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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

アスベストの光と陰

2023年09月15日更新

1.アスベストの利用

アスベスト(石綿)は、天然で繊維状を呈する鉱物で、耐熱性、耐摩耗性、耐薬性に優れ、安価に大量供給できる工業繊維原料として古くから断熱・保温材、建材、摩擦材等に利用されてきました。 その歴史は古く、紀元前からエジプトや古代ローマ等でも使用されていたことが認められています。 日本では原材料の大半は輸入され、戦後累計で約 960万トン輸入されました。アスベストは生活のいたるところで使用され、用途は3000種といわれるほど多く、その約8割は建材製品用です。 1960年代の高度成長期には、ビルの高層化や鉄骨構造化に伴い、鉄骨構造建築物等の軽量耐火被覆材や吸音・結露防止用として、吹付工法等により使用されました。 その他、内装材(天井、墜、床材)、外装材、屋根材、煙突材等の建築材料として、また工業製品として、化学プラントやボイラーの本体・配管の保温材、自動車や産業用(クレーン、エレベータ等)のプレーキライニング・プレーキパッド、タンクや配管のシール材としてパッキン等に使われていました。(1)


2.アスベストの物性と人体への影響

国際労働機関(ILO)が「アスベストの使用における安全に関する条約(第162号)」で、アスベストを「造岩鉱物に属する繊維状の珪酸塩鉱物すなわち蛇紋石族のクリソタイル(白石綿)、及び角閃石族のアクチノライト、アモサイト(茶石綿)、アンソフィライト、クロシドライト(青石綿)、トレモライト又はこれらの一若しくは二以上を含有する混合物をいう」と定義しました。(2) クリソタイルは直径が0.02~0.08µm、クロシドライトは0.04~0.15µm、アモサイトは0.06~0.35µmで、極めて細い繊維からなっています。 そのため飛散すると空気中に浮遊しやすく、吸入されてヒトの肺胞に沈着しやすい特徴があります。 体内に滞留したアスベストは肺の線維化や肺がん、悪性中皮腫等の病気を引き起こすことがありますが、どの程度以上を、どのくらいの期間吸い込めば発症するかは明らかではありません。 また発がん性は角閃石族のクロシドライト、アモサイトの方がクリソタイルより高く、アスベスト繊維が細く長いものほど有害性が高いとされています。


アスベストばく露の機会は職業性のものが最も多く、含有する製品を製造・取り扱うことや建材の解体等による直接的なばく露と、造船業や車輌製造業等繊維が飛散する環境下での作業による間接的ばく露があります。 また職業性以外にも、汚染作業着の洗濯等による家庭内のばく露、アスベスト鉱山や工場の近隣住民のばく露等があります。 アスベスト関連疾患はばく露開始から発症までの潜伏期間が長く因果関係の解明に時間を要したことや、広い分野で使用されたことが、被害者救済や使用規制等の対策が後手に回った要因となっています。


3.アスベストの規制

海外では、1960年代に米国や英国でアスベストに関する訴訟が起こる等、社会間題化し1972年には世界保健機関(WHO)やILOが発がん性を指摘しました。 また、1983年のアイスランドを皮切りに欧州の国々を中心に全アスベストが原則使用禁止となる等(EUとしては2005年に全面禁止)アスベスト使用に規制がかけられました。(3)

日本では特定化学物質等障害予防規則(特化則)等で、アスベストばく露防止対策が講じられていましたが、1975年の特化則改正で5重量%を超える濃度のアスベスト含有物を吹付作業することが原則禁止となりました。 また、1995年の安全衛生施行令(安衛令)・施行規則(安衛則)と特化則の改正で、有害性の高いアモサイトとクロシドライトの使用等が禁止となり、アスベスト含有物の濃度基準は1重量 %を超えるものに変更となりました。(4) 2004年の安衛令改正でアスベストを含有する10品目の製造等が禁止され、2006年の安衛令改正では、代替が困難な一定の適用除外製品等を除き0.1%重量%を超えるアスベスト含有物の製造等が禁止されました。 更に、解体工事等におけるばく露防止対策のため、2005年に石綿障害予防規則(石綿則)(5)が制定され(その後2020年7月に改正)、2020年6月に解体工事等での飛散防止対策の一層の強化を図るため大気汚染防止法(大防法)(6)が改正されました。 また2020年以降に輸入品(珪藻土バスマット等)にアスベストが含有されていた事案が相次いで発生したことを受けて、各国の規制内容や基準が違うことから2021年に石綿則の改正で輸入品のアスベスト含有分析の強化や報告の徹底が規定されました。(7)

(8)

4.代替材料

アスベストの代替品としては、ロックウールやグラスウール、ガラス長繊維等の人造ガラス質繊維が多く使われています。 原料はガラス長繊維とグラスウールが、ケイ砂や石灰岩、ソーダ灰等、ロックウールは製鉄高炉スラグや玄武岩、安山岩等で、これらを溶融して人為的に繊維化します。 ガラス長繊維はプラスチックの強化材等、グラスウールやロックウールは建物や設備の不燃材として断熱・保温・吸音等に使用されています。 また、繊維径はガラス長繊維で約6~15µm、グラスウール、ロックウールで約1~9µmであり、発がん性はほぼないとされています。 その他、ウィスカーやセラミック繊維等人造結晶質繊維はプレーキ等の摩擦材、断熱材、FRPの材料等に、炭素繊維やアラミド繊維等の有機繊維はブレーキ等の摩擦材、ガスケットやパッキン等に使われています。(9)


5.今後の課題

日本は各種規制や代替材料の普及等による全ての代替技術確立を受けて、2012年3月にアスベストは全面的に製造禁止となりましたが(分析用試料等を除く)、対策前に使用されたものが社会に残存しています。 今後はアスベスト含有物(建築物等)の安全な解体、適切な廃棄物処理、健康被害者の救済強化・改善が課題となります。 2020年の改正大防法で、規制対象建材の拡大や解体工事前の事前確認の信頼性確保等、解体工事での飛散防止対策が強化されましたが、今後は調査・分析・完了確認を適切かつ効率的に実施できる有資格者の育成等が課題となります。 また2006年の廃棄物処理法改正で対策が強化(非飛散性アスベストも処理方法を基準化)されましたが、処理費用抑制や無害化技術改善による再生利用拡大と埋立処分抑制が課題です。


引用


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