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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

執筆者の写真tkk-lab

REACH規則の制限に関する最近の動きについて

2022年05月27日更新

欧州委員会(EC)は、欧州グリーンディールの一環として、「有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略」(1)を発表しています。 この戦略は有害物質のない環境をもたらし、危険な化学物質から人々と環境を保護するためのいくつかの行動を提示しています。 その中でも特に「リスク管理への一般的なアプローチ」を確立することを目標としており、法律で明確に定義された条件下で制限付きの免除を許可しながら、特定のユーザー向けに製品内の特定の物質を制限することを目指しています。 つまり、化学物質の有害性を特定したうえでREACH規則などの法律で有害化学物質の使用を的確に規制することを目指しています。 戦略のゴールとしては、2027年までにすべての登録物質にリスク管理または新たなデータ生成の優先順位を付けることをあげています。 このような背景のもとREACH規則の制限に関していくつかの動きがみられています。


◆欧州委員会(EC)が制限ロードマップを公表(2)

欧州委員会は2022年4月25日に制限ロードマップとして、今後、優先的にREACH規則における制限について評価していく化学物質(グループ)のローリングリストを公表しました。 この制限ロードマップは目的として以下の3点をあげています。


①透明性を保ちながらタイムリーにREACH規則の制限に関する検討を遂行する。

②ローリングリストを通じて、有害性が懸念される物質について、入手できる利用可能な情報としてその概要を提供する。

③当局による制限作業について利害関係者に透明性を提供し、企業が(潜在的な)今後の制限を予測できるようにする。


公表された制限ロードマップは、附属書Ⅰ、附属書Ⅱからなり、それぞれ以下の内容が掲載されています。


附属書Ⅰ(制限について評価される物質(グループ)のローリングリスト)

附属書Ⅱ(REACH規則第69条2項に基づく評価の概要)


ローリングリストの附属書Ⅰは、現状における制限の規制可能性を示す物質(のグループ)について、3つのプールに分けています。


プール0:制限に関するRegistry of Intention(RoI)に収載があり、ECHAからの委任などにより、制限に関する書類が提出されている物質(14物質(グループ))


プール1:制限のためのRegistry of Intention(RoI)に収載がないが制限に関する書類作成が計画されている物質(8物質(グループ))


プール2:加盟国、委員会、ECHAが関与する作業部会で制限が潜在的な規制管理オプションとして議論されている物質(19物質(グループ))。


制限ロードマップのローリングリストに記載する物質の特定は、REACH規則の登録書類やCLP規則に基づく分類などを情報源として使用します。 また、欧州委員会、加盟国、および欧州化学品庁(ECHA)が独自に行う評価もデータとして活用するとしています。 ECHAは2019年以降、統合規制戦略をすすめており、主な目標の1つとしてEUの規制リスク管理を必要とする物質のグループを特定し、優先順位を付けることをあげています。 このグループ評価は成果をあげており、2021年10月までに、125を超えるグループの3000を超える物質を調査した結果、400を超える物質が、さらなる規制リスク管理(主に調和のとれた分類とラベリングを含む)が必要であると特定しています。 これらの物質のうち200以上については、リスク管理手段として制限または制限と認可の組み合わせが推奨されており、制限ロードマップに記載される物質の基礎の一つとなっているものと考えられます。


なお、2021年12月に公表された評価(グループの)物質の規制リスク管理活動の必要性に関する結論は、加盟国当局および委員会の活動調整ツール(ACT)で入手が可能で公共活動調整ツール(PACT)としてECHAのWebサイトで公開されています(3)。


今回、制限ロードマップとしてローリングリストに記載された物質は、最も有害と位置づけられる物質(CMR、PBT、vPvB、内分泌の基準を満たすもの)を優先しており、新しい制限の導入と現在の制限の修正について規定したREACH規則第68条に基づくものとしています。 ただし、公表された制限ロードマップは、法的拘束力がなく、ローリングリストは定期的に見直され、さらなる調査により予想される規制リスク管理措置の変更につながる可能性があるともしています。 一方で、現状で制限による規制が早期に導入される可能性のある物質(グループ)としてピックアップされているとも捉えられるため、企業の担当者においてはその更新も含めその動向について注目しておくべき物質リストと考えられます。


◆ビスフェノール類をグループ評価により、制限の必要性を特定(4)

先述したようにECHAは統合規制戦略の中で化学物質の有害性について特定する方法として、グループ評価を導入しています。 グループ評価は物質の構造に着目し関連する物質を一つのグループとして評価する方法です。(2022年1月14日付当コラム参照(5)) グループ評価を行う主なメリットとして、一貫性のある規制や規制措置が必要な物質とこの段階でこれ以上の措置が必要でない物質をより迅速に特定することなどがあります。

このグループ評価を活用した具体的な動きとして2022年4月8日(提案は2022年10月に延期)にドイツから4,4'-isopropylidenediphenol (ビスフェノール A) ならびに環境に対する内分泌かく乱特性を有する他のビスフェノールおよびビスフェノール誘導体に関する制限が公表されました。 提示されている制限内容は以下のような内容です。


A)添加剤としての使用を制限し、成形品中の含有量を制限する(0.02重量%)。

B)成形品中の残留物(未反応モノマー)の含有量を制限する(0.02重量%)。※輸入品含む

C)厳密に管理された条件が保証されない工業的および専門的な使用、例えば非自動化プロセスおよび消費者使用のための0.02重量%の含有量を有する混合物の使用を制限。

D)耐用年数(風化、洗浄作用による浸出)中の物品(製品およびサブアセンブリ)からのBPAの放出速度を導入し、環境への放出および/または生物への(直接)移動を防止する。


この制限案は今後、提案されて検討されていく見込みです。 規制内容もさることながら、仮に発効した場合、30以上のビスフェノール類が対象となるとされている点が注目されます(対象の物質は検討中)。 つまり、グループ評価に基づく提案となるため、従来と異なり対象物質が一度に大幅に増加することが想定されます。 今後はこのようなグループ評価に基づく規制案が増加していくと考えられるため、対象となる企業は例えばビスフェノールを別のビスフェノールに置き換えるなどのいわゆる残念な代替を避け、本質的な対策を求められることになります。


◆さいごに

欧州委員会(EC)とECHAは「有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略」の達成に向けて化学物質の評価に関する優先順位付けとグループ評価による作業の効率化を推進しています。 2022年5月に公表された「統合規制戦略年次報告書(2021年)」(6)では、グループ評価などで作業の効率化を進めたことにより未評価の化学物質が18,341から17,126へ減少したと2020年の年次報告書に続きグループ評価の成果を強調しており、EUの化学物質規制においてグループ評価は今後も存在感を増すと予想されます。企業の担当者におかれましては、「制限ロードマップ」などで規制の動向をタイムリーに把握するとともに、グループ評価の考え方などを踏まえ、物質の構造から有害性について予測し、代替品を検討するなど予想される規制に対して先手を打っていく活動も重要になってくるように思えます。


(1) 有害物質のない環境に向けた持続可能な化学物質戦略


(2) 制限ロードマップ


(3) Public Activities Coordination Tool:PACT


(4)ビスフェノール類に関する制限提案


(5) EU ECHA化学物質のグループ評価に基づく規制ニーズ評価結果ついて


(6) 統合規制戦略年次報告書(2021年)


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