2021年12月17日更新
前回のコラムで、EU グリーンディールのアクションプログラムの一環としての廃棄物管理の動向を解説しました。 今回は、近年増加しているプラスチック廃棄物のリサイクル規制について解説します。
1.使い捨てプラスチック(single-use plastic)指令
「プラスチック戦略」により、SUP(Single-Use Plastic)指令と言われる「特定のプラスチック製品の環境への影響の低減指令((EU) 2019/904)」(*1)が2019年6月12日の官報で告示され、20日後の2019年7月2日に施行されました。
主要な内容は以下です。
前文第2文節:この指令は、廃棄物発生量の削減を第一にして、使い捨て製品(SUP)よりも持続可能で毒性のない再使用可能な製品および再使用システムを優先する循環アプローチを促進する。
前文第21文節:適切でより持続可能な代替物が容易に入手できない使い捨てプラスチック製品に関して、加盟国は、汚染者負担原則に従い、廃棄物管理および落葉落枝の浄化の必要なコスト、ならびに落葉落枝を予防および低減するための認識向上措置のコストをカバーするために、拡張された生産者責任スキームを導入すべきである。必要なコストを超えないように効率の良い方法でこれらのサービスを提供し、関係者間の透明な方法で確立されるべきである。
前文第22文節:廃棄物枠組み指令(EC)2008/98(WFD)は、拡張された生産者責任スキームのための一般的な最小要件を規定する。これらの要件は、本指令によって確立された拡大生産者責任スキームに適用されるべきであり、その実施方法が立法行為によるものであるか、本指令に基づく協定によるものであるかを問わない。
前文第24文節:プラスチックを含む漁具に対する拡大生産者責任の枠組みにおいて、加盟国は、本指令に定める報告義務に従って、プラスチックを含む漁具を監視し、評価すべきである。
前文第25文節:プラスチックを含むすべての海洋ごみは環境と人間の健康にリスクをもたらすので取り組む必要があるが、釣りあいも考慮する必要がある。したがって、漁師自身とプラスチック漁具の職人は、生産者とみなされるべきではなく、拡大生産者責任に関連する生産者の義務を果たす責任を負うべきではない。
前文第26文節:持続可能な消費者選択を支援し、責任ある消費者行動を促進する経済的および他のインセンティブは、本指令の目的を達成するための有効なツールであり得る。
前文第27文節:使い捨てプラスチック製品である飲料ボトルは、連合の海岸で最も多く見られる海洋ごみアイテムの1つである。これは、効果的な分離収集システムがなく、消費者によるそれらのシステムへの参加が少ないためである。より効果的な分別収集システムを推進する必要がある。したがって、使い捨てプラスチック製品である飲料ボトルについては、最低限の分別収集目標を設定すべきである。
廃棄物を分別収集する義務は、廃棄物を種類及び性質により分離して保管することを要求しているが、これが指令2008/98/EC第10条(2)及び第10条(3)のポイント(a)に従って廃棄物階層に沿った高品質のリサイクルを妨げないことを条件として、特定の種類の廃棄物を一緒に収集することが可能であるべきである。
第1条(目的)
本指令の目的は、特定のプラスチック製品が環境、特に水生環境、およびヒトの健康に及ぼす影響を防止および低減すること、ならびに革新的で持続可能な事業モデル、製品および材料を伴う循環型経済への移行を促進することであり、したがって内部市場の効率的な機能にも寄与する。
第2条 (範囲)
1. 本指令は、附属書に掲載されている使い捨てプラスチック製品、オキソ分解性プラスチックから製造された製品、およびプラスチックを含む漁具に適用される。
第4条 (消費量の削減)
1. 加盟国は、ユニオンの廃棄物政策、特に廃棄物防止の全体的な目的に沿って、附属書のパートAに列挙される使い捨てプラスチック製品の消費の野心的で持続的な削減を達成するために必要な措置をとらなければならず、増加する消費動向の実質的な反転をもたらす。これらの措置は、2022年と比較して、2026年までに、加盟国の領域における附属書のパートAに列挙されている使い捨てプラスチック製品の消費を測定可能な量的削減を達成しなければならない。
