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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

REACH規則 附属書XIVに5つの物質が追加されました

2022年07月12日更新

REACH規則 附属書XIVに5つの物質が追加され、2022年4月11日にEUの官報で発表されました1)2)。官報に掲載された日の翌日から20日目(5月1日)に発効されています。 今回の追加で附属書XIVに収載されている認可対象物質は合計59物質となりました。


1. 四エチル鉛、(Tetraethyl lead)(EC 201-075-4, CAS(R) 78-00-2)

この物質は、かつてはガソリンエンジンのノッキング防止として、ガソリンのオクタン価を上げるために添加していた工業用化学物質ですが、現在はその用途では使用されていません。 またエポキシ樹脂硬化剤として使用されています。規則(EC) No 1272/2008(以下:CLP規則)の生殖毒性(カテゴリー1A)の分類基準を満たすことで、附属書XIVに収載されました。日没日は2025年5月1日とされました。 Chemsec(国際化学物質事務局:The International Chemical Secretariat)が公開しているSIN(Substitute It Now) List(以降:SINリスト)3)(世界中の様々な物品、製品、製造工程で使用されている有害化学物質のリスト)によると、この物質は鉛化合物に分類され、鉛公害の98%の発生源となるものです。 非常に毒性が強く、無機鉛に分解され、生物蓄積性があり、本質的に非常に難分解性という特徴があります。 また、バイオモニタリング調査でも堆積物、貝、魚などから検出されており、早期に使用を停止すべきとされていました。


2. 4-メチルアミノ-4’,4’’-ビス(ジメチルアミノ)トリフェニルメタノール(4,4'-bis(dimethylamino)-4''-(methylamino)trityl alcohol) (EC 209-218-2, CAS(R)561-41-1)

この物質は、主にインクの調合に使用されています。CLP規則の発がん性(カテゴリー1B)の分類基準を満たすことで、附属書XIVに収載されました。日没日は2025年5月1日とされました。 SINリストによると、この物質は芳香族アミンに分類され、CLP規則附属書VIでCMR(発ガン性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)分類とされていました。 この物質の類似物質として、SINリストに102物質がリストアップされており、代替品の検討にはそれらの物質は避けるように注意が必要です。


3.1,3,4-チアジアゾリジン-2,5-ジチオン、ホルムアルデヒドおよび、4-ヘプチルフェノール, 分岐および直鎖、の反応生成物 (RP-HP) [4-ヘプチルフェノール, 分岐および直鎖を 0.1%以上含有](CAS(R)記載なし)

この物質は、主にポリマーの製造における安定剤として使用されています。 環境に対して深刻な影響を与える可能性があるという科学的証拠がある環境ホルモン特性を有する物質です。 CLP規則の内分泌かく乱作用(第57条f項)に該当する物質として、附属書XIVに収載されました。 日没日は2025年5月1日とされました。 この物質はEC 300-298-5, CAS(R)93925-00-9としてSINリストに登録されており、内分泌かく乱物質(SVHC)に分類されています。今回は0.1%w/w以上を含むものが対象になりましたが、将来的には濃度に関係なくこの物質が使用停止となることが考えられます。


4. 2-エチルヘキシル,10-エチル-4,4-ジオクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタンナテトラデカノネート【DOTE】 (2-ethylhexyl 10-ethyl-4,4-dioctyl-7-oxo-8-oxa-3,5-dithia-4-stannatetradecanoate (DOTE))(EC 239-622-4, CAS(R) 15571-58-1)

この物質は、主にプラスチック製品の製造や、グリース、潤滑油に使用されています。 CLP規則の生殖毒性(カテゴリー1B)の分類基準を満たすことで、附属書XIVに収載されました。 日没日は2025年5月1日とされました。 SINリストによると、この物質はスズ化合物に分類され、CLP規則附属書VIでCMR(発ガン性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)分類とされていました。 この物質の類似物質として、SINリストに2物質がリストアップされており、代替品の検討にはそれらの物質は避けるように注意が必要です。


5. 2-エチルヘキシル10-エチル-4,4-ジオクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタンナテトラデカノネート【DOTE】と2-エチルヘキシル10-エチル-4-[[2-[(2-エチルヘキシル)オキシ]-2-オキソエチル]チオ]-4-オクチル-7-オキソ-8-オキサ-3,5-ジチア-4-スタンナテトラデカノエート【MOTE】の反応生成物 (Reaction mass of 2-ethylhexyl 10-ethyl-4,4-dioctyl-7-oxo-8-oxa-3,5-dithia-4-stannatetradecanoate and 2-ethylhexyl 10-ethyl-4-[[2-[(2-ethylhexyl)oxy]-2-oxoethyl]thio]-4-octyl-7-oxo-8-oxa-3,5-dithia-4-stannatetradecanoate (reaction mass of DOTE and MOTE)) (CAS(R)記載なし)

この物質は、主にポリマーの製造における安定剤として使用されています。 CLP規則の生殖毒性(カテゴリー1B)の分類基準を満たすことで、附属書XIVに収載されました。 日没日は2025年5月1日とされました。 SINリストによると、この物質はスズ化合物に分類されています。 EC 239-622-4とEC 248-227-4(CAS(R) 15571-58-1とCAS(R) 27107-89-7)の混合物です。 なお、EC 239-622-4は前項No.4の物質であり、EC 248-227-4はSINリストには掲載されていません。


上記の5物質は、CLP規則の第57条の基準を満たすと判断され、認可対象候補物質(CLS)に含まれています。 また、欧州化学品庁(以下:ECHA)が欧州委員会に対し、2019年10月1日の勧告4)において、生殖毒性、発がん性、内分泌かく乱性のために非常に懸念の高い物質として特定して、REACH規則附属書XIV(認可対象物質)に追加するよう勧告していましたが、上記の内容で追加されたものです。 この勧告案について、ECHAが実施した公開協議では、具体的なコメントは提出されなかったとされています。

これらの物質を日没日以降に使用を継続する企業は、認可を申請する必要があります。



(中山 政明)


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