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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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「1物質1評価」の化学物質評価に伴う新たな立法案について

2024年01月26日更新

2023年12月7日、欧州委員会は、迅速かつ簡素で透明性の高いプロセスを目指す「1物質1評価」の化学物質評価の仕組みとして、3つの立法案を提案しました。 1) この3つの立法案のうちのひとつは、RoHS指令2011/65/EU 2)の改正案となるため、化学物質管理に関わる多くの方にとって、興味深い内容になっていると考えられます。 今回のコラムでは、この提案の経緯と各立法案の簡潔な内容を説明します。


1.提案の背景

現在、化学物質は、化粧品、玩具、電子機器などに使用されています。 しかし、その上市や認可に関する規制の枠組みが多様であるため、異なるEU機関(欧州化学物質庁(ECHA)、欧州食品安全機関(EFSA)、欧州環境庁(EEA)、欧州医薬品庁(EMA)など)によって、異なる時期に、異なるデータや非調和的な方法論で評価されることも多くなっています。 そのため、利害関係者や一般市民は、化学物質規制のプロセスやその結果の決定を把握することが困難な状況にあります。


2020年10月に発表された「持続可能性のための化学物質戦略」3)における「1物質1評価」構想では、安全性評価の開始と優先順位の設定が、各分野の特殊性を考慮したうえで、調整され、透明性があり、可能な限り同期した方法で行われることを保証するものであるとしています。 さらに、ある法律のもとで評価が提案された場合、他の法律のもとでの計画を十分に考慮し、調整された行動が確保されるようにしなければならないとしています。


このような背景のもとで、EU法制全体にわたる化学物質評価の合理化、化学物質に関する知識基盤の強化、新たな化学物質リスクの早期発見と対策の確保を目的とした3つの立法案が採択されました。


今回の措置により、化学物質情報へのアクセスが簡素化・透明化されるとともに、法制度がより調和され、予測可能なプロセスとなります。 さらに、化学物質における評価の確実性が強化されることで、市民や企業、当局が恩恵を受けることが見込まれています。 また、起こりうるリスクの特定から必要な規制措置までのギャップを縮め、最終的に、人々の健康と環境をより良く、より迅速に保護することにつながると考えられます。


今回、提案された3つの立法案は以下の通りです。


(1)化学物質に関する共通のデータプラットフォームを確立する規則案 4)

本規則案は、全27条に及ぶ新しい法規制で、共通データプラットフォームの設置を含む、データ管理のための統合された枠組みを構築することを目的としています。


本提案では、ECHAが共通データプラットフォームを構築し、管理するための規則を定めています。 対象となる化学物質データとは、物理化学的特性、危険性、用途、ばく露安全性、リスク、発生、排出、製造工程、環境持続性、法的義務、学術研究、基準値などとなっています。 また、欧州委員会とEU諸機関に対し、共通データプラットフォームを通じたデータの円滑な電子交換を促進するために、標準フォーマットと統制語彙を指定することを要求しています。


(2)化学物質分野における科学的・技術的任務の再割り当てとEU諸機関の協力改善に関する規則案 5)

既存のタスクの再割り当てや、EU諸機関への新たなタスクの割り当てには、既存の化学物質に関する法規制の的を絞った改正が必要となります。 望ましい手法は、他の目的でEUの個々の法規制が改正された際に、改正を行うことでタスクを帰属させることですが、本提案では、現在改正されていない既存の法規制の改正に焦点を当てています。


これらの改正により、化学物質評価の一貫性と効率性に関わるすべての側面において、EU諸機関による方法論の開発、データ交換、科学的成果の相違の調整など良好な協力が確保されることになります。


本提案の目的は、以下を確実にすることとしています。

・化学物質に関する評価とその基礎となる技術的・科学的作業の責任分担を明確にし、相乗効果を最大限に引き出し、EU諸機関で利用可能な専門知識と資源を最大限に活用する。

・成果物の科学的品質、手続きの透明性と包括性を向上させる。

・方法論の開発やデータ交換を含め、化学物質の評価を支えるあらゆる側面において、関係者間で良好な協力と調整を行う。


提案の第1条では、食品要求事項規則(EC)No 178/2002 6)を改正し、EFSAと、ECHA、EMA、及びEEAなどの他の機関との間の協力と調整を強化するための規定を導入しています。


