top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

EUヘルプデスク活動報告書(2023年)

2024年06月28日更新

欧州化学品庁(European Chemicals Agency:ECHA)は、2024年5月7日付で2023年ヘルプデスク活動報告書(2023 Report of National and ECHA Helpdesk Activities:報告書)1)を公表しました。


この報告書は、各国ヘルプデスク(National Helpdesk:NHD)とECHAヘルプデスク(ECHA)の2023年の活動を纏めたものであり、両者の協力体制であるヘルプネット(HelpNet)2)の活動の規模と範囲を示すものです。


HelpNetの目的は、各国ヘルプデスクとECHAヘルプデスクが定期的に情報交換や研修を行うことにより、殺生物性製品規則(Biocidal Products Regulation (EU) 528/2012:BPR)、CLP規則(CLP Regulation (EC) No 1272/2008:CLP)、及びREACH規則(REACH Regulation (EC) No 1907/2006:REACH)に関して法的要件の共通理解達成と利害関係者に対する一貫性のある調和の取れたアドバイスを提供することです。

具体的な成果物としては、この年次報告書の他に、よくある質問(Frequently Asked Questions:FAQ)及び関連する法規のハンドブック発行が挙げられます。


1.報告書の概要

1.1.質問数と内訳

NHDは、BPR、CLP、REACH及びその他のEU化学物質法に関する44,622件の問い合わせに回答しました。その内訳は、BPR 43%、REACH 22%、CLP 18%、その他の法規13%、分類不能4%でした。

ECHAは、4,215件の問い合わせを受け、その内訳はREACH 72%、BPR 15%、CLP 13%でした。


ECHAとNHDは、ヘルプデスクのサポートを分担することで合意しており、内容に応じて最初の問い合わせ先をどこにするかをホームページ(HP)3)で公開しています。REACHとCLPに関しては、最初の問い合わせ先はNHDとなっています。

NHD及びECHAに寄せられた質問数の年度推移を図1に示します。


BPRに関する質問数が両機関とも2020年をピークに減少しているのは、新型コロナウイルス(Covid-19)の消毒剤に関する緊急対応が収束してきたこと、国内の経過措置対応が収束してきたこと、及びガイダンスやHPの充実で企業等の認識が深まったことを要因に挙げています。


1.2.REACHに関する頻出の質問とトピックス

NHDとECHAは、2023年に頻出の質問とトピックスを各々挙げています。

頻出の質問は、

NHD:

1. 安全データシート(SDS)

2. 登録

3. 制限

4. REACHに関する一般的な質問

5. 成形品に含まれる物質

ECHA:

1. 登録

2. 制限

3. サプライチェーンの情報伝達

4. 評価

5. 認可

を挙げています。

前述のようにREACHの最初の問い合わせ先はNHDと決められていますので、ECHAは直接問合せのあった質問のうちEU内からの質問の15.3%、EU外の19%をNHDに差し戻しています。したがって、ECHAで回答している案件は、NHDでは回答できなかった質問が大多数と考えられます。


トピックスは、

NHD:

1. 新たに施行される規制(マイクロプラスチック、ジイソシアネート、湿地での銃弾に含まれる鉛、一般消費材に含まれるCMR物質、ホルムアルデヒド)

2. 登録義務(輸入、TARIC、関税コード、副産物、廃棄物、回収物質、唯一の代理人(OR)義務、物質の同一性問題)

3. 安全データシート(SDS)

4. 包括的PFAS規制案

5. 廃棄物・回収物質

ECHA:

1. 新たに施行される規制(マイクロプラスチック等)

2. 包括的PFAS規制案

3. 廃棄物から回収された物質の登録義務

4. 他の条項(附属書V、逆輸入物質等)からの登録免除の可能性

を挙げています。

NHDとECHAで内容はほとんど同じで、特にPFASに関する懸念の高まりが見て取れます。


1.3.BPRに関する頻出の質問とトピックス

NHDとECHAは、2023年に頻出の質問とトピックスを各々挙げています。

頻出の質問は、

NHD:

1. 移行期間を管理する国内手続き又は法律

2. 殺生物剤製品又はファミリーの国内認可

3. BPRに関する一般的な質問

4. 国内手数料

5. 適用範囲に関する質問

ECHA:

1. BPRに関する一般的な質問

2. 活性物質の承認に関する質問

3. 第95条(有効成分文書へのアクセスに関する経過措置)に関する質問

4. データの共有と照会に関する質問

5. EU一括認可に関する質問

を挙げています。

NHDには国内手続きに関する質問が多く、ECHAにはEU一括認可に関する質問が多いことは理解できます。特に、NHDで移行期間に関する質問が多いのは、国により経過措置(第89条)の進捗が異なることが背景にあると考えられます。ECHAでは、第95条に関する質問が多く、その場で生成する物質の前駆体の第95条義務やデータ保護期限に関する質問が多く見られたとのことです。


トピックスとしては、頻出の質問と同様に、NHDでは国内手続き、及び特定の活性物質(オゾン、活性塩素種、フリーラジカル)に関する質問などが挙げられ、ECHAでは第95条5項に関してデータ保護期限のみならず、その場で生成する物質の前駆体や更新データなどにも適用されるのかなど様々な質問が寄せられたとのことです。 


