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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

労働安全衛生法を中心とした発がん性物質への法規制(その1)

はじめに

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号、以下安衛法)1) は、それまで労働基準法にて規定されていた労働者の安全衛生に関する内容を独立させて、1972年公布、施行されました。労働災害を防止し、職場における労働者の安全と健康を確保すると共に、快適な職場環境の形成の促進を目的としています。


その規定内容は、事業者側の整備すべき安全衛生管理体制、機械装置への規制、労働者への安全衛生教育、作業環境測定や健康診断等、健康維持のために必要な措置を含め、総合的なものですが、化学物質に対してもそれらに起因する労働災害の防止という観点から、その管理に係わる基本的な規定がなされ、日本の主要な化学物質規制法の1つとなっています。


そして現在、本法に基づく新たな考えに基づく化学物質規制の導入が進められていますが、その中でも発がん性物質に対しては、新たにがん原性物質の指定等の動きがあります。


発がん性物質に対しては、これまでにも幾つかの法規制がなされてきていますが、本稿では、これらの経緯も含めた概要について2回に分けて解説します。


1.特別規則による規制

安衛法の制定は、ラベル表示、SDSによる通知やリスクアセスメントといった、現在危険有害性物質に対する包括的な管理の基軸となっている仕組みが整備されるよりもかなり以前のことでした。 制定当時の同法における化学物質管理では、その主要な仕組みとして、特に危険性あるいは有害性が高く、それらの製造や取扱う職場における労働災害が多発している化学物質に対して、これらの管理を図るため、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)2) の第6条や別表第3~6において、具体的な管理対象とすべき業務や対象物質の種類等を指定し、これらに基づき、同法の下位法令として「特別規則」と呼ばれる下記4規則を整備し、各々遵守すべき項目を定めました。


これらはいずれも1972年、安衛法公布の後、間もなく公布、施行されましたが、対象物質の追加その他の改正を重ねつつ、現在でもなお主要な危険有害性物質管理法令として運用されています:

・特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号、以下特化則)3)

・有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号、以下有機則)4)

・鉛中毒予防規則(昭和47年労働省令第37号)5)

・四アルキル鉛予防規則(昭和47年労働省令第38号)6)

 

これら特別規則では、具体的には局所排気等設備類の整備、作業主任者の選任、粉塵・排ガス・排液等の処理、作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施、各種掲示の整備等が要求されています。


この中でも特化則は、事業者の責務を規定したその第1条において「事業者は、化学物質による労働者のがん、皮膚炎、神経障害その他の健康障害を予防するため、…」とあるように、そのポイントの1つを発がん性物質に着目した規制に置いています。


まず規制対象は、現時点で以下の計75物質あるいは物質群に対して、これらを特定化学物質として指定しています:

(i)第1類物質:がん等の慢性障害を引き起こし、特に有害性が高く、製造許可を必要とするもの。現時点で計7物質あるいは物質群。

(ii)第2類物質:がん等の慢性障害を引き起こす物質で、第1類以外の物質。現時点で計60物質あるいは物質群。

(iii)第3類物質:大量漏洩により急性中毒を引き起こす物質。有毒ガス、強酸等、現時点で8物質。


これらは全てその物質単体の他、混合物中においてそれが特定化学物質として管理対象となる含有濃度が定められています。


なお第1類物質のうち6物質、第2類物質のうち38物質の計44物質については、発がん性あるいはその恐れが認められた物質としてこれらを「特別管理物質」として指定し、それにより引き起こされる疾病の遅発性を考慮し、製造または取扱い作業の記録作成とその30年間保存(それ以外の特定化学物質では作業記録の作成および保存の義務は無し)の他、作業環境測定記録の30年間保存(それ以外の第1類あるいは第2類物質では3年間)、特殊健康診断結果の30年間保存(それ以外の特定化学物質では5年間)といったデータの長期保存を旨とした規制強化が図られています。


なお特化則以外の3つの特別規則における規制対象物質にも発がん性を有するものはありますが、特にこれらに対する特化則の様な規制強化はなされていません。


また物質によっては特化則および有機則の双方において適用対象とされている物質がありますが、これらは相互に要求事項の整合化が図られています。


2.がん原性指針

がんを誘発する性質をがん原性と言いますが、安衛法第57条の4の規定に基づき、厚労大臣の指示により、調査対象物質のラットやマウスなどへの投与による長期毒性試験(がん原性試験)が実施され、がん原性の認められた物質については、それによる健康障害を防止するための指針が公表されてきました。 これは1991年の四塩化炭素についての指針が最初で、以降物質毎に順次公表されてきましたが、これらを統合して2012年10月に公表されたものが「がん原性指針」です。7)


これは前記がん原性試験の結果を踏まえた対象物質やその取扱いについてのガイドラインを示したものであり、法的な義務を課すものではありません。


当初28物質が対象とされていましたが、その後順次追加され、現時点では40物質およびそれらを1%超含有するものが対象となっています。8)


これらの中には既に特化則や有機則において規制対象とされてきた幾つかの物質があります。 これらについては、その製造あるいは取扱い業務には、前記特別規則では適用外となっていたものがありましたが、所要の措置を執る必要が生じたために、がん原性指針対象物質として指定の上、そうした業務における使用条件変更や工程改善による作業環境管理、保護具使用やばく露時間短縮による作業管理、排気・廃液管理による事業場汚染防止、設備・装置等の操作・調整・点検、異常時の措置や保護具使用等に関する基準の策定等のばく露低減を図るための措置が提示されています。


また対象物質については、作業環境測定および記録の30年間保存、当業務に関連する労働衛生教育の実施や当業務の従事労働者に関する記録(労働者の氏名、従事作業の概要・期間、これら物質による著しい汚染発生時の概要・応急措置)の1カ月を超えない期間毎の作成及び30年間保存等が提示されています。


(以下その2へ続く)


参考URL

1)


2)


3)


4)


5)


6)


7)


8)


以上


(福井 徹)


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