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当解説は筆者の知見、認識に基づいてのものであり、特定の会社、公式機関の見解等を代弁するものではありません。法規制解釈のための参考情報です。

法規制の内容は各国の公式文書で確認し、弁護士等の法律専門家の判断によるなど、最終的な判断は読者の責任で行ってください。

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玩具安全指令における改定の動き

2022年09月05日更新

玩具の安全性に関する指令(玩具安全指令2009/48/EC)は、子供たちへの保護を目的として、EU域内および第三国で製造された玩具がEU域内で上市前に満たさなければならない安全性およびその他の要求事項を定めています。 この指令は、要件を満たした玩具が域内市場を自由に移動できるようにすることで、EU単一市場内での玩具の自由な移動を保証することを目的としています。


玩具における化学物質によるリスクから子供たちへの保護を強化することを目的として、欧州委員会は玩具安全指令の改定に関するイニシアチブの事前影響評価1)を公表し、その後、利害関係者に意見を求める公開協議が行われました2)。 さらにこの公開協議の結果概要3)が2022年7月18日に公表されています。 今回のコラムでは、これらの内容を説明します。



1.玩具安全指令2009/48/ECの評価

玩具安全指令の改定に関するイニシアチブは、過去に行われた玩具安全指令の評価4)に基づいています。 玩具安全指令の評価は、指令の適用に関する加盟国による報告および、指令の有効性、効率性、関連性、その他の法律(EUか加盟国の国内法かを問わず)との一貫性、EUの付加価値に関して指令の実績を分析した外部調査などの情報を統合し、指令の実績を評価しています。


玩具安全指令の評価報告5)においては、玩具安全指令の有効性は、「玩具」の定義が明確になったこと、使用が制限されている化学物質に関する安全要求事項が大幅に増えたことによって、以前の指令に比べて向上しているものの、この指令の有効性はいくつかの点、特に化学物質に関する点で不十分であると説明されています。


玩具に含まれる化学物質については、具体的な規制値を設定することができますが、この規制値は生後36ヶ月未満の子供向けの玩具と、口に入れることを意図した玩具にのみ適用されています。 子どもが36ヶ月以降に成長した場合、あるいは口に入れることを意図していない玩具であっても、化学物質が毒性を有する面では変わらないため、この点では指令の効果は限定的であるとしています。


また、発がん性、変異原性、生殖毒性(CMR)を有する化学物質の原則禁止については、現在の科学的知見では有効な保護を確保できないほど高濃度の含有を許容する緩和措置が講じられているとしています。


さらに評価報告では以下のような点も指摘されています。


・化学物質以外の危険に対する指令の安全要件は、その有効性について加盟国や利害関係者との間で大きな議論にはなっていないため、容易に適用が可能であると見込まれる。

・域内市場に関する指令の有効性は解釈の違いや各国の逸脱が多少あるものの、すべての関係者からは高い評価を得ており、指令の完全適用が始まって以来、市場は活況を呈している。

・指令では一般的な監視義務を定めているに過ぎず、市場監視の効果は限定的である。

・玩具に関わる事故や傷害の減少といった重要な指標のデータが入手できないため、指令の効果を定量化することは非常に困難である。

・指令は(身体的)健康と安全の保護に重点を置いているため、子どものプライバシーと安全性を損なう可能性のあるインターネットに接続された玩具は対象外となっている。

・指令は、加盟国の一般的な報告義務のみを規定しているため、指令の影響を詳細に把握することができない。

・指令と他のEU法や国内法との整合性は確保されている。例外として、加盟国のなかには、特定の化学物質に対してより厳しい規制値が設定されている場合もある。(欧州委員会は正当であることを認めている。)


2.玩具安全指令の改定に関するイニシアチブの事前影響評価

玩具安全指令の改定に関するイニシアチブの事前影響評価では、上記評価で結論づけられたように、CMR物質以外の危険物質(内分泌かく乱物質や難分解性・生体蓄積性物質)の規制アプローチの欠如や36ヶ月以上の子供への化学物質のリスク、CMR物質の緩和要件について言及したうえで、化学物質のリスクから子どもを確実に保護するための玩具安全指令の要件は不完全であると説明しています。


さらに、持続可能性のための化学物質戦略で強調されているように、指令には複数の化学物質に同時にさらされることによる化学物質の複合影響から保護するための要件が欠如していること、子供と「コミュニケーション」する人形やロボットなど、インターネットに接続された玩具から生じる個人データやプライバシー保護といった新しいリスクが生じていることについても問題点に挙げています。


以上を踏まえた上で、欧州委員会は玩具の安全規制、特に化学物質に関する規制を改善するために、以下のような改定案を検討するとしています。


・現在、指令に組み込まれている一般的なリスク評価手法を内分泌かく乱物質や難分解性、生物蓄積性の物質など他の危険な物質にも拡大する。

・CMRの一般的な禁止事項の適用除外を改定する。

・36ヶ月未満の子供向けの玩具だけでなく、あらゆる玩具における化学物質の規制値を設定できるようにする。

・着色料や保存料など特定の物質に対するポジティブリスト(使用を認める物質のリスト)を制定する。

・デジタルラベリングを含む、玩具の化学成分表示に関する要求事項を設定する。

・他のEU法(無線設備指令や一般データ保護規則など)でまだカバーされていない場合、人工知能を含む玩具、最近出現したインターネット接続型の玩具における新しいリスクに対応する。

