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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

ミネラルオイルフリーの印刷インク使用の要求の動向

2022年02月04日更新

1.環境に優しい印刷インク

SDGsの取り組みの一環で印刷に着目して、カタログ、社会活動報告書や社報などを環境に優しい紙の採用と環境に配慮した印刷インクを使用していることの表示をしている企業が多くあります。

2000年頃はsoy ink(大豆インク)マークが多用され、最近はVegetable Oil Ink(植物油)マークが印刷物にマーキングされています。

FSC(Forest Stewardship Council)(*1)ロゴマークも見る機会が増えてきています。

FSCロゴマークは、適切な森林管理がされていると認証された森林から収穫された木材およびFSCの規格で認められた原料を使用した木材製品や紙製品に表示されます。


なお、FSCロゴマークは、FSC規格(FSC-STD-40-004:最新版はV3-0)に従い、CoC 認証(Chain of Custody Certification)を受けた企業のみが表示できるものです。

大豆インクは、1970年代のオイルショックで、石油由来インク(Mineral Oil Ink)の代替インクとして登場しました。 大豆は食品であり、食品を原料とすることへの抵抗があり、現在は幅広く“Vegetable Oil Ink”になっています。


植物由来インクは、石油由来インクに比較して分解が早く、VOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の発生も少ないこともり、環境対応としてFSC認証の紙と組み合わせて使用することが増えてきています。


2.FCM(食品接触材料)のインク

印刷はカタログ、社会活動報告書や社報などだけでなく多様な使い方がされ、石油由来インクも幅広く利用されています。


原油を中心に生成されるミネラルオイル(鉱物油)は、異なる構造の数千の化学化合物を含み、石炭、天然ガスおよびバイオマスからも合成的に生産されます。 ほとんどのミネラルオイルの混合物の化学組成は不明であり、通常は生産単位(バッチ)ごとに異なります。

このミネラルオイルは、2010年頃から有害性を懸念する情報が表面化してきました。

EFSA(European Food Safety Authority EU食品安全機関)は、人の食品への汚染物質評価の一つとして鉱物油の調査研究を始めています。


2010年来の調査研究を受けて、規制の第一歩として、2017年1月17日に「食品および食品と接触することを目的とした材料および成形品中の鉱油炭化水素(Mineral Oil Hydrocarbons MOH)のモニタリングに関するEU委員会勧告(COMMISSION RECOMMENDATION (EU) 2017/84)(*2)が告示されました。


前文で規制すべき背景を説明しています。(部分記述)

・MOHは、主に原油に由来する化合物であるが、石炭、天然ガス、バイオマスからも合成的に生成される。MOHは、環境汚染、収穫および食品生産中に使用される機械用の潤滑剤、加工助剤、食品添加物、および食品と接触する材料(Food Contact Materials:FCM)を介して食品に存在する可能性がある。

食品グレードのMOH製品は、鉱油芳香族炭化水素(Mineral Oil Aromatic Hydrocarbons: MOAH)の含有量が最小限に抑えられるように処理されている。


・2012年、欧州食品安全機関(EFSA)の食物連鎖における汚染物質に関する科学パネル(CONTAM)は、MOH内の物質グループの潜在的な人の健康への影響は大きく異なると結論付けた。

MOAHは遺伝子毒性発がん物質として作用する可能性があるが、一部の鉱油飽和炭化水素(Mineral Oil Saturated Hydrocarbons: MOSH)は人体組織に蓄積し、肝臓に悪影響を与える可能性がある。

一部のMOAHは変異原性および発がん性があると考えられているため、食事へのばく露の主な原因である食品中のMOSHとMOAHの相対的な存在をよりよく理解するために、MOHのモニタリングを組織化することが重要である。


・FCMからの移動は、総ばく露量に大きく寄与すると疑われるので、モニタリングには、包装済み食品、包装材料、および機能バリアの存在、ならびに貯蔵および加工に使用される機器を含めるべきである。


この背景から、7項目の勧告をしました。(部分記述)

・食品中のMOHの存在を動物の脂肪、パン、精密パン器具、朝食用穀物、菓子類(チョコレートを含む。)及びカカオ、魚肉、魚製品(缶詰魚)、食用穀物、氷及びデザート、油脂、種子、パスタ、穀類、ソーセージ、木の実、植物油、並びにこれらの製品に使用される食品接触材料を対象として監視すべきである。


・貯蔵中や加工中など、サプライチェーンにおける他の食品接触物質の使用に関連するMOHのさらなる可能性のある発生源は、これらがMOHの存在に寄与していることが明確に示されている場合には、調査されるべきである。


・あらかじめ包装された食品については、検出されたMOHの原因が疑われる場合、鉱油炭化水素のレベルは食品中および食品接触材料中の両方で測定されるべきである。

MOSHとMOAHの違い、及び、生成されたデータが信頼性及び比較可能であることを保証するための分析結果の解釈に特に注意を払うべきである。


・ 食品中にMOHが検出された場合、可能な限り、汚染に影響を及ぼし、又は汚染を管理する可能性のある食品事業者によって運営されるHACCPなどを対象とすべきである。


この勧告を受けて、2019年11月にEFSAは「鉱油の芳香族炭化水素(MOAH)による乳児用調製粉乳およびフォローオン調製粉乳の汚染による公衆衛生のリスクの可能性に関する迅速なリスクアセスメント」の調査報告を行いました。

フランス、ドイツ、およびオランダで乳児用および後続調製乳のバッチからミネラルオイル芳香族炭化水素(MOAH)が検出されたこと都を「フードウォッチ」が報告した。

EU委員会は、加盟国に対し、当該バッチの分析および汚染源の調査を依頼し、EFSAに対し、乳児および後続調製乳におけるMOAHの存在に関連する健康リスクについて迅速な評価を実施するよう義務付けました。

