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Safety Gateの2018年通知概要
2019年6月6日更新
EUでは市場から危険な製品を排除することを目的に、EU委員会を通じた参加国内での迅速な情報交換を行うための「RAPEX」が運用されていました。
このRAPEXは消費者や企業、行政当局が容易に情報を確認できるように、2018年に見直しが行われました。
見直し内容を踏まえて、2019年3月には新たなガイドライン[1]が公表され、また通知内容の外部公表用のウェブサイトの名称が「Safety Gate」[2]に変更されました。
Safety Gateの2018年の年次報告書が2019年4月に公表[3]されましたので、2018年の通知状況についてご紹介します。
1. Safety Gateの2018年通知概要
2018年の年次報告書[4]によると、2018年の通知件数は2,257件であり、2017年の2,201件から若干増加した結果となりました。
この通知の内訳を「製品カテゴリー」「リスク」「原産国」別に上位5位を見てみます。
1)製品カテゴリー
製品カテゴリー別に見ると、玩具が最も多く違反製品として通知されており、次いで自動車の順となっています。
この結果は2017年とほぼ同様ですが、第5位のみ育児用品から化粧品に代わっています。
第1位:玩具(31%)
第2位:自動車(19%)
第3位:衣類・繊維製品(10%)
第4位:電気製品(8%)
第5位:化粧品(7%)
2)リスク
リスク別に見ると、僅差ではありますが、「化学物質」に起因する違反製品が最も多く、次いで「けが」の順となっています。
2016年、2017年は「けが」が最も多く、化学物質は第2位となっていましたが、2018年は化学物質が最も多くなりました。なお、RoHS指令違反等が含まれる「環境」は2%でした。
第1位:化学物質(25%)
第2位:けが(25%)
第3位:絞扼(18%)
第4位:電気ショック(10%)
第5位:火災(8%)
3)原産国
原産国別に見ると、2017年と同様に「中国・香港・台湾」が半数以上を占め、次いで「EU/EEA」の順となっています。
ちなみに日本は6番目(2%)に位置する結果となっています。
第1位:中国・香港・台湾(53%)
第2位:EU/EEA(24%)
第3位:不明(10%)
第4位:トルコ(3%)
第5位:米国(3%)
また年次報告では、Safety Gateに関連する2018年の主要な成果としては、次の3つの活動が紹介されています。
RAPEXの見直し
インターネット販売製品の監視強化を目的とした、インターネット販売プラットフォームを提供する主要4社(アリババ、アマゾン、イーベイ、楽天フランス)との誓約締結
危険な製品に関する情報共有を目的としたカナダとの協定締結
2. 化学物質および環境リスクに関する通知
2018年の年次報告書では詳細は示されていませんが、REACH規則やRoHS指令等、含有化学物質に関連する通知を見てみます。
まず、化学物質リスクに起因する通知を見ると、REACH規則附属書XVIIによる制限違反が大半を占め、その他に化粧品規則や玩具指令の違反が挙げられています。
REACH規則附属書XVIIに収載された物質のうち、最も多くの件数が挙げられているのは「No.51 玩具および育児用品中のフタル酸エステル類」であり、その他には次のような制限項目に対する違反事例が挙げられていました。
No.6 混合物および成形品中のアスベスト繊維類
No.23 プラスチック材料や宝飾品中のカドミウムおよびその化合物
No.27 ファスナーや宝飾品等の直接かつ長時間皮膚に接触する部品中のニッケルおよびその化合物
No.32 一般消費者向け混合物中のクロロホルム
No.43 直接かつ長時間皮膚や口腔に接触する繊維製品や皮革製品中のアゾ色素およびアゾ染料
No.47 皮革製品中の六価クロム
No.50 直接皮膚や口腔に長期または短期反復接触するゴムまたはプラスチック部品中の多環芳香族炭化水素(PAH)
No.63 宝飾品や幼児が口に含む可能性がある製品中の鉛およびその化合物
また、含有化学物質に関する法規制は、使用時における消費者への健康影響以外にも環境を経由した人への影響を防止することを目的にしているものもあり、これらの法規制違反については、「環境」リスクに分類されています。
環境リスクに起因する通知を見ると、次のような違反事例が挙げられていました。
POPs規則が制限する短鎖塩化パラフィン(SCCP)を含有する各種製品
RoHS指令が制限する鉛、カドミウム、水銀を含有する照明、玩具、イヤホン、ケーブル、仮装道具、時計等
包装材指令が制限するカドミウムを含有した玩具容器
電池指令が制限する水銀を含有した玩具のボタン電池
洗剤規則が制限するリンを含有した洗剤
Safety Gateで例年、化学物質に起因する違反事例として最も多く挙げられるフタル酸エステル類では、2019年7月からRoHS指令の制限対象物質になります。
さらに、2018年12月のREACH規則附属書XVIIの改正によって、2020年7月からフタル酸エステル類を含有する屋内で使用する消費者向け製品が制限されます。
また、2018年には次の4つの制限が新たに追加されています。
No.69 メタノールを含有する一般消費者向けのフロントガラスの洗浄剤・除霜剤の制限を新規追加
No.70 オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)およびデカメチルシクロペンタシロキサン(D5)を含有する使用後に水で洗い流すタイプの化粧品の制限を新規追加
No.71 1-メチル-2-ピロリドン(NMP)およびNMPを含有する混合物について、労働者ばく露に関する所定の条件を満たしていない場合の制限を新規追加
No.72 発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)特性を有する33物質群を含有する衣類や靴等の制限を新規追加
消費者の製品安全のリスクとして、化学物質に起因する違反事例が最も多く挙げられているということは、それだけ当局の市場監視において、化学物質規制への対応が重要視されていると言えます。
「Safety Gate」で公表されている事例は、改めてREACH規則やPOPs規則、RoHS指令で規制される物質や用途で含有している可能性が高いのかを確認する一つの材料として活用することができます。
(井上 晋一)
[1] RAPEXに関するガイドライン((EU) 2019/417)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32019D0417&from=EN
[2] Safety Gate
[3] 欧州委員会のプレスリリース
http://europa.eu/rapid/press-release_IP-19-1992_en.htm
[4] 2018年年次報告書