1.4.CLPに関する頻出の質問とトピックス

NHDとECHAは、2023年に頻出の質問とトピックスを各々挙げています。

頻出の質問は、

NHD:

1. 附属書VIII(緊急時の医療対応と予防措置に関する統一された情報)

2. 第45条(現行の制度)

3. 表示(言語要件を含む)

4. 混合物の分類及び表示

5. CLPに関する一般的な質問

ECHA:

1. 附属書VIII(緊急時の医療対応と予防措置に関する統一された情報)

2. 分類と表示

3. 安全データシート(SDS)

4. 附属書VI(調和された分類と表示)

5. 代替化学物質名

を挙げています。

NHD及びECHAに共通して多い質問は附属書VIIIに関するもので、特に毒物センターへの届出(Poison Center Notification:PCN)の適用範囲や届出者に関する質問が多いとのことです。これは附属書VIIIが2017年に新たに追加され、届出の経過措置が2024年12月31日であることが理由と考えられます。


トピックスとしては、NHD及びECHAともに毒物センターへの届出関係を挙げています。そのなかでも、NHDでは言語要件と国内届出料金、ECHAでは工業用途における限定的な提出の免除と、これまで報告されたことのないシナリオにおける自主的な提出の概念を組み合わせた質問、及びUFI(Unique Formula Identifier)の使用に関する質問(法文の解釈)が挙げられています。

NHDに寄せられた新たな質問としては、ニコチン入りパウチ、eリキッド、その他の非ニコチン製品に関するものや、キャンドル、ワックスメルト、リードディフューザー(アロマディフューザー)とその他の関連製品が挙げられました。これらの製品のラベリング、PCNを提出する義務の有無が定期的に質問されているようです。


1.5.その他の質問

NHDは原則としてBPR、CLP、REACHに関する質問に対応する機関ですが、その他のEU化学物質法の助言も提供しています。問い合わせの多い上位5つの法律は、POPs規則 (EU) 2019/1021、PIC規則 (EU) 649/2012、廃棄物枠組み指令 2008/98/EC及びREACH規則 第33条義務のSCIPデータベースへの拡張、RoHS指令2011/65/EU、及び電池指令 2006/66/ECでした。


ECHAでは、NHDでは対応ができないECHAのITツール(REACH-IT、R4BP、ECHA提出ポータル、IUCLID、Chesar)の技術サポート、及びECHAのHP情報に関するサポートを行っています。

その他に、POPsに関する問い合わせ27件、電池規則1件、飲料水指令8件など新規制に関する問い合わせに回答したと報告しています。


また、ECHAは、いくつかの分野で企業の義務遵守を支援するため、利用可能な支援資料の更新と新しいツールやガイドラインの開発に取り組みました。整備されたハンドブック、ガイドライン、及びQ&Aは、HelpNet 2) から参照することができます。


2.まとめ

今回は、普段あまり表に見えてこないEU各国とECHAのヘルプデスクの活動を纏めた活動報告書を紹介しました。

質問数の年次推移を見ると、新型コロナウイルスが世界に与えた影響の大きさを改めて痛感することができます。

また、頻出の質問やトピックスを見ることで、化学物質管理の世界で現在何がホットな話題になっているかが手に取るようにご理解いただけたのではないでしょうか。

読者の皆様の日頃抱えられている疑問と一致するものはございましたでしょうか。

NHD及びECHAに寄せられた頻出の質問に関しては、ECHAヘルプデスクのQ&Aに逐次掲載されていきますので、そちらも参考にされてください。


(杉浦 順)



参考文献:

1) 2023年ヘルプデスク活動報告書


2) ECHAヘルプネット


3) 規制サポートの分担

閲覧数:250回

最新記事

すべて表示

TSCA PFASの報告に関する新FAQについて

2024年07月19日更新 PFASに関する環境汚染に関する報道は多く、法規制も強化されています。最近は、リチウムイオン電池(*1)や液晶(*2)にPFASが使用されているなど用途に関する報道が多くなってきています。 PFASの全面禁止はできるか、エッセンシャルユースを認めるかなど用途に関連することに関心が集まってきています。 ことにアメリカのPFAS規制が厳しく思え、お問い合わせも増えています。

近年のミネソタ州法における含有物質規制の動向について

2024年07月05日更新 米国では、有害化学物質の規制に関してTSCAなど連邦法で規制されていることは多く知られていますが、各州法においてもさまざまな規制が行われています。今回のコラムでは、近年施行されたミネソタ州の含有物質規制法のうち、消費者製品中の鉛およびカドミウムの含有禁止法と意図的なPFAS含有製品の禁止法をご紹介します。 1.消費者製品中の鉛およびカドミウムの含有禁止法(§325E.3

米メイン州の製品中のPFAS類に対する規制

2024年06月28日更新 現在、EU REACH規則において、ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(Perfluoroalkyl and Polyfluoroalkyl Substances(PFAS類))の制限提案の検討1)が進められており、EU域内外から多くの意見が寄せられる等、世界的に関心の高いトピックスであると言えます。 また、米国においてもTSCAに基づくPFAS

Comments


bottom of page