2021年04月02日更新
米国における一般的な包装材に関する含有化学物質規制は各州法により定められています。
多くの州の州法は、モデルとなる規制をもとに制定されていますが、2021年2月にそのモデル規制が2021年版 1)に更新されることが公表されました。 今回のコラムではモデル規制の概要と更新された主な内容を説明します。
1.モデル規制の成り立ち
包装法における毒性モデル規制(Model Toxics in Packaging Legislation)は、1989年に米国全体で販売または流通している包装材および包装構成材(クッション材、外部ストラップ、コーティング、インク、ラベル、接着剤などの組立要素)中の重金属の量(具体的には鉛、水銀、カドミウム、6価クロム)を削減することを目的としてCONEG(Coalition of Northeastern Governors) 2)により開発されました。CONEGはコネチカット州、メイン州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、バーモント州の7人の知事が共同で州および地域に利益をもたらすことを目的として、地域の問題調査や効果的な解決策を策定、実施する非党派団体です。
その後、モデル規則は全米の多くの州に拡大し、現在では19の州がモデル規則を採用しています。モデル規則を採用した各州の実施状況とモデル規則との一貫性を確保するために1992年、TPCH(Toxics in Packaging Clearinghouse) 3)が設立されました。 モデル規則は2004年、2008年、2012年の改訂ののち、今回の2021年版モデル規制案を2020年7月にTPCHが公表し、意見募集 4)を行いました。 意見募集の結果 5)についてもTPCHのウェブサイトで確認できます。
2.2021年版モデル規制の更新内容
今回更新されたモデル規制は12セクションの構成となっており、以下では主な変更点を説明します。
(1)規制対象物質の追加(第4セクション)
従来のモデル規則では、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムを含む包装材および包装構成材の販売または流通を禁止しており、非意図的な含有の場合、鉛、カドミウム、水銀、六価クロムの濃度レベルの合計値は、100 ppm(0.01重量%)を超過しないこととしています。
今回の更新では、上記の金属類に加えて、フタル酸エステル類(Phthalates)ならびにパーフルオロアルキル化合物及びポリフルオロアルキル化合物(Perfluoroalkyl and polyfluoroalkyl substances; 以下PFAS)を含む包装材および包装構成材の販売または流通を禁止しています。非意図的な含有の場合、フタル酸エステル類はその合計値で100 ppm(0.01重量%)を超過しないこととされていますが、PFASについては、すべての条件で含有を認めておらず、非検出であることを要求しています。
今回の物質追加の背景としては、モデル規制に先駆けて、ワシントン州 6)やメイン州7)で食品包装材におけるPFAS含有の禁止が法制化されたことがあげられます。
(2)「意図的な含有」の定義(第3セクション)
「意図的な含有」とは、最終的な包装材および包装構成材に特定の特性、外観、または品質をもたらすために、規制化学物質の継続的な含有が望ましい場合、包装材および包装構成材の生成過程で規制化学物質を意図的に利用する行為を意味します。
モデル規則においては、規制化学物質が第4セクションの規定する濃度を下回っている場合であっても意図的な含有は認められません。 そのため、意図的な含有の定義については、より条件が明確である必要があります。 今回の更新では規制化学物質の処理剤や中間体として使用された場合における意図的含有との関係や使用済みリサイクル材料の使用に関する定義が追加されました。 処理剤や中間体として使用される場合については、金属(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム)と今回新たに規制対象として追加された化学物質(フタル酸エステル類とPFAS)では、異なる定義が示されています。
製造工程において特定の化学的または物理的変化を与えるための処理剤または中間体として、規制された金属(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム)を使用することは、最終包装材または包装構成材が第4セクションに適合しているうえで、上記金属または化学物質の残留物が必要のない偶発的な含有で意図的に添加していない場合、意図的な含有とはみなされません。
