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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q612.欧州医療機器規制の化学物質に対する規制対応の注意点について

2021年11月19日更新

【質問】

EUMDRの対象製品を開発しています MDRでは、CMR物質やフタル酸エステル類を含有させた成形品の使用は許容されていると思いますが、そのような成形品を採用する上での留意点を教えてください。

 

【回答】

1.州医療機器規則(EU MDR)の化学物質に関する規制

医療機器規則(EU MDR)((EU) 2017/745)は、医療機器指令(Medical Devices Directive 93/42/EEC: MDD)および能動埋込医療機器指令(Active Implantable Medical DevicesDirective 90/385/EEC: AIMDD)に置き換わるもので、10章123条17附属書より構成され、EUにおけるヒト用医療機器およびその付属品の上市およびその使用に関して定めています。 た、本規則は、EU内で行われる医療機器および付属品の臨床試験にも適用されます。本規制の原文(統合版)は以下URLから確認できます。

規則における化学物質の規制に関しては、附属書 Iの10.4.項(「物質」)に定められています。規制対象物質および規制内容については、10.4.1.項(「機器の設計及び製造」)に記載されています。


2.制内容

機器から放出される可能性のある物質や粒子(摩耗粉、劣化生成物、加工残渣など)がもたらすリスクが可能な限り低減されるように、機器は設計・製造されなければなりません。また、機器、部品、使用される材料が以下に当てはまる場合、10.4.2.項に基づき正当化される場合を除き、規制対象物質が0.1重量%を超える濃度で含有してはならないとされています。

・侵襲性があり、人体に直接接触するもの

・薬剤、体液、その他の物質(気体を含む)を体内へ/体内から(再)投与するもの

・身体に(再)投与するために、そのような医薬品、体液、または気体を含む物質を輸送または保管するもの


3.制対象物質

規制対象の物質としては、CMR物質(発がん性、変異原性、生殖毒性)、内分泌かく乱作用を有する物質があります。より具体的には以下の通りです。

(a) CLP規則((EC) No 1272/2008)の付属書 VI のパート 3 のカテゴリー 1A または 1B のCMR(発がん性、変異原性、または生殖毒性のある)物質

(b) 以下のいずれかに従って、人の健康に深刻な影響を与える可能性があるという科学的証拠があると判断される内分泌かく乱作用を有する物質

・REACH規則((EC)1907/2006)の第59条に定められた手順

・殺生物性製品規則 (BPR)((EU) No 528/2012)の第5条 (3)項の第1段落に則り、委任法令が欧州委員会に採択された後、そこで定められた基準のうち人の健康に関連する基準


4.制対象物質の存在が正当化される場合

MDR規制の附属書 I の10.4.2.項の「CMRおよび/または内分泌かく乱物質の存在に関する正当性」では、これらの物質の存在の正当化は、以下の内容に基づくものとされています。


(a) 患者またはユーザーがその物質に曝される可能性の分析と推定

(b) 可能な限り、独立した研究、査読付き研究、関連する科学委員会からの科学的意見、およびそのような代替物質の利用可能性の分析を含む、可能な代替物質、材料、または設計の分析を行うこと

(c) 可能な物質および/または材料の代替品がある場合はその理由、実現可能な場合は設計の変更が、製品の機能性、性能、および利益-リスク比を維持する上で不適切である理由についての論証

(d) 該当し入手可能な場合には、10.4.3.項(「フタル酸エステル類に関するガイドライン」)および10.4.4.項(「その他のCMRと内分泌かく乱物質に関するガイドライン」)に従った最新の関連科学委員会ガイドライン


5.MR物質やフタル酸エステル類を含有した成形品に関する留意点

成形品に、CMR物質やフタル酸エステル類などの規制対象物質が0.1%超含有される場合は、附属書Iの10.4.2.項に定められている通り、これらの規制対象物質を使用する正当性が求められます。


10.4.3項に提示の「フタル酸エステル類に関するガイドライン」)に関しては、科学委員会(SCHEER (Scientific Committee on Health, Environmental and Emerging Risks))によるフタル酸エステル類についてのガイドラインの最終版は以下URLから確認できますが、2019年6月18日に採択されています。


このガイドラインではフタル酸エステル類の存在に関するベネフィット・リスク評価(benefit-risk assessment: BRA)に関して記載されていますが、医療機器に使用される可能性のある関連代替物質のBRAに必要なデータがかなり不足しているため、SCHEERとしては、製造者に対して代替物質に関する品質の高いデータの作成を促しています。また、BRAは最新のデータに基づき定期的に見直しが行われることが求められています。


また、10.4.5.項「ラベル表示」に関する規定がありますが、規制の対象となる医療機器、部品、使用される材料が、規制対象物質を0.1重量%を超える濃度で含有する場合には、その物質の存在を、機器本体、各ユニットの包装(容器)、販売用の包装(容器)に表示しなければなりません。機器の使用目的に、子供の治療、妊娠中または授乳中の女性の治療、または、このような物質に対して特に脆弱と考えられる患者グループの治療が含まれる場合、残留リスクに関する情報や、適切な予防措置に関する情報を使用説明書に記載しなければなりません。


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