2022年08月01日更新
制限提案に関する一式文書(REACH規則 附属書XV)に関して、以下の2種類の物質の協議の進行が公開されました1)。 コンサルテーションは6月20日から始まっており、7月20日に終了します。 更に協議終了は12月20日です。
1. N,N-ジメチルアセトアミド(N,N-dimethylacetamide (以下:DMAC) (EC 204-826-4, CAS(R)127-19-5);1-エチルピロリジン-2-オン(1-ethylpyrrolidin-2-one (以下:NEP))(EC 220-250-6, CAS(R)2687-91-4)2)
本制限提案はオランダから提出されました。本制限提案では、吸入および経皮経路に対する拘束力のある推定無影響レベル(以下:DNEL)を用いた制限でリスク管理することを目的としています。
今回、提案された制限事項は以下のようです。
(1)DMAC
a)0.3%以上の濃度で、物質単体、他の物質の構成成分として、または混合物として上市してはならない。
ただし、製造業者、輸入業者および川下ユーザーが、化学物質安全性報告書および安全性データシートに、労働者のばく露に関して以下のDNELを記載している場合はこの限りではない。
「吸入による長期ばく露では13mg/m^3、経皮による長期ばく露では0.53mg/kg/day」
b)上記a)項の日付以降、0.3%以上の濃度で物質単体、他の物質の構成要素、または混合物として製造、または使用してはならない。
ただし、製造者及び川下使用者が、適切なリスク管理策を講じ、適切な運用条件を設定する場合を除く。これは、製造者及び川下使用者において、作業者のばく露量が1)項で規定されたDNELを下回ることを保証するための条件である。
(2)NEP
a)0.3%以上の濃度で、物質単体、他の物質の構成成分として、または混合物として上市してはならない。
ただし、製造業者、輸入業者および川下ユーザーが、化学物質安全性報告書および安全性データシートに、労働者のばく露に関して以下のDNELを記載している場合はこの限りではない。
「長期ばく露では4.0mg/m^3、吸入による急性ばく露では4.6mg/m^3、経皮による長期ばく露では2.4mg/kg/day」
b)上記a)項の日付以降、0.3%以上の濃度で物質単体、他の物質の構成要素、または混合物として製造、または使用してはならない。
ただし、製造者及び川下使用者が、適切なリスク管理策を講じ、適切な運用条件を設定する場合を除く。これは、製造者及び川下使用者において、作業者のばく露量がa)項で規定されたDNELを下回ることを保証するための条件である。
DMACとNEPは、いわゆる双極性非浸透性溶媒であり、REACH規則の下で大量に登録されています。 この物質は、CLP 規則の付属書 VI で、発達毒性に基づく生殖毒性カテゴリー1Bとして分類されています。 また、REACH 附属書XVII(認可対象物質リスト)の項目30の付録6に記載されており 0.3% までの消費財への使用が禁止されています。
DMACの年間総消費量は11,000〜19,000トン、EUでの製造量は15,000〜20,000トンと推定されています。NEPの製造と輸入は、年間100〜1,000トンとされています。
DMACとNEPは、農薬、医薬品、ファインケミカルなど様々な製剤の製造において溶剤として使用されています。 DMACはコーティングの溶剤として使われ、人工繊維やフィルムの製造、電線絶縁に使われるポリアミドイミドエナメルの製造に広く使用されています。NEPは、洗浄剤、バインダー、剥離剤としても使用されています。 NEPはさらに油田掘削や生産工程、機能性流体、ポリマー加工、水処理、農薬の賦形剤、道路や建設用途にも使用されています。 両物質の製造は、高度に封じ込められた閉ループ製造システムで行われ、ばく露はサンプリング、移送、メンテナンス、実験室での作業中に起こる可能性が最も高いと考えられます。 さらに両物質は、サプライチェーンの下流で、製剤に使用され、プロセスケミカルとして使用され、ばく露は、移送中、(半密閉)混合/ブレンド作業中、メンテナンス/清掃作業中に起こる可能性が考えられます。 さらに両物質を含むコーティング剤をスプレー、ブラシ、ローリングまたはディッピングで塗布した場合にもばく露される可能性があります。 個別に、DMACのばく露は、繊維製造時の溶剤としての使用時、または繊維の加工工程で、吸入または経皮接触により発生する可能性が考えられます。したがって、本制限提案では両物質のいくつかの産業用および業務用用途、特に高温下での工程、開放工程、手作業が必要な工程に関するリスクは適切に管理されていないと結論づけられています。
