top of page

当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

  • 執筆者の写真tkk-lab

Q683.EUに輸出する加工用材料の包装材に対するREACH規則付属書17 Entry51の適用について

2024年03月08日更新

【質問】

文房具の加工用材料をEUに輸出する引き合いがあります。この包装材にREACH規則付属書17のEntry51、フタル酸エステル4種(合計0.1重量%以上)は、適用されるでしょうか。

 

【回答】


包装材は、その内容物とは別に、ひとつの成形品として、REACH規則*1)の対象になります。(ECHA「成形品中の物質の要件に関するガイダンス」*2) 第2.5節「包装」)したがって、包装材についてもREACH規則付属書17 Entry51の規制が適用されるかどうか、その適用条件を仔細に検討する必要があります。


以下に述べるように、工業用に使用される加工用材料の包装材が人間の皮膚と長時間接触しない場合には、上市の制限は適用されません。


EUのREACH規則*1)の正式名称は、Regulation (EC) No 1907/2006 of The Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of Chemicals(化学物質の登録、評価、認可、制限のEU規則)です。2007年6月1日に発効し、現在もなお改正が繰り返されて維持されています。


REACH規則付属書17には、「特定の危険物質・混合物・成形品の製造・市場投入・使用の制限」を記した2列の表が掲載されています。1列目に「物質・物質群・混合物の指定」、2列目に「制限条件」が記されています。


その51番目の危険物質であるEntry51の1列目には、4種類のフタル酸エステル類が列記されています。

・フタル酸ビス(2-エチルヘキシル) (DEHP)

・フタル酸ジブチル (DBP)

・フタル酸ベンジルブチル(BBP)

・フタル酸ジイソブチル (DIBP)


同表の2列目の「制限条件」には6項あり、以下にその要旨を記します。

1.玩具・育児用品には、1列目のフタル酸エステル類を可塑化材料の0.1重量%以上の濃度で、使用してはならない。

2.1列目のフタル酸エステル類の合計濃度が可塑化材料の0.1重量%以上の玩具・育児用品を、市場に出してはならない。

3.2020年7月7日以降は、1列目のフタル酸エステル類の合計濃度が可塑化材料の0.1重量%以上の製品(成形品)を、市場に出してはならない。

4.第3項は、以下のとき適用しない。

(a)可塑化材料が人間の粘膜と接触したり、人間の皮膚と長時間接触したりしないことを条件として、工業用または農業用のみ、または屋外でのみ使用される製品(成形品)。

(b)2024年1月7日より前に市場に投入された航空機と、その不可欠な保守修理物品。

(c)2024年1月7日より前に市場に投入された自動車と、その不可欠な保守修理物品。

(d)2020年7月7日より前に市場に投入された製品(成形品)。

(e)研究室で使用する測定装置やその部品。

(f)別法令で規制される食品接触材料とその製品(成形品)。

(g)別法令で規制される医療機器やその部品。

(h)別法令で規制される電気・電子機器。

(i)別法令で規制される医薬品の直包装。

(j)第1項または第2項の対象となる玩具・育児用品。

5.(a)「可塑化材料」とは、次の均質な材料です。

ポリ塩化ビニル (PVC)、ポリ塩化ビニリデン (PVDC)、ポリ酢酸ビニル (PVA)、ポリウレタン、シリコーンゴムおよび天然ラテックスコーティングを除くその他のポリマー(特に、ポリマーフォームおよびゴム材料を含む)、表面コーティング、滑り止めコーティング、仕上げ、デカール、印刷されたデザイン、接着剤、シーラント、塗料、インク。

(b)「人間の皮膚との長時間の接触」とは、1日あたり10 分を超える継続的接触、または、30 分を超える断続的な接触。

(c)「育児用品」とは、睡眠・リラクゼーション・衛生・子供の食事・子供の吸引を促進することを目的とした製品(成形品)。

6.「航空機」とは次のいずれかを意味します。

(a)民間航空機

(b)軍用機

ご質問の包装材の可塑化材料がフタル酸エステル類を0.1重量%以上含有している場合でも、

・文房具の製造工場で使われる加工用材料なので、玩具・育児用品ではありませんから、第1項と第2項には当てはまりません。

・第3項に従う必要がありますが、第4項(a)の条件が満たされれば適用除外になります。


なお、REACH規則付属書17 Entry51に挙げられた4種のフタル酸エステル類はいずれも、REACH規則第59条(10)に規定されている「高懸念物質の候補リスト(CLS)」にも収録されている物質でもあるため、その対応が必要です。

・CLS届出(REACH第7条2項)

・川下企業への情報伝達(REACH第33条)

・SCIP届出(廃棄物枠組み指令*3) 指令2008/98/EC)


参考文献

*1)EU REACH規則 Regulation (EC) No 1907/2006


*2)ECHA成形品中の物質の要件に関するガイダンス

Guidance on requirements for substances in articles  June 2017 Version 4.0


*3)EU 廃棄物指令 Directive 2008/98/EC

閲覧数:604回

最新記事

すべて表示

Q686.化審法における第一種特定化学物質としてデクロランプラスの規制が始まる時期について

2024年04月05日更新 【質問】 POPs条約のCOP11で「デクロランプラス」が附属書Aに追加することが決定されましたが、化審法の第一種特定化学物質として規制が始まるのは何時頃でしょうか。 情報があればご教示ください。 【回答】 デクロランプラスを含むストックホルム条約による廃絶物質(附属書A)収載決定は2024年2月26日に通知されました(*1)。 この通知により、1年後の2025年2月2

Q685.PTFEの成形加工部品におけるPFOAの残留可能性と化審法との関係について

2024年04月03日更新 【質問】 PTFEの成形加工部品を購入して、電子製品の組み立てをしています。 PFOAが残留していることはあるでしょうか。 この場合は、当社は化審法の使用者となるでしょうか。 ご教示ください。 【質問】 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(以下、化審法)、第1条で「この法律は、人の健康を損なうおそれ又は動植物の生息若しくは生育に支障を及ぼすおそれがある化学物質に

Q684.アメリカの「Model Toxics in Packaging Legislation」(ひな形法)におけるPFAS規制の適用について

2024年03月22日更新 【質問】 アメリカの「Model Toxics in Packaging Legislation」(ひな形法)が2021年2月改正され、PFASが追加されましたが、各州法ではPFAS規制はまだ、食品包装などの一部に限定されているようです。 当社は工業用製品(B to B)を輸出していますので、2021年のひな形法のPFASは適用されないと思っています。この解釈は正しいで

bottom of page