚染管理ガイダンス」1)によると、フタル酸エステル類は蒸気圧が低く、空気中に揮散しにくく、ブリードアウトしたものが全て空気中に揮散するわけではないことから、成形品同士が接触していない場合には、接触による移行に比べて影響は相当に小さいとされています。 また同ガイダンスでは非接触による移行が相当に小さいことを確認する実験結果も紹介されており、非接触による移行は汚染経路として無視できると判断されています。


更に、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行の「フタル酸エステル類規制への対応」というレポート2)3)では、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)移行実験の結果を示しており、DEHPを約30%含有したPVCマット上に、市販のPVC消しゴム(DEHPフリー)を室温中、自重のみで接触させて、85日後にPVC消しゴムの接触面をラマン分光法で測定したが、有意な移行を確認することはできなかったそうです。 しかし、DEHPを約30%含有したPVCマットと市販のPVC消しゴム(DEHPフリー)を圧着させた場合には移行(85日後に0.2%)が確認されたと報告されています。

したがいまして貴社の電子部品を保管する際に、同じ倉庫に保管されているフタル酸エステル類含有製品からの非接触(揮散・収着)による移行の影響は極めて低いと考えられます。


また、フタル酸エステル類は金属などの無機物には浸透しないことから、半導体などの無機物で構成された電子部品であれば、更に非接触(揮散・収着)による移行の影響は低いと思われます。


参考資料

1.接触による移行汚染管理ガイダンス

―RoHS指令対象フタル酸エステル4物質への対応の着眼点―(第1.0版)

 (アーティクルマネジメント推進協議会(JAMP)発行)

https://chemsherpa.net/docs/guidelines


2.地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行

「フタル酸エステル類規制への対応」レポート

https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/9542.pdf


3.地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター発行

「フタル酸エステル類規制への対応(続編)」レポート

https://www.iri-tokyo.jp/uploaded/attachment/9594.pdf

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