そのため、DMACとNEPへのばく露による労働者の許容できないリスクをEU全体で防止するために、EU全体での対策が必要であると提案されました。 現状では両物質は自由に取引され、EUの全加盟国で使用されています。 EUレベルでの行動は、両物質およびこれらの物質を含む製品のすべての生産者、輸入者、使用者にとって「公平な競争条件」を確保する必要があります。 本制限提案では、長期吸入・経皮DNELを義務付けることを目的とした制限と、DNEL以下のばく露を保証する運用条件とリスク管理手段の実施義務を組み合わせたものが、最も適切なEU全体の措置であると提案されています。 以上のような検討経緯を経て、冒頭の制限事項が提案されました。
2. 水素化テルフェニル(Terphenyl, hydrogenated) (EC 262-967-7, CAS(R)61788-32-7) 3)
別名として水素化トリフェニルとも呼ばれます。 本制限提案はイタリアから提出され、水素化テルフェニルを混合物及び成形品又はその部品に使用することを制限することを目的としています。
今回、提案された制限事項は以下のようです。
a)発効後18ヶ月から市場に出してはならない。
i) 単体で物質として
ii) 0.1%w/w以上の濃度で他の物質の構成要素として、または混合物中に含まれる。
iii) 0.1%w/w以上の濃度で水素化されたテルフェニルを含む成形品またはその部品において、0.1%w/w以上の濃度で水素化されたテルフェニルを含む。
b)ただし、環境汚染を防止するための技術的な封じ込め対策を施した場合は、第1項は適用されない。
c)航空機およびそのスペアパーツの製造のための可塑剤用途での使用および同上上市については、発効後5年間は第1項を適用しないものとする。
この制限により、0.1%w/wを超える濃度の本物質の製造、使用、上市ができなくなります。
本物質は極めて難分解性で高い生体蓄積性を有する物質(vPvB)であることから、欧州化学品庁(以下:ECHA)により2021年4月21日に高懸念物質(SVHC)に指定されました。 またECHA は2021年4月14日にREACH 規則の付属書ⅩⅣ(認可対象物質リスト)への掲載を勧告しています。 本物質はテルフェニルとクオーターフェニルの異性体、およびそれらの水素添加物を含む複合物質です。 それらの物質は、組成が未知か又は不定な構成要素をもつ物質、複雑な反応生成物、又は生体物質であるUVCB物質です。
本物質は欧州連合(EU)では製造されておらず、物質として、混合物および成形品としてEUに輸入されています。 2020年の輸入量は7,500トンと推定されています。 主な用途は高温用熱媒体(以下:HTF)であり、年間使用量の約90%を占めています。HTFは熱の伝達のために特別に製造された液体または気体です。 例として、熱交換器を通して冷たい流れに熱を伝え、熱源(ヒーター)に戻す再循環流体として使用されます。 本制限提案では、HTFの用途での使用は閉ループ製造システムによるものであり、排出は制限されていると結論付けています。 HTF以外の用途としては、ポリマー用途、接着剤およびシーラント、コーティング剤、充填剤、パテおよびプラスターにおける可塑剤として使用されています。 産業分野としては航空宇宙産業や、可塑剤はケーブル産業でも使用されています。 SCIPデータベースには、本物質を含む合計12,000以上の成形品が通知されています。 一方、HTF以外の用途で、特に可塑剤として使用される場合、様々なライフサイクルの場面で環境中に放出される可能性があり、HTFと可塑剤について比較リスク評価を行った結果、可塑剤用途がHTF用途よりもはるかにリスク管理上重要であると結論付けられました。 本制限提案では、HTF以外の用途において、環境に対する許容できないリスクが確認されているとされており、最も懸念される用途である可塑剤と成形品の廃棄物のライフサイクル段階での本物質の環境中への放出を防止することを目的としています。本制限提案では、排出を制御できる状況での用途、すなわち熱伝達流体や、航空機とそのスペアパーツの製造における可塑剤としての本物質の用途のような、より高い社会経済的影響を持つ用途についての制限緩和を提案しています。
(中山 政明)
引用
1) 提出された制限事項の検討状況
2) N,N-ジメチルアセトアミド物質詳細
3) 水素化テルフェニル物質詳細
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