・現在、他の法律で定められている、指令と同様に玩具の安全性を確保することを目的とした化学物質の制限値を指令に統合、またはそのような制限値の表現方法を統一する。


さらに、欧州委員会は玩具の安全規制の遵守と施行を改善するために、以下のような措置の可能性を検討するとしています。


・執行を迅速化し、公平な競争条件をより確保するために、玩具の製造者の適合性文書を含むデジタル製品パスポートを義務付け、現行のEU適合性宣言の代わりとする、あるいはそれに代わるものとする。

・単一市場の整合性を維持しつつ、突発的に発生するリスクに対処するための迅速なメカニズムを設置する。

・すべての加盟国で規制を適時かつ同時に適用するために、指令を規則に変更する。

・安全でない玩具に関する加盟国による報告義務と規制の適用を改善する。


3. 玩具安全指令の改定に関する公開協議と結果概要

上記提案事項に関して、利害関係者からの意見を求める公開協議(2022年3月5日から12 週間)が行われました。


今回の意見募集では196人の回答が提出され、回答者の割合として最大のグループは企業およびビジネス組織(34%:66人)でしたが、EU 市民 (22%:44人)、公的機関 (16%:31人)、およびビジネス団体 (12%:23人) も比較的多いグループとなっています。 次いで消費者団体 (6%:12人)、NGO (5%:10人)、環境団体 (1.5%:3人)、学術研究機関 (1%:2人) となっています。


2022年7月18日に公表された結果概要では、化学物質に対する要求の厳格化、他のリスクからの子供の保護、単一市場といった観点からアンケート事項と回答の内訳がとりまとめられています。 今回は化学物質に対する要求の厳格化に関する結果に注目します。


・化学物質に対する要求の厳格化について

規制が玩具の化学物質に対してより厳しい要件を設定する必要があることに賛成するかどうかという質問に対して、回答者196 人中 84 人 (43%) がより厳格なルールの設定に強く賛成し、さらに 32 人 (16%) がより厳格なルールの設定に賛成しており、より厳格なルールを支持していることを示しています。いっぽうで強く反対している回答者は17 人で全体の9%となっています。


(1)有害化学物質に対する規制の考え方

健康リスクをもたらす様々な化学物質について、玩具安全指令はどのように取り扱うべきかという質問に対して、85%以上の消費者・環境団体が、内分泌かく乱物質や免疫系かく乱物質が予防的に禁止されることを要望しています。


また、85%以上の公的機関は、これらの物質が玩具安全指令で扱われることを望んでいますが、産業界では70%以上が玩具に含まれた場合に安全ではないと科学的に評価された後でのみ禁止されるべきであると回答しています。


(2)例外規定

玩具安全指令は、一般的な禁止事項の対象となる化学物質の存在を例外的に認めるべきであるか否かという質問に対して、比較的多くの回答者は一般的な禁止事項の例外を認めるべきではないと考えています「公的機関の35%(31人中、強く賛成3人、賛成8人)」、「消費者・環境団体50%(61人中、強く賛成26人、賛成5人)」。いっぽうで、産業界の回答者の73%は反対しています(89人中、強く賛成しない55人、賛成しない11人)。


回答者は、例外が認められる背後にある理由に応じて、例外に対する認識が異なっています。 代替品がない場合、または使用される化学物質が玩具の特定の用途において人の健康に安全であると(科学委員会によって評価された)認められた場合に、多くの回答者は例外を支持しています「産業界の91%(89人中、強く賛成62人、賛成19人)」、「公共機関の68%(31人中、強く賛成15人、賛成6人)」、「消費者・環境団体の39%(61人中、強く賛成1人、賛成23人)」。


(3)36ヶ月未満の子供向けの玩具に対する要件

年長の子供と比較して年少の子供 (36ヶ月未満) 向けの玩具に含まれる化学物質について、異なる要件を玩具安全指令で引き続き設定する必要があるかどうかという質問に対して、回答者のほぼ半数「産業界の90%(89人中 81 人)」、「公的機関の50%(31人中 15 人)」、「消費者・環境団体の48%(61 人中 30 人)」が賛成しています。


玩具安全指令は、新しい科学的知見が得られた場合、あらゆる玩具に含まれる化学物質について新たな要求事項を設定することを認めるべきかという質問に対しては、「消費者・環境団体の92%(61人中56人)」、「公的機関の94%(31人中29人)」、「産業界の68%(89人中61人)」が賛成または強く賛成しています。



4.まとめ

玩具安全指令の改定の目的は、玩具に含まれる可能性のあるリスク、特に化学物質からのリスクに対する子どもの保護をさらに強化し、玩具の単一市場をさらに完全なものにすることです。改定の背景には、玩具安全指令の評価で検出された指令の問題点とともに、オンラインで製品を販売している非EU 諸国の一部の製造業者がEUの規制に準拠していないことも挙げられます。 EUセーフティゲート6)(危険な消費者製品に関するEUの警告システム) によると、玩具は 2020 年に最も通知された製品カテゴリ (全通知の 27%) となっています。 これらの市場監視を強化することも含めて、消費者や公共機関と産業界の意見が分かれる化学物質における規制強化のアプローチや例外規定がどのように具体化されていくのか注目されるところです。


(柳田 覚)


1) 玩具安全指令の改正のイニシアチブにおける事前影響評価


2) 玩具安全指令の改正における公開協議


3) 玩具安全指令の改正を支持するオンライン公開協議の結果概要


4) 玩具安全指令の評価のイニシアチブ


5) 玩具安全指令の評価のエグゼクティブサマリ


6) EUセーフティゲート


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