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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

鉛および鉛化合物のREACH制限案

2021年04年09日更新

ECHAは鉛および鉛化合物(CAS RN(R) 7439-92-1) (以降:鉛)のREACH制限案をWebサイト1)に公開し、意見募集しています。 意見提出の第一次締め切り(早期コメント)は2021年5月5日で、最終期限(より実質的なコメント)は2021年9月24日です。 この早期コメントは2021年6月に行われるECHAの委員会での本提案の最初の議論に役立てるために重要です。

以降、その内容2)について解説します。


1. 意見募集の背景

今回の制限案の対象となるのは、EUに上市する狩猟、スポーツ射撃、その他の屋外射撃用の銃器・エアガンに使用する弾丸・ペレットや、釣り用のおもりやルアーに使用される鉛です。軍、警察、警備、税関などの特殊用途は対象外です。また、屋内での鉛弾の使用は制限案の対象外となります。


この制限案は、鉛の使用がもたらす人の健康と環境へのリスクに対処することを目的としています。3)


鳥類が上記のような鉛製の物品を摂取すると、死を含むさまざまな急性・慢性の毒物学的影響が生じることが判明しています。 この影響は、摂取した鉛の量と動物の体重に依存することも判明しています。色々な調査で鉛製の物品の摂取が報告されており、ECHAの報告書4)によると、少なくとも1億3,500万羽の鳥が鉛の弾丸による一次摂取*1による中毒の危険性にさらされており、1,400万羽の鳥が鉛の弾丸やその他の鉛の発射物を摂取したことによる二次摂取*2による中毒の危険性にさらされており、700万羽の鳥が釣り用のおもりやルアーを摂取したことによる一次摂取による中毒の危険性にさらされているとのことです。

*1:一次摂取(一次中毒) ・・・通常の摂食で鉛を食物と間違えて直接摂取すること。

*2:二次摂取(二次中毒) ・・・食物の摂取で、その食物に含まれる鉛を間接的に摂取すること(例:獲物や腐肉に含まれる鉛の破片)。


また、鉛は環境に有害なだけでなく、あらゆる年齢層の人間に毒性があり、様々な器官に影響を与えます。 鉛の健康への有害な影響はよく知られており、報告されている有害な影響には、神経発達障害、心血管疾患、腎機能障害(慢性腎臓病を含む)、高血圧、生殖能力の低下、妊娠への悪影響などがあります。 しかし、公衆衛生上最も懸念されるのは、7歳以下の子供における鉛の神経発達毒性です。 屋外での射撃用の弾丸や釣具に鉛が使用されているため、年間で約100万人の子どもが鉛の害にさらされていると推定されています。


2. 制限案の対象

この制限案では、淡水(川、湖、池)、河口、海洋のいずれにおいても、娯楽的、商業的な釣具に鉛を使用することが対象です。 また、釣り用おもりは小売店から購入することも、消費者が直接製造すること(以下:ホームキャスティング)も可能であるため、鉛を含む釣具で購入品とホームキャスティングされた物の両方が今回の制限案の対象となります。


具体的には制限案で対象としている用途は次の通りです。

1)狩猟

・ショットシェル弾を使用する狩猟

・弾丸を使用する狩猟(小口径、大口径)

2)スポーツ射撃

・ショットシェル弾を使用する屋外スポーツ射撃

3)弾丸を使用する屋外スポーツ射撃

・エアライフル/ガン/ピストルなどの屋外スポーツ射撃

4)歴史的な武器を使用する射撃

・歴史的な再演を含む屋外射撃活動

5)釣り

・釣り用のおもりやルアーに含まれる鉛

・漁網、ロープ、漁網資材に埋め込まれている、あるいは封入されている鉛


また、制限案で対象外としている用途は次の通りです。


屋内射撃、警察、法執行機関、軍事用途、重要インフラの保護、商業船舶や高額輸送車の保護、(テロ攻撃に対して無防備な)民間人や公共空間の防護、保護、技術試験、防弾のための材料や製品の開発・試験、法医学、歴史学、その他の技術研究や調査


3. 制限案の措置の内容

今回の制限案は、主に以下の3種類の措置で構成されています。


(1)使用条件に関わらず環境への排出が避けられない鉛製の弾丸や釣具の使用を禁止するとともに、技術的・経済的に実現可能で、人の健康や環境へのリスクが全体的に軽減される場合に適切な代替品が利用可能であれば、上市することも禁止されます。 なお一部の用途については、製造業者が規制に適応するための十分な時間を確保するために移行期間を設けることが提案されています。 しかし最終的にはいかなる目的であれ、鉛製の弾丸や釣具の上市が禁止されます。


(2)上市の禁止が、上記2項掲載の制限案の対象外用途に不均衡な影響を与える場合は、その用途のみの禁止が提案されます。


(3)小売業者は販売時に、弾丸や釣具に含まれる鉛の使用を廃止する時期や、鉛の存在、毒性、人の健康や環境へのリスクに関する情報を消費者に知らせる義務を負います。 また、小売業者は鉛を含む物品の代替品について、顧客に知らせる義務があります。 この要求は狩猟者や漁師が購買行動を変えるための意識付けをすることの重要性を強調した最近の研究に基づいています。


なお、代替品の性能が低い場合、例えば屋外スポーツ射撃の弾丸やエアガンのペレットなどについては、使用済みの弾丸を効果的に回収するための措置が講じられているスポーツ射撃場に限って使用することを提案しています。 この緩和措置には、販売時または使用時に厳格な運用条件を遵守する義務が含まれます。


4. 今後の動向

RAC(Committee for Risk Assessment)とSEAC(Committee for Socio- Economic Analysis)は、コンサルテーション開始から、2.5か月後に予備検討をし、5.5か月後に議論し、8.5か月後に除外事項を最終決定するとともに、意見と正当性を示す文章を最終的にまとめ最終意見を採択します。 ECHAはRACとSEACの両委員会の最終意見を2022年3月までに入手予定です。 ECHAはこれらの意見を欧州委員会に送付し、欧州委員会は規制案をREACH規則の付属書XVIIに含めるかどうかの決定を行う予定です。


(中山 政明)


引用

1)鉛のREACH制限案


2)


3)


4)

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