当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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米国・カリフォルニア州のSCPプログラムとその現状について

2021年05月21日更新

はじめに

化学工業における環境対策は、従来はその製造工程からの排ガスや排水中の環境汚染物質を基準以下に低減するとの考えが主流でした。 しかし1990年頃より化学工業のあり方として、それに伴う汚染物質の排出は未然に防止すべきであり、その生産から廃棄までのライフサイクルにおいて生態系に与える影響を最小限とするとの考え方が広まりました。


これをグリーンケミストリーと呼んでいますが、米国ではこの考え方を織り込んで1990年の環境汚染保護法(the Pollution Prevention Act, 42 U.S.C. §13101~13109)が制定されました。1)


こうした流れの中で米国・カリフォルニア州では消費者向け製品にこの考え方を適用、すなわち設計段階または製造工程より有害物質を排除し、より安全な製品(Safer Consumer Products、以下SCP)をつくるというアプローチが、2008年グリーンケミストリー法(HSC Division 20 Miscellaneous Health and Safety Provisions [24000 - 26250] , Chapter 6.5 Hazardous Waste Control [25100 - 25259], Article 14 Green Chemistry [25251 - 25257.2])として法的に整備されました。2)


この内容を具体的施策として実施していくための規則が2012~2013年に施行された California Code of Regulations Title 22 Social Security, Division 4.5 Environmental Health Standards for the Management of Hazardous Waste, Chapter 54~55 です。3), 4)


Chapter 54では管理すべき人の健康や環境に対する有害性や物理的危険性の種類とその定義、指標、その他の関連データ等を、またChapter 55では対象製品や規制の具体的プロセスについて規定しており、これがSCP規則と呼ばれているものです。


そしてSCP規則に基づいた消費者向け製品の安全性管理体制の構築を目指す取組みはSCPプログラムと呼ばれていますが、その目的は以下の様に述べられています 5) :


(1) 消費者向け製品中の有毒化学物質を減らす。

(2) 新興のSCP業界の新たなビジネス機会を創出する。

(3) 消費者と業者に彼らの家族や消費者のために購入する製品中に何が含まれているのかを特定できるようにする。

今回はこれらの概要及び現状についてご紹介することとします。


1.SCP規則の概要

Chapter 55は全11条(§69501~69511)より成ります。


本規則では一部の指定された例外を除くカリフォルニア州で流通する全ての消費者向け製品を対象としています。 そして或る製品とそれに含まれる或る化学物質との組合せを「優先製品(Prioritizing Product)」として指定し、その安全性を向上させていくための取組を規定しています。


また本規則に従うことを要求される対象者を「責任主体(responsible entity)」と称し、具体的には、製造者、輸入業者、組立業者、または小売業者が含まれますが、その主たる責任は製造者が負うとしています。


本規則による規制のプロセスは次の4ステップから構成されています(§69502,

69503,69505および69506):


(1) カリフォルニア州有害物質規制局(the Department of Toxic Substances Control、以下DTSC)は規制対象となる候補化学物質(Candidate Chemical)のリストを作成する。

(2) DTSCは候補化学物質と製品との組み合わせによる優先製品を指定する。指定された優先製品の責任主体は60日以内に届出を行う。

(3) DTSCは責任主体からの届出情報をwebサイトに掲示する。責任主体はばく露をいかに制限するか、人の健康および/または環境への危害レベルを低減するかを決定するため、その優先製品についての代替策分析(Alternatives Analysis )を行う。

(4) DTSCは、責任主体による代替策分析の結果の選択に応じて、責任主体に対する法的規制を取り決め、責任主体はそれを実行する。


ここで候補化学物質はプロポジション 65リストやEU のCLP規則((EC) 1272/2008)附属書Ⅵ中の発がん性その他の物質等、既存の危険有害性物質のリスト(具体的には§69502.2(a)(1)および(2)に示されています。)に収載されている物質中から選択され、現在2,655物質が指定されています。これはDTSCにより四半期ごとに更新されていますが、DTSCによる調査の他、外部の利害関係者からの請願に基づいても行われます。6)


また製品と候補化学物質リストから選択された化学物質の組合せが優先製品として指定されるには、優先順位付けの原則として以下の2条件が必要とされています(§69503.2(a)):


(1) 製品中の候補化学物質に多くの人々への、および/または水生、鳥類、または陸生の動植物への潜在的なばく露の可能性がある、

(2) 1つまたは複数のばく露によって、それが重大または広範囲な悪影響の発生に寄与、あるいは引き起こすような可能性がある。


そして優先製品は、主に候補化学物質 による悪影響と候補化学物質 へのばく露、廃棄物と使用終了時の悪影響、利用できる情報、他の規制プログラム、およびより安全な代替策の 5 つの要素を検討して指定されます。

現時点で指定されている優先製品は、第11条にリストアップされている以下の3製品カテゴリーです:


(1) トリス(1,3-ジクロロ-2-プロピル)ホスフェート(TDCPP)またはトリス(2-クロロエチル)ホスフェート(TCEP)を含むフォームパッドを使用した子供用寝具

