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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

よもやま話 2024年シリーズ なぜ、この法規制が始まったのか 第2回 持続可能な製品のエコデザイン規則((EU) 2024/1781:ESPR)

2024年12月11日更新

持続可能な製品のエコデザイン規則((EU) 2024/1781:ESPR1))は、6月28日に従来のエネルギー関連製品のエコデザイン指令(2009/125/EC:ErP指令)を置き換える「規則」として公布されました。

これまでの指令に比べ、大幅にその内容が強化されており、順次各種義務が開始されていきます。


1.制定背景

EUにおけるエコデザインに関する規制は、2005年の「エネルギー使用製品のエコデザイン指令((2005/32/EC):EuP指令2))」に遡ります。EuP指令は、使用時に意図した機能を発揮するためにエネルギーを使用する「エネルギー使用製品(EuP)」を対象に、製品ごとに定められたエコデザイン要件で定められたライフサイクルを通じた環境負荷に対する要件の順守を求める内容でした。具体的なエコデザイン要件は製品ごとに別途設定される枠組みとなっており、主としてエネルギー効率が要件として設定されてきました。

その後2009年にEuP指令は「エネルギー関連製品のエコデザイン指令(2009/125/EC:ErP指令)3)」に改正され、対象製品がEuPから「エネルギー関連製品(ErP)」への拡大が図られました。その結果、これまでに照明機器や冷蔵庫、ディスプレイ、モータ、外部電源など30種以上の製品別に主として、エネルギー効率、資源効率、情報提供の3つのエコデザイン要件が定められ、運用されています。

さらに、2019年の「EU グリーンディール」を受けて2020年に公表された「循環型経済活動計画(Circular Economy Action Plan)」では、EU市場における持続可能な製品の流通を高めるための中核となる法規制としてErP指令が挙げられ、ESPRの検討が重ねられ、制定に至りました。


2.規制の目的

ESPRは、製品ライフサイクル全体におけるカーボンフットプリントや環境フットプリントを削減し、製品の環境持続可能性を向上させた「持続可能な製品」をEU域内市場で流通する製品の標準とし、それら製品のEU域内での自由流通に向けて、EU市場に上市または使用される製品が順守しなければならないエコデザイン要件を設定するための枠組みを確立することを目的としています。また、あわせてデジタル製品パスポート(DPP)の確立やグリーン公共調達要件の設定、売れ残り消費者製品の廃棄を防止ための枠組みの構築も目的とされています。

この目的を達成するために、ESPRは、122文節の前文、80条の条文、7つの附属書で構成され、従来に比べて、対象製品が従来のエネルギー関連製品から食品や医薬品等の一部の対象外製品を除くすべての製品に拡大するとともに、各種製品ごとに設定されるエコデザイン要件の範囲も次のように大きく拡大されました。

・ 耐久性

・ 信頼性

・ 再利用性

・ アップグレード性

・ 修理可能性

・ 保守・改修の可能性

・ 含有懸念物質

・ エネルギー使用およびエネルギー効率

・ 水使用および水効率

・ 資源利用および資源効率

・ リサイクル材の利用

・ 再製造可能性

・ リサイクル可能性

・ 材料回収の可能性

・ 環境フットプリントおよびカーボンフットプリントを含む環境影響

・ 予想される廃棄物発生

また、これらのエコデザイン要件やその適合性に関する情報、製品や製造者の情報等、製品の持続可能性に関する各種情報は、新たに規定されたデジタル製品パスポート(DPP)を通じて電子的に提供することが求められます。


3.製造者の義務

ESPRではエコデザイン要件の順守等、従来から継続した義務に加え、いくつかの新たな義務が追加されており、第27条に製造者の義務として次の10項目が規定されています。

(1) 製品別エコデザイン要件の対象製品を上市または使用開始する場合、製品別のエコデザイン要件に従った設計・製造を行うとともに、定められた情報が貼付され、デジタル製品パスポート(DPP)を利用可能とすること

(2) 適合性評価を実施し、必要な技術文書および適合宣言書を作成し、CEマークを貼付すること

(3) 技術文書および適合宣言書を10年間または製品別エコデザイン要件で指定された期間保管すること

(4) 連続生産製品が、エコデザイン要件に適合し続けることを確保するための手順を整備し、設計や工程、整合規格等の変更を適切に考慮し、製品の適合性に影響がある場合は、適合性評価手順に従い、再評価を実施すること

(5) 製品に、識別可能な型式番号等を付記すること

(6) 製造者名や登録商号または登録商標、連絡可能な住所および連絡可能な電子通信手段を記載すること

(7) 加盟国が容易に理解できる言語で明確で理解しやすい、環境影響を最小限に抑制し、最適な耐久性を確保するための導入や使用、保守、修理方法等の製品の使用者等向けの必要事項を記載したデジタル説明書を添付するとともに、製品の耐用年数または少なくとも10年間はオンラインでアクセス可能とすること。ただし、使用者等の健康と安全に関連する安全情報等は紙面で提供し、また使用者が購入後6カ月以内に要求した場合には、無料でデジタル説明書を紙面で提供すること

(8) 上市また使用開始後の製品が不適合と考える場合には、遅滞なく是正措置を図るか製品の回収やリコール行い、加盟国当局に通知すること

(9) 障害者のアクセシビリティを考慮し、使用者が製品の不適合に関する苦情や懸念を提出できるように、電話番号、電子メールアドレス、ウェブサイトなどの受付窓口を公開するとともに、受け付けた苦情や懸念の記録を保持すること

(10) 加盟国当局からの要請に応じて、技術文書を含む製品の適合性を証明するために必要なすべての情報および文書を15日以内に提供すること

また、上記以外にも第6章(第23条~第26条)において、売れ残りの消費者製品については、売れ残りを抑制するための措置や、情報開示、附属書VIIで指定された製品(現状は、衣類および履物)の廃棄禁止も新たに定められました。


4. 派生的規制法 

ESPRはスタートしていますが、詳細を定める各種の委任規則や製品別エコデザイン要件は今後順次定められるため、各種製品に具体的な対応が求められるのはまだ時間がかかることになりますものと想定されます。

しかしながら、2023年7月に「電池規則((EU)2023/1542)4」」が官報公示され、カーボンフットプリントやリサイクル材の最低使用割合、性能・耐久性、電池パスポート等、ESPRが求めている各種義務を先行する形で適用が順次開始されていきます。新たに求められるようになるエコデザイン要件の拡大やデジタル製品パスポート等に関する電池規則の運用が、今後ESPRの運用における試金石となるため、今後の運用が注目されます。


(井上 晋一)


1) EU官報 ESPR

2)EU官報 EuP指令

3) EU官報 ErP指令

4)EU官報 電池規則

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