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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

改訂された中韓台の化学物質登録制度について

2021年07月02日更新

中国の修正「新規化学物質環境管理登録弁法(生態環境保部令第12号):2020年4月29日公布1)(以下、修正弁法)」が、2021年1月1日から施行されました。 これで中国、韓国、台湾の化学物質登録制度はそれぞれ改定され、出揃ったことになります。 少し遅れた感がありますが、このコラムでは、それぞれの登録制度の概要をまとめ、紹介したいと思います。


1)登録を定める法規制と対象物質について

中韓台の化学物質の登録制度では、新規化学物質については基本的には登録等の義務を課しています。 しかし、既存化学物質については規制の状況が少し異なっています。


中国では、「中国現有化学物質名録」に収載されていない物質を新規物質として、登録等が求められています。 「中国現有化学物質名録」に収載されている物質でも、有害性が高い物質や難分解性で生物蓄積性、そのために毒性のある物質等の高懸念物質については、登録で許可された用途以外に使用する場合は、新たな用途の登録をする必要があります。


2013年に「中国現有化学物質名録」が公表されましたが、これには、45,612物質が収載されていました。 その後、新規化学物質として登録されたものが、追加収載され2021年6月28日時点では、47,078物質が収載されています。追加収載された情報は、生態環境部のホームページで公開されています2)。


なお、修正弁法では登録から5年経過後に、収載候補の物質が公示され、その後に収載された物質が公告されます。 修正弁法以前に登録や生産等された物質で2021年1月1日時点において未収載の物質については、下記のように収載されます。


・旧弁法(環境部令第7号)で登録済みで、新規化学物質の製造または輸入活動が5年未満の場合、最初の製造または輸入活動の日から5年後に収載。

・旧弁法で登録済みで、2021年1月1日時点で新規化学物質の実際の製造または輸入の実績がない場合、修正弁法施行日(2021年1月1日)から5年後に収載。

・2013年10月15日施行の最初の弁法(環境保護総局令第17号)で登録されたものは、修正弁法施行後6か月以内に収載。

・2003年10月15日までに、生産、販売、処理、または輸入等の実績がある場合は、証拠書類を添えて、収載の申請をすることが出来る。審査の結果、要件を満たしている場合に収載。


韓国では、「化学物質の登録及び評価に関する法律(以下、K-REACH)」3)において、年間100kg以上の新規化学物質と年間1トン以上の既存化学化学物質と登録を定めています。既存化学物質については下記のように定義されています。

・1991年2月2日以前に、国内で商業用として流通された化学物質で、環境部長官が雇用労働部長官と協議し、告示した化学物質

・1991年2月2日以降、「有害化学物質管理法」により有害性審査を受けた化学物質として環境部長官が告示した化学物質


既存化学物質は、国立環境科学院の化学物質総合検索システム4)から、検索することができます。

なお、韓国では産業安全保健法5)でも新規化学物質の登録義務を課していますが、K-REACHで登録しますと、同法の登録をしたとみなされる規定になっています。

また、K-REACHで登録された新規化学物質は既存化学物質とはなりません。ただし、新規化学物質が有害性であると判断されますと、その情報は公開されます。化学物質総合検索システムのリストに収載されます。そのため、化学物質総合検索システムで検索できたからと言って、既存化学物質でないことがありますので、注意が必要です。


台湾では、毒物及び懸念化学物質管理法6)で、韓国のK―REACHと同じく、新規化学物質と既存化学物質の登録を規定しています。


台湾の既有化学物質インベントリー(Taiwan Existing Chemical Substance Inventory、TCSI)に収載されていない物質は新規化学物質です。TCSIは、労働部職業安全衛生署の化学物質登記管理(CSN)のページ7)に公開されています。 CAS番号かシリアル番号、化学名、英語名/中国語名を入力することで収載の有無が確認できます。シリアル番号で収載されている物質や物質名を秘密にして収載されている場合は、当事者以外は収載の有無を確認が難しい状況です。 標準登録された物質および少量登録された低懸念ポリマーは5年後にTCSIに収載されます。 また、毒性化学物質として公告された物質もTCSIに収載されることになっています。なお、「職業安全衛生法」8)においても、新規化学物質の届出等が求められていますが、毒物及び懸念化学物質管理法に定められた登録に一本化されています(韓国の場合と同じです)。


2)登録の種類(類型)

