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製造者の出荷後の義務
製造者はRoHS(II)指令対応としてCAS(Compliance Assurance System)を構築し、TD(Technical Documentation)を作成し、DoC(EU DECLARATION OF CONFORMITY)に署名をすると、法規制対応の役割は終わったとホッとします。
しかし、出荷後も製造者には義務があります。
§1.輸入者との関係
RoHS(II)指令(指令2011/65/EU)の第9条 (輸入者)の義務)では、輸入者の義務として、次を示しています。 注1)
輸入者は、電気電子機器を上市する前に、次項を確実になくてはなりません。(i~vは説明用に筆者が追記)
i. 製造業者によって適切な適合性評価手順が実行されていること
ii. 製造業者が技術文書を作成していること
iii. 対象の電気電子機器にCEマーキングが貼付されていること
iv. 必要な文書が伴われていること
v. 第7条の製造業者による所定の銘板記載項目が適合していること
このように、輸入者は、製造業者が要求事項を満たしていることを確認する義務が課されています。
同時に、輸入者はCEマーキンギに関する“Blue Guide 2016”の2.4項(EU域外国からの輸入品)で、「EU域外国から輸入された製品については、EU整合法令により、輸入者の特別な役割が想定している。特別な役割として、EU内の製造業者の義務をある程度反映する特定の義務を負う」としています。 注2)
“Blue Guide 2016”3.3項(輸入者)で、輸入者の義務を「輸入者は認定代理人のように、製造者からの要請書も、製造者との優先関係も必要ない。 しかし、輸入者はその責任を遂行するために、製造者との連絡網が確立される(例、技術文書を当局の要求により利用可能にする)ことを確実にしなくてはならない。」としています。
EU整合法令は、EU域内者(社)にしか適用できません。 輸入品のEU域外国の製造者の義務を輸入者に課して、適合製品を輸入することを確実にすることを狙ったものです。
このような状況からも、製造者と輸入者の関係は密にする必要があります。
§2. NLFと 規則764/2008の義務
RoHS(II)指令などのCEマーキング対象のEU整合法令群はNLF(New Legislative Framework)と調和されており、“Blue Guide 2016”はNLFの運用のためのガイドです。
NLFは次のEU整合法令群などで構成されています。
1) 規則764/2008(他の加盟国で合法的に販売されている製品への特定の国内技術規則の適用に関する手続き) 注3)
2) 規則 765/2008(製品のマーケティングに関する認定および市場監視の要件(認定および市場監視) 注4)
3) 決定768/2008/EC(商品のマーケティングのための共通の枠組み) 注5)
上市後に不適合の疑義が生じた場合などで、製造者と輸入者は連携してNLFの対応をしなくてはなりません。
規則764/2008では、第10条(タスク)で次を課しています。
(1)製品連絡窓口は、とりわけ、経済事業者又は他の加盟国の権限のある当局の要請に応じて、次の情報を提供するものとする:
(a)当該製品連絡窓口が設置されている地域における特定の種類の製品に適用される技術規則、及び当該種類の製品が加盟国の法令に基づく事前の認可の要件に該当するかどうかに関する情報、並びに当該加盟国の地域における相互承認の原則及び本規則の適用に関する情報; (中略)
(2)製品連絡窓口は、(1)にいう要求を受領してから15営業日(Working days)以内に対応するものとする。 (以下略)
製品連絡窓口は電気電子機器に表示された輸入者名です。輸入者は「法令に基づく事前の認可の要件に該当するかどうかに関する情報」(RoHS(II)指令の適合確認情報としての技術文書)をEU域外国の製造者から 情報を得なくてはなりません。 逆には、EU域外国の製造者は、15日以内に、EUの公用語で技術文書類を提出しなくてはなりません。
製品が順法不適合であるとRAPEX(Safety Gate)で公開されます。 注6)
製品が不適合であることが明確な場合は、加盟国の当局はリスクレベルに応じて、リコールなどの対応をします。
この手順は、「RAPEXの管理に関するガイドライン」で説明されています。
i.加盟国は、製品によってもたらされるリスクの影響がその領域を超える、または超える可能性があると考えた場合にのみ、RAPEX通知を提出する。(Part I 6.1項)
ii. 加盟国当局は、リスクのある製品に対して自国の領土で実施された強制的および自主的措置の両方について、RAPEX申請を通じて委員会に通知します。(Part II 3.3.2項)
iii. 化学的リスクのある製品の通知
製品に含有を禁止されているか、EU整合法令で定められた制限を超える濃度の化学物質を含んでいる場合、その製品のリスクレベルは深刻であると見なされる場合がある。
そのため、EU整合法令に含まれる制限の対象となる化学物質を含む製品に対して対策が講じられている場合、詳細なリスク評価なしで通知が提出される場合がある。(3.4.3.3(a)項)
iv.EU委員会は追加情報の要求、自らの調査を行う。(3.4.3.4及び3.4.3.5項)
v.EU委員会は加盟国に通知し一般公衆に開示する
vi.加盟国は市場調査を行いフォローする
このように、RoHS(II)指令の特定有害物質の最大許容濃度を超えた場合は、「深刻」とされる可能性があります。
不適合製品は、RAPEXにより発見国だけでなく、EU委員会に通知され、加盟国等に通知され、各加盟国でも処置をとることになります。
リコールなどの措置は、規則764/2008 第6条(技術的ルールを適用する必要性の評価)により、通知を受領した後、少なくとも20営業日内にコメントを提出することを指定されます。
このように、当局の直接的な対応は輸入者の義務として行うとしても、技術的な内容は、製造者が対応することになります。
輸入者と製造者は、緊密な連携は (が) 不可欠となります。
§3 規則 765/2008と規則2019/1020の義務
規則765/2008は市場監視の法規制です。市場監視は第19条で規定されています。
第19条(市場監視方法)(部分訳)