第2条では、欧州環境規則(EC)No 401/2009 7)を改正し、EEAが任務の範囲内における化学物質の評価方法論の開発、及び化学物質に関するデータ・情報の交換並びに化学物質の評価における科学的方法論の開発に関して、他の機関と協力して行うことを規定しています。


第3条では、医療機器規則(EU)2017/745 8)の付属書Iを改正し、欧州委員会がECHAに対し、医療機器に含まれるフタル酸エステルのリスクと便益の評価に関するガイドラインの更新を要求しています。(10.4.3フタル酸エステル類に関するガイドライン) さらに、欧州委員会はECHAに対して、発がん性、変異原性、生殖毒性(CMR)カテゴリー1Aまたは1Bに分類される物質、あるいは内分泌かく乱作用を有する物質に関するガイドラインの作成を要求しています。(10.4.4その他のCMRおよび内分泌かく乱物質に関するガイドライン)


第4条では、POPs規則(EU)No 2019/1021 9)を改正し、欧州委員会がECHAに対して、附属書IVおよび附属書Vに指定された濃度限度値の影響を分析した報告書の提出を要求しています。 この報告書は、ECHAの社会経済分析委員会による意見を含み、欧州委員会がこれらの規制値の変更を提案する際の支援となるものです。 さらに、実施状況のモニタリングとして、加盟国が報告する附属書Ⅲ(放出削減規定対象物質リスト)のパートAに含まれる物質に関する情報をEEAに共有することを規定しています。


(3)欧州化学物質庁(ECHA)への科学技術的任務の再割り当てに関する指令案 10)

本指令案は、RoHS指令2011/65/EUにおいて、現状、欧州委員会が実施している科学的・技術的任務をECHAに割り当てるものです。 ECHAとその科学委員会(リスクアセスメント委員会および社会経済分析委員会)は、RoHS指令における物質の制限と、その制限に関連する適用除外申請の評価に関する手続きに責任を持つことになります。 適用除外の決定、更新、取り消しの申請はECHAに提出され、評価のプロセスにおいて、ECHAはリスクアセスメント委員会(適用除外においては新規の申請の場合、またはその他適切と考えられる場合)および社会経済分析委員に意見を求め、発表するといった内容になっています。


提案は、RoHS指令の第5条(附属書の科学的および技術的進歩への適応)、附属書V(第5条の適用除外付与、更新および取消の申請)と第6条(附属書 II の制限物質リストの見直しと修正)を改正する1条のみで構成されており、条文の文言修正、一部条項を追加する内容となっています。


2.まとめ

今回の提案は、EFSAとECHA、EMA、EEAなどのEU諸機関における化学物質に関する科学的・技術的作業を統合し、協力を強化したうえで、各機関は、化学物質の評価に使用される優先順位の設定、スケジュール、プロセス、方法論を調整するための体制を構築するものです。 さらに、特定の法規制の下での評価で得られた化学物質の見識を、異なる法規制で再利用することが可能となります。 これにより、化学物質情報へのアクセスが簡素化、透明化され、利害関係者にとって法規制の動向は、予測可能なプロセスとなります。


本コラムで度々取り上げることのあるRoHS指令2011/65/EUの適用除外および規制対象物質の追加における検討状況などは、情報のキャッチアップに苦慮されている方も多いと考えられます。


今回の立法案は、今後、欧州議会と理事会によって審議されることになりますが、正式に採択されることで、そのような情報やデータへのアクセスが容易になり、化学物質管理に関するビジネス対応がよりスムーズになることが期待されます。


(柳田 覚)


1) 欧州委員会によるプレスリリース


2) RoHS指令2011/65/EU


3) 持続可能性のための化学物質戦略


4) 化学物質に関する共通のデータプラットフォームを確立する規則案


5) 化学物質分野における科学的・技術的任務の再割り当てとEU諸機関の協力改善に関する規則案


6) 食品要求事項規則(EC)No 178/2002


7) 欧州環境規則(EC)No 401/2009


8) 医療機器規則(EU)2017/745


9) POPs規則(EU)No 2019/1021


10) 欧州化学物質庁(ECHA)への科学技術的任務の再割り当てに関する指令案

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