第5条 (上市の制限)
加盟国は、附属書のパートBに列挙されている使い捨てプラスチック製品及びオキソ分解性プラスチックから作られた製品の上市を禁止する。
第6条(製品要求事項)
1. 加盟国は、プラスチック製のキャップ及び蓋を有する附属書のパートCに列挙される単回使用プラスチック製品が、製品の意図された使用段階の間、キャップ及び蓋が容器に付着したままである場合にのみ、市場に投入され得ることを保証しなければならない。
第7条(表示の要件)
1. 加盟国は、市場に出された附属書のパートDに列挙されている各使い捨てプラスチック製品が、その包装又は製品自体に、消費者に目立ち、明瞭に判読可能で消えない表示を付すことを確保する。
マーキングについての詳細規定が、2020年12月18日に「使い捨てプラスチック(Single-Use Plastic)製品の調和マーキング仕様に関する規則((EU)2020/2151)(*2)で、女性生理用品のマーキング要件が規定されました。
ここまで規制するのかと思える事例です。
第8条(拡大生産者責任)
1. 加盟国は、指令2008/98/EC(WFD)の第8条及び第8a条に従って、加盟国の市場に出される附属書の第E部に列挙されている全ての使い捨てプラスチック製品について、拡張生産者責任スキームが確立されることを確実にしなければならない。
SUP指令が求めるWFD 第8条(拡大生産者責)は以下の要求をしています。
1. 再使用及び廃棄物の防止、リサイクル及びその他の回収を強化するために、加盟国は、製品を専門的に開発、製造、加工、処理、販売又は輸入する自然人又は法人(製品の生産者)が生産者責任を拡大することを確保するための立法措置又は非立法措置をとることができる。
WFD 第8条a(拡大生産者責任スキームの一般的な最低要件)
1. 拡大生産者責任制度が第8条(1)に従って確立される場合には、加盟国は、同盟国の他の立法上の法律に従って確立するものとする:
(a) 加盟国の市場に製品を投入する製品の生産者、加盟国に代わって拡大生産者責任義務を履行する組織、民間又は公的廃棄物処理業者、地方当局、並びに適当な場合には再利用及び再利用事業者及び社会経済企業のための準備を含む、関係するすべての関係者の役割及び責任を明確に定義する;
(b)廃棄物階層に沿って、廃棄物管理目標を設定し、本指令、指令94/62/EC、指令2000/53/EC、指令2006/66/ECおよび欧州議会および理事会の指令2012/19/EU(5)に規定される拡張生産者責任スキームに関連する少なくとも定量的目標を達成することを目的とし、拡張生産者責任スキームに関連すると考えられる他の定量的目標および/または定性的目標を設定する;
3. 加盟国は、生産物の生産者又は生産物の生産者に代わって拡大生産者責任義務を履行する組織が、当該生産物の生産者に代わり、当該生産物の生産者責任義務を履行することを確保するために必要な措置を講じなければならない。
4. 加盟国は、拡大生産者責任義務を遵守するために製品の生産者により支払われる財政的貢献を確保するために必要な措置をとる。
(a) 生産者が関係加盟国で上市する製品の以下のコストをカバーする。
— 廃棄物の分別収集及びその後の輸送及び処理の費用(ユニオンの廃棄物管理目標を達成するために必要な処理を含む。)並びに第1項(b)にいう他の目標及び目的を達成するために必要な費用であって、再使用、その製品からの二次原料の販売及び請求されない寄託料からの収入を考慮したもの。
(c) 費用効率のよい方法で廃棄物管理サービスを提供するために必要なコストを超えないこと。かかる費用は、関係する関係者間の透明な方法で設定されるものとする。
適切な廃棄物管理および拡張された生産者責任スキームの経済的実行可能性を保証する必要性によって正当化される場合、加盟国は、以下の点(a)に規定されるように、経済的責任の区分から逸脱することができる:
(i)連合の立法行為の下で確立された廃棄物管理の目標及び目的を達成するために設定された拡大生産者責任スキームの場合、製品の生産者は、必要な費用の少なくとも80%を負担する。
WFD第9条(廃棄物の防止)