1. 市場監視当局は、適切な規模で、文書確認及び必要であれば適切なサンプルに基づく物理的及び試験所確認により、適正な規模で、製品の特性について適切な確認を行うものとする。
その際には、リスクアセスメントの原則、苦情及びその他の情報を考慮しなければならない。
市場監視当局は、経済事業者(Economic Operators:製造者、輸入者、卸業者など)に対し、その活動を実施するために必要であると思われる文書及び情報を入手可能にすることを求め、必要かつ正当化される場合には、経済事業者の敷地に立ち入り、必要な製品のサンプルを採取することができる。
それらは、必要と思われる場合には、重大なリスクを与えている製品を破壊または動作不能にすることができる。
経済事業者が、認定された適合性評価機関によって発行された試験報告書又は適合性証明書を提示する場合、市場監視当局は、その報告書又は証明書を適切に考慮しなければならない。(以下略)
しかしながら、通関した製品は当局が通関検査で法的に認めたものではないのか、との疑念もあります。 この点について、規則765/2008を改正する規則2019/1020(2021年7月16日施行、一部2021年1月1日施行)の前文第53文節で「一般に、自由移動のための税関からのリリースは、そのようなリリースが必ずしも順法の完全なチェックを含むわけではないので、EU整合法に適合する証拠であると見なされるべきではない。」としています。
通関後も、順法性が市場監視当局から追求されることになります。
経済事業者の役割について、規則2019/1020の第4条(経済事業者のタスク)で明確にしています。 注8)
3.経済事業者は、以下のタスクを実行するものとする。
(a)製品に適用されるEU整合法令がEU適合宣言又は性能(パフォーマンス)宣言及び技術文書を規定している場合、EU適合宣言又は性能宣言及び技術文書が作成されていることを検証し、その法律で必要とされる期間について、EU適合宣言または性能および技術文書を市場監視当局の自由に使用できるように維持する。
(b)市場監視当局からの合理的な要求に対して、その当局が容易に理解できる言語で製品の適合性を実証するために必要なすべての情報と文書をその当局に提供する。
EUでは、技術文書は当局の求めに応じて15日以内に提供する義務があり、製造者と輸入者は信頼関係が必要となります。
輸入者は勝手に輸入品をCEマーキングがあることを確認し、輸入者名称等を表示するだけで義務は終わりません。 決定768/2008/ECの前文7で「流通業者及び輸入者は、市場の近くに位置しているため、当局が実施する市場監視業務に関係すべきであり、製品に関するあらゆる必要な情報を所管当局に提供するために積極的に参加すべきである。」とされています。
RoHS(II)指令第12条(経済事業者の識別)で、トレサビリティが要求されています。
「加盟国は、電気電子機器の上市後10年間、経済事業者が要求に応じて以下を市場監視当局に確認することを確実する。
(a)電気電子機器を供給した経済運営者
(b)電気電子機器を提供した経済事業者
このトレサビリティは、RoHS(II)指令第7条(製造者の責任)(i)項のリコール対応にも必要になります。
リコール目的でなくても、日本の製造者(輸出者)は、EUの輸入者を特定できなくてはなりません。 徹底するには、日本企業は、1社限定とする対応があります。
例えば、トレサビリティを明確にするために、輸入者毎に型式を変えている企業もあります。
現地法人が存在すれば輸入者は1社とできるので確実ですが、現地法人が存在しない場合は、輸入者を絞り特定することが肝要です。
§4.企業対応
上市の定義は、RoHS(II)指令 第3条(用語の定義)12項で「上市とは、EU市場において電気電子機器を最初に利用できるようにする」としています。
“Blue Guide 2016”の2.2項(市場で利用可能にすること)では、「市場で利用可能とは、有償、無償に拘わらず商業活動において、EU市場で流通、消費または使用のための供給されるときである」です。
日本企業が製造してから、輸入者に渡し、最終使用者に渡るまでが対象です。
“Blue Guide 2016”の2章(EU整合法令は製品にいつ適用されるか)の2.1項(カバーされる製品)で、「製品は上市された(または使用することとされた)時点で、法的要求事項を満たさなければならない」としています。
従って、最終使用者に渡る時点で、RoHS(II)指令に適合していなくてはならないことになります。
EUに販売した、あるいは販売された製品は、日本国内の顧客と同じように、対応しなくてはなりません。 しかし、EUと日本の法規制、商習慣は大きく異なります。
アジア圏の輸入者からは、CEマーキングが安全マーク代わりに要求されることがありますが、CEマーキングは (を) 安易に貼付して、販売すると様々なルートからEUに転売される可能性があります。知らない輸入者から様々な要求が来るのを避けたいものです。
(松浦 徹也)
引用情報
注1)RoHS(II)指令 consolidated version(2019.7.22)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:02011L0065-20190722
注2“Blue Guide 2016”
https://ec.europa.eu/growth/content/‘blue-guide’-implementation-eu-product-rules-0_en
注3) 規則764/2008
https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:218:0021:0029:en:PDF
注4)規則 765/2008
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:32008R0765
注5)決定768/2008/EC
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32008D0768
注6)RAPEX(Safty Gate)
注7)RAPEX ガイドライン
注8)規則2019/1020
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32019R1020