一般に、化学物質の登録では、年間量が増えるに従い、要求される情報が多くなります。

韓国、台湾の既存化学物質については、年間1トン以上で登録が義務化されていますが、要求される情報は、新規化学物質で求められている情報と同じです。 今回のコラムでは、登録で提出しなければならない情報の詳細については割愛させていただき、新規化学物質の登録の種類(類型)についてだけ説明します。


中国では、今回の修正弁法例では、下記のように登録の3種類(類型)に修正されています。

なお、このコラムでは、中国の条文の「登记」などの用語を「登録」等の用語に訳しています(カッコ内に原語を記載しました)。


・標準登録(原文;常规登记)

・簡易登録(原文;简易登记)

・届出(原文;备案)

 

改正前(旧弁法)では年間1トン以上が標準登録とされていましたが、改正後の弁法では年間量10トン以上に引き上げています。 事業者にとっては負担が軽くなったことになります。 また、提出しなければならない情報が標準登録より少ない簡易登録では、旧弁法では100㎏以上1トン未満でしたが、現行の改正弁法では1トン以上10トン未満になっています。 届出だけで製造・輸入ができる年間量は、旧弁法では100㎏未満でしたが、現行弁法では1トン未満と大幅に引き上げられています。

 

韓国の2020年1月1日から施行された改訂K-REACHでは、年間100㎏以上の新規化学物質について、登録が必要です。 年間100㎏未満の物質については、申告が必要です。この申告は、中国の1トン未満の届出に対応するといえます。


なお、韓国では、既存化学物質についての年間1トン以上について登録の規定があります。 改定前のK-REACHでは510物質が指定されていましたが、改定後は、それ以外の既存化学物質についても登録が必要となりました。 登録期限は、年間量と有害性から規定されていますが、事前申告をすれば登録期限までは製造・輸入がすることが出来ることになっています。 EU REACHにありました予備登録制度と同じと言えます。

 

台湾の新規化学物質の基本的な登録の種類(類型)は、年間量により下記の3種類に分けられています。


・標準登録:年間1トン以上

・簡易登録:年間100㎏以上1トン未満

・少量登録:年間100㎏未満


前記の中国の場合と似ていますが、必要な情報が少し異なります。

また、物質の有害性、ポリマー、用途等により、このトン数範囲が異なることに注意が必要と思います。

例えば、下記のような規定になっています。


・CMR物質は1トン未満でも標準登録が必要。

・科学研究用途については、1トン未満は登録不要、1トン以上10トン未満は簡易登録、10トン以上は標準登録

・中間体、ポリマーについては、1トン未満は少量登録、1トン以上10トン未満は簡易登録、10トン以上は標準登録

・低懸念ポリマーについては、登録前に事前確認を得ることで、1トン未満は登録不要、1トン以上は少量登録

等と規定されていて、少し複雑です。


既存化学物質については、100㎏以上の場合まず第1段階登録が必要です。 さらに、指定されている106物質については、第2段階の登録を、年間量等で定めらえている期限までに標準登録をするすることが求められています。


3)登録ができる者

登録はそれぞれの国の国内製造者・輸入者に義務がありますが、中国と韓国では、国外からの輸出者または製造者が国内の代理人を選任して、登録することが認められています。

他方、台湾については、このような代理人制度はなく、台湾の輸入者しか登録は認められていません。しかし、輸出者等の企業秘密を保護するために、台湾の輸入者が選任した「第三者の代理人(原語では「进口商委任台湾地区的代理人」ですが、このように訳します)」を通して、登録する制度を設けています。 この場合、企業秘密に関する情報は、輸出者等から直接第三者の代理人に提供します。これらの情報は、輸入者には開示されません。


以上、中韓台の化学物質の登録制度を比較しながら概要を、整理しました。

今回で揃った制度では、新規化学物質の登録においては、最初に指摘しておきたいことは、これまでよりも、登録物質の特定のための情報が詳細に求められています。


近年は、機能性の高い新規化学物質の開発を進められることから、「開発した新規化学物質」がより複雑となっているようです。 製造者の方には、特性(有害性等も含めて)の分析試験や解析に時間と費用が掛かるようです。 他方、規制当局では、将来の化学物質規制するために必要な化学物質の情報の提出を登録者に求めながらも、事業者の登録・報告等の手続き負担を軽減する改正も配慮しているように感じます。

 

参考資料



(林  譲)


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