2022年01月14日更新
2021年5月28日付の本コラムで「統合規制戦略年次報告書2021年版」*1(以下「報告書」)の内容をご紹介しました。
その中で、「グループ評価」の目的が2027年までにすべての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付けることをめざしていることをお伝えしました。
また、「グループ評価」により以前の個別評価アプローチと比較して2020年度に評価が完了した物質の数が約10倍に増加したこと、およびその評価結果が2021年末までに公表される予定であることをお話ししました。
今回それを受けてECHAは2021年12月7日にグループ評価結果に基づく規制ニーズ評価結果を初めて公表*2しましたのでご紹介します。
1.公表された規制ニーズ評価結果
最初の評価結果は19グループ454物質を対象としています。結果は公共活動調整ツール(Public Activities Coordination Tool:PACT)*3に公表されています。
19グループ中で18グループは「規制リスク管理措置を設定」または「さらなる追加情報が必要」と結論づけられました。以下のグループの内で⑫ジヒドロプリンジオン誘導体グループのみがグループに属するすべての物質で規制リスク管理を必要としないと結論づけられました。
今回公表のグループは以下です。
①芳香族エーテル類(aromatic ethers):22物質
②アルデヒドによる環状アセタール類(Cyclic acetals from aldehydes):13物質
③ピラゾール類(Pyrazoles):9物質
④ジベンゾイルペルオキシド誘導体(dibenzoyl peroxide derivatives):8物質
⑤4-TBP含有物質類(substances containing 4-TBP):26物質
⑥ジアゾアミノヒドロキシルナフタレンジスルホン酸染料(Diazo amino hydroxyl naphthalenedisulfonic acid dyes):19物質
⑦環状エーテル類(Cyclic ethers):35物質
⑧サリチル酸エステル類(Salicylate esters):27物質
⑨脂肪族第一級アミド類(Aliphatic primary amides):33物質
⑩サリチル酸とその塩及びアルキル化誘導体(Salicylic acid, its salts and alkylated derivatives):19物質
⑪イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸類(Isophthalates, Terephthalates and Trimellitates):19物質
⑫ジヒドロプリンジオン誘導体(Dihydropurinedione derivatives):15物質
⑬分岐/環状ジ脂肪族エーテル(アルファ、ベータ不飽和エーテルを除く)(Branched/cyclic dialiphatic ethers (excluding alpha,beta-unsaturated ethers)):24物質
⑭マンガン化合物(Simple manganese compounds):29物質
⑮バナジウム化合物(simple vanadium compounds):32物質
⑯硝酸アルキル類(Alkyl nitrates):5物質
⑰オルトフタル酸類(Ortho-phthalates):89物質
⑱1,2-エタンジオール及びその炭酸塩類(1,2-ethanediols and their carbonates):13物質
⑲直鎖脂肪族ケトン類(Linear aliphatic ketones):17物質
2.登録物質のグループ化方法
ECHAは登録物質のグループ化を次のステップで行っています。*4 *5
1)ITベースのアルゴリズムを用いて次の項目を検索して最初のグループを生成
・構造的類似性:物質の登録書類およびC&L通知の物質識別情報
・リードアクロス1)およびカテゴリーアプローチ2)で登録者が作成した関連付け情報
・外部リソースからのカテゴリー関連情報(OECDカテゴリー等)
2)1)のグループを専門家(科学者等)が検証。グループ内の物質の妥当性は評価の過程で再評価される。
3)グループ内の物質で、すでに危険性が特定されている、または潜在的な危険性がある物質を「シード」としてその周りで登録されている物質をグループ化する。「シード」としてはCLP規則附属書VI、Candidate List、またはCoRAP Listに掲載されている物質が候補となる。
その他の方法として、特定の用途・機能の類似性をもとにグループ化するものもあります。
なお、このグループ化の手続きはREACH規則附属書ⅩI Section 1.5のグループ化の方法とは異なるので注意が必要です。
1)リードアクロス:既知の毒性データから内挿して動物実験を行わずに毒性を推測する手法
2)カテゴリーアプローチ:構造的な類似性(カテゴリー)から類似物質の毒性データを活用して毒性試験を補完し動物実験を最小限とするアプローチ
2021年12月15日にECHAはこのグループ評価に関するQ&AページをREACH「規制ニーズ評価(Assessment of regulatory needs:ARN)」のQ&A*5として新たに公開したことを発表しています。*6 同じ発表の中で同年12月14日に行われたグループ評価の目的と効果、および結果の見方に関するウエビナー「Assessing groups of chemicals: what you need to know」の紹介があり、そのプレゼンテーション資料がダウンロードできるようになっています。*7
3.グループ評価結果の内容
グループ評価結果の内容は、PACTで検索することができます。 PACTのリストで「ARN」の欄の数字をクリックすることにより「Assessment of regulatory needs list (ARN)」を閲覧することができます。
このページで個別物質の評価結果を見ることができます。
項目としては、「評価状況(Status)」「今後の規制の必要性(Foreseen regulatory need)」「要約文書(Summery document)」「グループ名(Group name)」等が閲覧できます。このなかで「グループ名」が記されている物質がグループ評価を行った物質であり、その「要約文書」をクリックすることによりグループ全体の評価結果(ARN)を見ることができます。
ARNには、グループに属する物質リストと共に、
1.グループ全体の概要(Overview of the group)
2.EUレベルでの規制リスク管理措置の必要理由(Justification for the need for regulatory risk management action at EU level)
3.結論と今後のアクション(Conclusions and actions)
附属書Ⅰ:分類の概要(Overview of classification)
附属書Ⅱ:登録文書による用途の概要(Overview of uses based on information available in registration dossiers)
附属書Ⅲ:既存または進行中の規制リスク管理活動の概要(Overview of completed or ongoing regulatory risk management activities)
が納められています。
3は物質毎に表の形で結論と今後の規制レベルなどを確認できますので、自社で使用している物質の規制状況を確認できると共に、その物質が新たな規制対象となった場合の代替物質の状況を同時に確認できるという便利さがあります。
4.まとめ
ECHAは、2027年までにすべての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付ける手段として、REACH、CLPおよびその他の既存の情報を活用する「統合アプローチ」と類似の物質をグループ化して評価する「グループ評価」を導入しました。
今回そのグループ評価結果が初めて公表された意味は2027年完了に対するフィージビリティを示す意味で大きいと思います。
また、ECHAが当初より期待している規制物質の代替品候補を同時にカバーする評価方法であることの意味は非常に大きく、従来のようにある物質に規制を掛けても類似の代替品が使われてさらに代替品の規制をしなければならないといういわゆるイタチゴッコを防ぐことによりヒトや環境に対する負荷を迅速に未然に防ぐ手法として有効であると思います。
一つ残念な点は評価結果の公表まで、どのようなグループ分けをして評価が行なわれているかが未公開である点で、企業側としてはグループ分けの事前情報により事前に対策を行うことができないことがありますので、今後の何らかの対応が行われることを期待します。
(杉浦 順)
*1 統合規制戦略年次報告書2021年版
*2 ニュースリリース
*3 Public Activities Coordination Tool:PACT
*4 Working with Groups
*5 Q&A ARN
*6 ECHA Weekly
*7 Webinar:Assessing groups of chemicals: what you need to know
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