2023年01月27日更新
化学物質管理においては、規制された化学物質をサプライチェーン含めて適切に管理していくとともに、規制動向を早期に知り、対応していく活動も重要となります。世界各国の中でもEUは有害化学物質による環境汚染の防止に積極的に取り組んでおり、その法規制であるREACH 規則 (EC) No 1907/2006の動向は他の国々にも影響を与えます。Community Rolling Action Plan(CoRAP)は、REACH 規則で定められた有害性に関する物質評価のプロセスであり、化学物質の潜在的なリスクを明確にするための情報を生成することを目的としています。
2022年12月13日に欧州化学品庁(ECHA)は、CoRAPに関して2023 年から 2025 年までの 3 年間を対象とした物質評価計画であるCoRAP更新案(2023-2025)を公表しました。(1) 本コラムでは、今回公表されたCoRAP更新案について取り上げてみます。
◆CoRAPについて
CoRAPは潜在的なリスク懸念される物質に対して優先順位をつけて評価していく仕組みです。
ECHAは、REACH規則第44条(物質評価についてのクライテリア)により、登録情報から物質の使用・用途を考えた場合、人の健康や環境へ重大なリスクを生じさせないかを確認します。 リスクが考えられる場合には、ECHAはCoRAP案を作成し加盟国専門委員会の意見に基づきCoRAPを採択します。
登録情報の評価からだけでなく、加盟国は、ある物質に評価の優先事項であることを示唆する情報がある場合、いつでもCoRAPの対象物質に含めるよう通知することができます。
加盟国の通知した物質は、“Registry of Intentions”(提出されたSVHC提案)として、公表されます。(3)
CoRAPの選考基準はハザード情報(潜在的な持続性、生体内蓄積性および毒性(PBT)、内分泌かく乱、または発がん性、変異原性および生殖毒性(CMR))、使用に基づくばく露の可能性を含むばく露情報、および総登録量が対象となっています。
優先順位はハザードとばく露に関連する基準を組み合わせて使用するリスクベースのアプローチが基本となります。 加盟国とECHAはさらなる情報の収集がその物質に対する有害性を明確にするのに役立つ可能性があると判断した場合にその物質をCoRAPに含めます。
物質の評価後は新たに得られたデータを検討した後、評価加盟国が物質の使用がリスクをもたらすと判断した場合、物質評価のフォローアップ措置を進めます。 フォローアップ措置としては、以下のような内容があげられます。
・発がん性、変異原性、または生殖毒性、呼吸器感作剤、またはその他の影響など
調和のとれた分類とラベル付けの提案
・高懸念物質(SVHC)として特定する提案
・物質を制限する提案
・EU全体の職業ばく露限度の提案、国内措置、または自発的な業界行動など、
REACHの範囲外のアクション
上記のようなCoRAPに関する情報はECHAのホームページから確認することができます(3)(4)。
◆CoRAP更新案
今回提示されたCoRAP更新案は、2023 年から 2025 年までの 3 年間を対象としています。 更新案 には24の物質が含まれており、CoRAP (2022-2024) (5)と比較すると6 つの新しい物質が含まれています。2023年は24物質のうち5物質の評価が予定されています。 残りの19物質は2024年と2025年に評価される計画です。
先述した選考基準からすると注目されるのは、優先順位が高く即時評価となる2023年に評価される物質となります。 2023年に評価される物質は以下となっています。
CAS No.93925-38-3(2023年新規追加)
2-Propenoic acid, methyl ester, reaction products with mixed O,O-bis(branched and linear pentyl and iso-Bu) phosphorodithioates
CAS No. 98171-53-0(2023年新規追加)
Butanoic acid, 4-amino-4-oxosulfo-, N-coco alkyl derivs., monosodium salts, compds. with triethanolamine
CAS No. なし(2023年新規追加)
tert-butylphenyldiphenyl phosphate (tBuTPP)
CAS No. 100-61-8(CoRAP収載済み)
N-methylaniline
CAS No. 92484-48-5(2023年新規追加)
Sodium 3-(2H-benzotriazol-2-yl)- 5-sec-butyl-4- hydroxybenzenesulfonate
2023年に新規追加された6物質のうち4物質が2023年に評価する即時評価の対象となっています。 また、2023年に評価される5物質のうち4物質を新規追加された物質が占める案となっており、新たに有害性懸念が認識された物質に対し、早期に情報を収集していくという内容となっています。
なお、昨年の更新に含まれる 27 の物質のうち、現在、物質評価の優先度が低いか不要であると考えられている5 物質は撤回されることが提案されています。
これらのうち 3 つについては、コンプライアンスチェックまたは公開文献から得られたデータにより、初期の懸念を明確にするのに十分な情報が得られたと判断されています。 残りの 2 つについては、ドシエ評価プロセスで関連情報が要求されています。 これらの2物質は、ドシエ評価プロセスの終了後、ドシエ評価を通じて明らかにできる範囲を超えて懸念が残る場合、再び CoRAP に載せられる可能性があるとしています。
◆今後の予定
欧州委員会は、2023 年 2 月にこの CoRAP 更新案について意見を述べる予定です。 ECHA は欧州委員会の意見に基づいて、2023年3月21日に2023~2025 年の CoRAP 更新を採択し、公開することを目指しています。
◆最後に
ECHA は草案を公開した意図について、利害関係者に進捗状況を通知し、関係する登録者と関連する評価加盟国の管轄当局との間の早期のコミュニケーションを促進したいと説明しています。 企業における化学物質管理者は動向に関する早期の情報収集が不可欠であり、CoRAPは有害性が注目されている化学物質に関する情報収集の手段の一つとなりますので、その動向について着目しておく必要があると考えられます。
(1) CoRAP(2023-2025)更新案
(2) 提出されたSVHC提案
(3) コミュニティローリングアクションプラン(CoRAP)
(4) 物質評価後の措置
(5) CoRAP(2022-2024)
(長野 知広)
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