1. 加盟国は、廃棄物の発生を防止するための措置を講じなければならない。これらの措置は、少なくとも次のことを行わなければならない:
(a) 持続可能な生産・消費モデルの推進・支援;
(i) 材料及び製品中の有害物質の含有量の削減を、連合レベルで定められたこれらの材料及び製品に関する調和された法的要件を損なうことなく促進し、また、欧州議会及び理事会規則(EC) No 1907/2006第3条第33項に定義される成形品の供給者が、2021年1月5日から欧州化学物質庁に対し、同規則第33条(1)に基づく情報を提供することを確保する。
この規定が2021年1月5日から義務化されたSCIP登録で、適切なリサイクルを行うために有害物質含有情報を利用できるようにするための規定です。
2.ブルーエコノミー戦略
パンデミックはEUにも大きな影響を与えています。経済復興、加盟国間の格差対応など、予算配分に苦慮しています。
2020年5月27日の「委員会からの連絡 欧州の復興計画を推進するEU予算」(*3)では、このような状況であっても長期的な取り組みは継続することを表明しています。
・グリーン・ヨーロッパとデジタル・ヨーロッパへの双子移行は、この世代の明確な課題であり続けている。
・これは、委員会の予算提案全体に反映されている。
・大規模なリノベーションの波への投資、 再生可能エネルギーとクリーンな水素、クリーンな輸送、持続可能な食品やスマートな循環経済は、ヨーロッパの経済を成長させる大きな可能性を秘めている。
・支援は、連合の気候と環境目標と一致しなければならない。
この方針から海洋経済の長期的政策である“EU's Blue Economy”(*4)が打ち出されていまう。正式は「持続可能な未来のためのEUのブルーエコノミーを変革するEUにおける持続可能なブルーエコノミーのための新たなアプローチ」で、EU委員会から議会、理事会、経済社会委員会および地域委員会にあてた政策説明です。
“Blue Economy”は青い海をイメージした「海洋経済」の意味で、EU経済の復興とグリーディールの変革の両立を目指した新たなアプローチです。
グリーンディール担当のティメルマンス副委員長は、次のように述べています。
「健全な海は、繁栄する青い経済の前提条件です。 汚染、乱獲、生息地の破壊は、気候危機の影響と相まって、青い経済が依存している豊かな海洋生物多様性を脅かしています。私たちは、環境保護と経済活動が密接に関連している持続可能なブルーエコノミーを発展させなければなりません。」
EUは海洋経済と環境規制を両立させた取り組みを強化することを宣言しています。
海洋製品に関する“EU's Blue Economy”に関連しない企業は、環境配慮製品の規制モデルが電池規則(案)(*5)です。
電池規則はアクションプランの「持続可能なスマートモビリティへの転換の加速化」によります。
電池規則では、有害物質規制だけでなく、以下の従来規制法と異なる要求が示されています。
(i)環境フットプリントの開示の先駆けとしての「カーボンフットプリント」の要求をする。
(ii) ライフサイクル全体がカーボンフットプリントを抑える。
(iii)カーボンフットプリントの適合宣言は決定(EC)768/2008のモジュールA1(Internal production control plus supervised product testing 内部生産管理+監督下での製品試験)でのCEマーキングとする。
(iv)コバルト、鉛、リチウム、ニッケルなどを重要な原材料(critical raw materials)として使用要件を定める。
(v)拡大生産者責任の義務を定める。
電池規則は日本では基本法に相当し、個別義務は今後EU委員会委任法として告示されます。
今後は、EU委員会委任法の告示状況や環境フットプリントのサプライチェーン間の情報伝達方法が課題となります。
このように、“The Brussels Effect”で、EUの政策は日本企業にも大きな影響をあたると思われます。規制の本質を理解し、変化する規制への対応をすることが重要に思えます。
(松浦 徹也)
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