(2) 未反応メチレンジフェニルジイソシアネートを含むスプレーポリウレタンフォームシステム

(3) 塩化メチレンを含む塗料またはワニス剥離剤


優先製品の責任主体は自分の製品が優先製品に指定された場合、指定後60日以内(優先製品に指定された後に上市する場合には上市日より60日以内)に所定のその製品に関する情報をDTSCへ届出なければなりません。

その後責任主体は代替策分析を行いますが、これは以下の2段階によって実施され、各々指定期間内に予備報告書と最終報告書とをDTSCへ提出せねばなりません。(§69505.4~69505.6)


(1) 第1段階:指定された優先製品の要件等を特定し、代替案を検討、これらの初期評価を行う。

(2) 第2段階:指定された優先製品と代替案とを比較検討し、選択すべき代替案を決定する。

なおその化学物質の製品への使用を停止する、その製品を市場から回収する、あるいは他の製品と化学物質との組み合わせに交換する意思および/または確認の届出を提出することによって代替策分析を行わないことも認められています。


また責任主体が代替策分析を実施し、その結果選択した対応策(代替品を選択しない等)によっては、DTSCは責任主体に対し、以下の様な法的な対応を要求することがあります(§69506.3~69506.8):


(1) 消費者への製品情報の提供

(2) 化学物質および製品の使用制限

(3) 製品の販売の禁止

(4) 有害物質へのばく露を回避或いは制御する様な設計の製品への導入

(5) 使用済み製品の回収やリサイクルに関する管理計画の策定

(6) 安全な代替品開発のための研究開発プロジェクトの推進或いはそのための助成金の出資


2.優先製品作業計画とその現状

SCP規則ではDTSC は「優先製品作業計画」を策定、向こう 3 年間に優先製品リストに追加される製品を特定するために評価対象となる製品カテゴリーを指定することが規定されています。(§69503.4(a))


この優先製品作業計画とは、優先製品指定による法的規制に先立ち、その妥当性を図るため、それに関わる製造者等の利害関係者にそのプロセスに参画する機会を提供し、またDTSCにとってはその指定に確実な根拠のある情報を得られるようにすることを目的とするものです。 この作業計画期間中には評価対象となる製品カテゴリーに関するワークショップ、オンラインセミナー、パブリックコメント等が実施されます。


これまでに3年毎に策定、推進されてきた2次にわたる優先製品作業計画は各々2015~2017年および2018~2020年を対象としたものですが、2021~2023年の計画は本年2~3月のドラフト版への意見募集を経て現在最終版がHP上に公表されています。7)


これらは以下の6製品カテゴリーを検討対象としています。このうち(1)~(4)は2018~2020年計画に引き続いて検討するもので、(5)および(6)は今計画で新たに指定したものです:


(1) 美容・パーソナルケア・衛生用品

(2) クリーニング用品

(3) 建設・改修で使用される建築資材

(4) 食品包装

(5) 子供用製品

(6) 自動車用タイヤ


なお優先製品作業計画の検討スケジュールと進捗状況はDTSCのHP上で公開されています。 これは進捗に従い順次更新されていきますが、2021年5月時点では同年4月21日に更新されたものがアップされており、2021年1月より2022年3月までの15カ月間のスケジュールが示されています。8)


おわりに

以上述べました様に、米国カリフォルニア州ではグリーンケミストリーの考えに基づくSCPプログラムにより安全な消費者用製品を目指した包括的な規制の取組みが進められています。


規制対象物質と製品の組合せである優先製品は今後共取組みの進行に従い拡大していくことが予想されます。 カリフォルニア州で事業活動を行う日本企業も自社製品が優先製品に指定されるのか、また指定された場合の対応について注意していく必要があります。


(福井 徹)


1)

https://uscode.house.gov/view.xhtml?req=granuleid%3AUSC-prelim-title42-chapter133&saved=%7CZ3JhbnVsZWlkOlVTQy1wcmVsaW0tdGl0bGU0Mi1zZWN0aW9uMTMxMDE%3D%7C%7C%7C0%7Cfalse%7Cprelim&edition=prelim


2)

https://leginfo.legislature.ca.gov/faces/codes_displayText.xhtml?lawCode=HSC&division=20.&title=&part=&chapter=6.5.&article=14


3)

https://govt.westlaw.com/calregs/Browse/Home/California/CaliforniaCodeofRegulations?guid=I6E0E45C032A411E186A4EF11E7983D17&originationContext=documenttoc&transitionType=Default&contextData=(sc.Default)


4)

https://govt.westlaw.com/calregs/Browse/Home/California/CaliforniaCodeofRegulations?guid=I8C15F39016D911E39FBEC451F3D23076&originationContext=documenttoc&transitionType=Default&contextData=(sc.Default)


5)

https://dtsc.ca.gov/scp/


6)

https://dtsc.ca.gov/scp/candidate-chemicals-list/


7)

https://dtsc.ca.gov/wp-content/uploads/sites/31/2021/04/Final-2021-2023-Priority-Product-Work-Plan.pdf


8)

https://app.smartsheet.com/b/publish?EQBCT=b0077359c2904d27b445d41949417a90

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