2022年06月10日更新
2020年10月に公表された持続可能な化学物質戦略(Chemicals strategy for sustainability:CSS)の活動項目の1つとして、「REACH規則に基づき制限に向けて、発がん性・変異原性・生殖毒性(CMR)や残留性・蓄積性・毒性(PBT)、極めて高い残留性・蓄積性(vPvB)、内分泌かく乱、免疫毒性、神経毒性、特定標的臓器毒性、呼吸器感作性を有する物質を優先するためのロードマップの作成」が挙げられていました。
これまでの検討結果を踏まえ、欧州委員会(EC)は4月25日に、初版となる「制限ロードマップ」が公表1)されました。
1.位置づけと目的
持続可能な化学物質戦略(CSS)では、上記のような特性を有する最も有害な化学物質から消費者等を保護するために、消費者製品中にそれら最も有害な化学物質を含まないようにしていくことが挙げられていました。 また、そのための方法として、例外的に含有を認めるエッセンシャルユースの設定や、物質単位から物質グループ単位での検討等が進められており、その一環として上記のような特性を有する物質に対して優先的に規制化するための制限ロードマップが作成されました。
公表された制限ロードマップ2)は、「スタッフ作業文書」として位置づけられているため、法的拘束力を有する文書ではありませんが、CSSで言及された内容を確実に実施することや、当局のリソース把握、制限検討に関する利害関係者への透明性の向上が目的となっています。 また制限ロードマップは、今後、原則1回/年で見直されることが想定されており、現在ロードマップに収載された物質が削除されたり、未収載の物質が追加されたり、加盟国が未収載の物質を制限提案することもあり得ます。
2.物質リストの構成
今後制限が検討されることが見込まれている物質は、制限ロードマップの附属書Iに収載されています。 物質はプール0~2の3つに区分されており、物質ごとに対象となる物質数や対象とする有害性、用途範囲、備考、制限提案文書の提出予定時期などが明示されています。
まずプール0は、2022年末までに制限提案文書を提出する意向が提出されている物質や、ECが欧州化学物質庁(ECHA)に制限提案文書の作成を指示している物質など「すでに制限の検討が開始されている物質」であり、次の14物質が収載されています。
【ECの作成指示による検討】
・消火剤中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)類(制限提案提出日:2022年1月14日)
・中鎖塩素化パラフィン類(MCCP類)(2022年7月15日)
・クレー射撃の的に使用されるコールタールピッチ中の多環芳香族炭化水素(PAH)類(2021年10月31日)
・散弾および釣り用錘中の鉛(2021年1月15日)
・ポリ塩化ビニル(PVC)中の鉛化合物(2016年12月16日)
【日没日を経過した認可対象物質に関する検討(REACH規則第69条(2))】
・輸入成形品中の2,4-ジニトロトルエン(2021年7月16日)
【加盟国の提案に基づく検討】
・PFAS類(2023年1月13日)
・N,N-ジメチルアセトアミドおよび1‐エチル‐2‐ピロリドン(2022年4月8日)
・デクロランプラス類(2021年4月9日)
・ビスフェノールAとその構造類似体(環境有害性について)(2022年10月7日)
・水素化テルフェニル(2022年4月8日)
・使い捨ておむつ中の有害物質(2020年10月9日)
・ウンデカフルオロヘキサン酸(PFHxA)とその塩類および関連物質(2019年12月20日)
・クレオソート油(2022年2月1日)
次にプール1ですが、これは「まだ制限提案意向が提出されていないが予定されている物質」であり、ECの作成指示による検討予定として次の8物質が収載されています。
・PVCおよびその添加物(2022年)
・育児用品中のCMR物質(2022年)
・3種の有機りん系難燃剤(トリス(2-クロロエチル)=ホスファート(TCEP)、りん酸トリス(1‐メチル‐2‐クロロエチル)(TCPP)、りん酸トリス[1‐(クロロメチル)‐2‐クロロエチル](TDCP))(未確定)
・オルト-フタル酸類(C4~C6)(2023年)
・3種のクロム酸鉛類(クロコイトおよびクロムイエロー、モリブデンレッド)(未確定)
・感熱紙中の物質(2022年)
・ビスフェノールAとその構造類似体(健康有害性について)(2022年)
・難燃剤(2023年)
最後のプール2は、制限提案意向の前段階である規制管理オプションにおいて「制限」の可能性が議論されている物質や過去の調査等において現状の制限内容の見直しの必要性が指摘されていた物質など、今後「制限の可能性がある物質」であり、次の18物質が収載されています。
【規制管理オプションで制限の可能性が議論されている物質】
・ホルムアルデヒドおよびホルムアルデヒド放出剤(未確定)
・消費者製品中の鉛(未確定)
・ほう酸塩類(未確定)
・消費者向け化学品中の皮膚感作性物質(未確定)
・4-tertブチルフェノールや4-ノニルフェノールなどのアルキルフェノール類(未確定)
・消費者および専門家向け化学品中の石油系物質(未確定)
・充填材中の物質(未確定)
・肥料中の物質(2023年)
・子供の遊び場やその他用途の顆粒剤中のPAH類(未確定)
・ホルムアミド(未確定)
・直接かつ長時間接触することを意図した成形品中のニッケル(未確定)
【日没日を経過した認可対象物質に関する検討(REACH規則第69条(2))】
・輸入成形品中の1,2-ジクロロエタン(未確定)
・輸入成形品中のアントラセン油(未確定)
・輸入成形品中のコールタールピッチ(未確定)
【リスク管理提案として調和化した分類・表示(CLH)や認可対象候補リスト収載物質(CLS)が検討されており、さらに制限の可能性がある物質】
・ピラゾール類(未確定)
・マンガン化合物(未確定)
・バナジウム化合物(未確定)
・アクリル酸類およびメタクリル酸類(未確定)
なお、制限ロードマップの附属書IIにはREACH規則附属書XIVに収載済の物質(認可対象物質)のうち、4月に追加された5物質を除く、54物質について、REACH規則第69条(2)に基づくECHAによる輸入成形品のリスク評価の状況やその結論が示されています。
3.最後に
今回公表された制限ロードマップは法的文書ではなく、また、あくまでも現時点での状況を整理したもので、今後も定期的に見直されるため、確定した情報とは言えません。 またプール0についてはすでに制限検討が開始されており、この情報は従来からECHAの制限提案意向のページ3)で確認することができました。 ただし、現時点での当局の見解ではあるものの、プール1および2については、従来よりも早い段階から将来的に制限が課される可能性のある物質を把握することができ、企業にとっても有用な資料と言えます。
制限ロードマップをはじめ、CSSで言及されていた活動項目が着々と進展していることが伺えます。
1)EC ニュースリリース
2)EC 制限ロードマップ
3)ECHA 制限提案意向
(井上 晋一)
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