MOAHには、生殖毒性および発がん性の3-7環多環芳香族化合物(3-7 ring Polycyclic Aromatic Compounds :3-7 PAC)の存在が含まれていました。

MOHに関する2012年6月のEFSAの意見は、MOAH中のこれらの化合物の存在に関連する潜在的な健康上の懸念を特定しました。

今回の評価では、EFSAは2つの加盟国 (オーストリアとドイツ)からのデータのほかに「フードウォッチ」が発表したデータとスペシャライズド・ニュートリション・ヨーロッパからのデータを受け取っています。


報告のポイントは次です。

・MOAHの定量値は0.2~3mg/kgであった。

・複雑な分析方法のため、報告されたレベルは、乳児および幼児のMOAHばく露量を推定するために用いられたが、不確実性がある。

・乳児の平均ばく露量は0.8~44.6μg/kg体重/日、信頼区間95パーセントでのばく露量は1.7~78.8μg/kg体重/日と推定された。

 

この調査報告などから食品中のMOH、MOAHなどが喫緊の課題として浮上してきました。


3.フランスのMineral Oil Ink規制

フランスの環境に関する法令は、環境CODE(*3)で取りまとめられています。

環境CODE第L541-10-1条は「廃棄物と循環経済との闘いに関する法律(2020年2月10日の第2020-105)」の第 112条(*4)で以下が追加されました。

I. 2022年1月1日から、包装に鉱物油を使用することは禁じる。

II. 2025年1月1日から、一般に印刷する際に鉱物油を使用することは禁じる。

商業的宣伝のためにダイレクト広告チラシやカタログの印刷文字への使用は2023年1月1日から禁止する。

III. この条項の適用条件は、法令によって定義する。


環境CODE第D.543-45-1では、以下を規定しています。

(a)第112条に規定されている、包装への鉱物油の使用の禁止は、リサイクルを妨げる物質を含む鉱物油に適用する。

(b)これらの物質が人間の健康に与えるリスクのために、包装廃棄物の使用またはリサイクル材料の使用を制限する。

(c)環境大臣命令で関係物質を明記する。


第112条は、拡大製生産者責任(第L541-10)を背景としており、広告チラシやカタログの印刷会社も義務の対象となります。

法による拡大生産者責任の原則が適用されるのは、廃棄物又はその製造に使用される要素及び材料を発生する製品を開発し、製造し、取り扱い、加工し、販売し、販売し、又は輸入する自然人又は法人です。

第D543-212-2条(*5)に印刷出版物に関する要件があります。

・印刷出版物は、ミネラルオイルインクを無添加または低含有のインク以外で印刷してはならない。

・この基準は、ミネラルオイルインクの添加したインクに代替インクがない、または使用される印刷技術がそのようなインクの使用を必要としない出版物には適用しない。


フランスでは、ミネラルオイルインクによる印刷が2022年1月1日から制限か始まりましたが、適用条件を定めた法令が公布されていません。


法令案(包装および一般向けの印刷での使用が禁止されている鉱油に含まれる物質の指定)(*6)がようやく2022年1月3日に告示され、インターネットコンサルテーションが1月25日まで実施されました。

 

(1)法令案第2条

・対象物質

(1)1〜7個の芳香環を含む芳香族炭化水素鉱油(MOAH)

(2)16〜35個の炭素原子を含む飽和した炭化水素鉱油(MOSH)で

・濃度制限

(a)MOAH

2023年1月1日:インクの質量濃度が0.1%未満

2025年1月1日:3〜7個の芳香環を持つ化合物の場合は1ppb未満

(b)MOSH

2023年1月1日:インクの質量濃度が1%未満

2025年1月1日:インクの質量濃度が0.1%未満


(2)法令案第4条適用外

第2条の規定は、以下には適用しない。

包装、公衆のための印刷、広告チラシや商業的販売促進を目的とするDM(Direct Mail)のような未承諾(一方的に送付される)カタログ

但し、EU規定が、当該規定により定められた使用の制限および条件を遵守することを条件として、MOAH、MOSHを含有するインクの使用を明示的に許可している場合に限る。


4.適用の広がり

このフランス法令はフランス国内法であり、適用はフランスに限定されます。MOHの規制は、EUが規制の口火を切ったものですので、EU全体への広がりが想定されます。


ドイツでは、新聞印刷での影響を調査し結果を公表しています。

食品中の鉱油成分の存在がますます議論されていることから、健康上のリスクを伴う鉱油成分を含むグラフィック古紙の食品接触材料としての使用は厳しく制限していまさす。スクのため、特にこのプロジェクトの一環として、ミネラルオイルを含まない新しいコールドセットインク(新聞印刷インク)を開発した結果が報告(*7)されています。


環境に優しい印刷インクの普及という面と有害物質からのばく露リスクの低減の両面から対応強化の要求が強まると思えます。


MOH:ミネラルオイル炭化水素類(mineral oil hydrocarbons)

炭素原子と水素原子だけでできた化合物の総称で、分子構造により鎖式炭化水素と環式炭化水素に大別され、飽和炭化水素、多重結合を含む場合の不飽和炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素などと細分化される。


MOAH:ミネラルオイル芳香族炭化水素類(mineral oil aromatic hydrocarbons)

分子中にベンゼン環(芳香環)をもつ物質で、法令案では1〜7個の芳香環物質が対象である。


MOSH:ミネラルオイル飽和炭化水素類(mineral oil saturated hydrocarbons)

炭素-炭素結合がすべて単結合である炭化水素で一般式はCnH2n+2で表される。

法令案では、nが16〜35が対象である。


MOAHやMOSHの測定方法などの解説(*8)(*9)も増えてきています。


(松浦 徹也)


引用








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