いっぽう、フタル酸エステル類とPFASを製造工程の処理剤、離型剤、または中間体として使用した際に、最終包装材または包装構成材にフタル酸エステル類やPFASが検出された場合は、意図的な含有とみなされます。
新しい包装材料を製造するための原料としての使用済みリサイクル材料の使用は、最終包装材または包装構成材の一部に規制された金属(鉛、カドミウム、水銀、六価クロム)や化学物質(フタル酸エステル類)が含まれている可能性があるものの、第4セクションに適合している場合、意図的な含有とはみなされません。
今回、使用済リサイクル材の定義が追加された背景については、規則を遵守しながら、二次資源の使用を促進するという明確な目的があり、使用済みリサイクル材料の活用を奨励しているためであると説明されています。
(3)有毒化学物質特定の基準と段階的な禁止プロセス(第6セクション)
今回の更新により、第4セクションの規制物質に追加される可能性がある包装材における高懸念化学物質のリストを公開、改訂することが明記されました。 有毒化学物質を構成する基準を確立することにより、人間と環境の両方に最も害を及ぼす物質に焦点を当てることができると説明されています。
第6セクションでは次の場合に化学物質が包装材における高懸念化学物質のリストに含めることができるとしています。
・化学物質が信頼できる科学的証拠に基づいて、次のように権威ある政府機関によって特定された場合
(ⅰ)発がん性物質、生殖発生毒性物質、または内分泌かく乱物質または
(ⅱ)難分解性、生体内蓄積性および毒性を有する物質(PBT)または
(ⅲ)極めて難分解性で生物蓄積性が非常に高い物質(vPvB)または
(ⅳ)残留性、移動性および毒性を有する物質(PMT)または
(ⅴ)非常に残留性が高く、非常に移動性の高い物質(vPvM)または
・化学物質が生殖発生毒性物質、内分泌かく乱物質、またはヒト発がん性物質であるという強力で信頼できる科学的証拠があると州の行政機関が判断した場合
・化学物質が以下の追加基準のうち1つ以上を満たしているという強力で信頼できる科学的証拠があると州の行政機関が判断した場合
(Ⅰ)化学物質がバイオモニタリング研究を通じて、ヒトの血液、ヒトの母乳、ヒトの尿、またはその他のヒトの体組織または体液に存在することが判明している
(Ⅱ)化学物質がサンプリングと分析の結果、包装材に含まれていることが判明している
(Ⅲ)化学物質が包装材に付加されているか、包装材に含まれている
州の行政機関は、公開されたリストを定期的に確認し、上記基準を満たさなくなった包装材における高懸念化学物質をリストから削除することができます。 さらに州の行政機関は上記基準を満たす包装材における高懸念化学物質をリストに追加することができますが、このリストに含まれる包装材における高懸念化学物質は10物質以下に制限をしています。
リストに含まれる包装材における高懸念化学物質は、有毒化学物質として定義されます。 包装廃棄物の毒性を減らすという規則の目標を達成するために、州の行政機関は規則公布後2年以内に発効日をもって、本規則の第4セクションに化学物質を追加することによって有毒化学物質が意図的に含有した包装材および包装構成材の販売を禁止することができます。 また、行政機関は州議会に対して、制定日から2年以内に発効日を定めて本規則の第4セクションに有毒化学物質を追加することを奨励することができます。
3.さいごに
モデル規制は、包装材の製造業者や供給者だけでなく、包装材を使用する製品の製造業者や流通業者まで対象にしており、顧客の要求に応じて適合証明書を提出する必要があります。
国外製品は輸入者に義務が課せられるため、日本の包装材や包装を伴う製品の製造業者が製品を米国に輸出する場合も規制(輸出する州の州法)に準拠する必要があります。
今回のモデル規制の更新を採用するか否かは各州に委ねられているため、関連する地域の州法の法改正の動向や改正の時期等を確認することが肝要です。 TPCHのウェブサイトでは、モデル規制更新につき、一時的に保留中となっていますが、各州法の比較や規制の要件に関するFAQ 8)も掲載されているため、今後、米国の包装材における含有物質規制に対応する際に参考にすることができます。
(柳田 覚)
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